マネージャの責務

管理の対象は本来物ででしかなく、人も人によって構成される組織も管理の対象ではない。日常ビジネス体験を裏付けるかのように英語の辞書でManageを引くと、「厳しい状況のもとで目的を達成するためになんとかやってゆく」ことと記載されている。以下はManageする人の意味であるManager = マネージャの責務についてであって、管理職の責務ではない。管理職とマネージャは本質的に全く異なる職責だ。
多くの反論があるのを承知で、マネージャの責務は極論すれば次の二点に集約されると考えている。まず、第一に自分が率いる部隊が自由、闊達に任務を遂行しうる仕事の環境を提供する。この視点からマネージャはサーバントリーダと言ってさしつかえないだろう。ぴったりした例が思い浮かばないのだが、例えば野球の監督は野球をしない、野球をするのは選手だ。監督として試合に勝つために様々な手は打つし、選手に指示を出す。勝ったとしてもお立ち台にあがるのは選手で監督じゃない。第二は、自分がいなくなっても、次の、新しい環境に適応し、できればそれを先取りするかたちで、自己成長を図ってゆくことができる体制、文化を作り上げること。要は、いなくなるために仕事をしているという自覚が求められる。たとえ自らが作り上げた組織であっても、いつまでもその組織にしがみついているようではマネージャ失格と言わざるを得ない。作り上げたものを次の世代に渡して自らは次のきついミッションの遂行にとりかかる。
第二の要件は数年かけて準備することになるが、第一の要件は日々その手腕を問われる。 第一の要件の一例として上部組織から下りてきた来期の販売目標を考えてみる。 前期比15%売上増を目標された今期ですら目標に達するか微妙な状態のなかで、来期は新製品もないのに、今期比20%の売上増を要求されている。市場は成熟市場でよくても現状維持しか期待できない。このような環境下で部下の営業マンにただただ頑張れとはっぱをかけたところで成長も望めないばかりか、しばし部隊が疲弊するだけの結果となりかねない。中間管理職である営業マネージャとしては、営業部隊が20%増の売上げを目標として掲げてもおかしくない、ちょっと頑張れば達成可能な目標ででしかない環境を営業部隊に提供する責任がある。
今までと同じようなことを同じようにやっていたら多分同じような結果になるのは目に見えている。環境改善に当たって、まず、視点を売上を20%伸ばすという考え方から営業部隊の生産性を20%伸ばすと切替えることから始めることをお勧めする。こう考えることで、多少は具体的に何をしたらよいのか見当がつき始めるはずだ。
営業部隊が本来の営業の仕事である−注文をとる−こと以外に、例えば、営業活動付帯業務に、環境整備に時間と労力をとられすぎていないか?営業が営業の仕事に専念できる環境を提供してもらえているか?営業部隊には極力営業本来の仕事に専念してもらい、周辺の仕事は別部隊でその専門家部隊に任せる体制をとらなければ、いつまでたっても営業部隊の生産性は上がらない。
この環境を作り出し、営業部隊に提供するのはマネージャの責務だ。この責務を理解せず、環境を提供することなく営業マンを激励するだけの能力の方々はマネージャではなく、ただの管理職だ。