グローバリゼーションに対応する

製造業の製造拠点の海外移転、海外生産拠点の強化が続いている。最終製品メーカの進出に続いて部品メーカ、素材メーカも最終製品メーカの後を追うように海外生産を増強している。これらの企業に何らかの製品を販売していた企業の営業部隊の視点でみると、客とその客、そのまた先の客までが全部ではないにしろ自分達の手の届かない営業テリトリに出て行ってしまったことになる。企業としても客が海外に持って出て行ってしまったかたちになった売上げを客の進出先の国においても売上げとして確保しないと、日本から流出した売上げが総売上げの純減となってしまう。客のグローバリゼーションに対応した営業、サービス体制の確立なくして将来の事業展開はないと言っていいだろう。 ここで、特例としてではなく、頻繁に客が複数の国にまたがる営業展開をしなければならない場合に、しばし見落としがちな営業体制について言及したい。
話しを分かり易くするため簡単な例を仮定する。自社は制御装置メーカ、顧客は製造設備メーカ、エンドユーザ(客の客)は米国自動車メーカとする。製造設備の基本仕様、技術評価は自動車メーカの本社(例えばデトロイト)で行われる。自動車メーカとして導入後の製造設備の保守作業を円滑に行うため、希望する制御装置メーカを製造装置メーカに要求する。そのため、制御装置メーカの営業部隊は注文を出す可能性のある製造装置メーカへの営業活動と平行して自動車メーカの標準採用を目指してデトロイトの自動車メーカの本社への営業活動を展開しなければならない。製造装置メーカがデトロイト地区を担当する営業部隊のテリトリにあることは希で、しばしば、日本、あるいはドイツをはじめとするヨーロッパにある。二つ以上の営業部隊が情報交換を蜜にしないと、競合各社に商機をさらわれるだけでなく、例え受注にこぎつけたとしても知らぬ間に自社内(営業拠点間)で競合させられていたなんてことにもなりかねない。
このような営業展開をしたときの問題は、デトロイト担当の営業の評価にある。デトロイトで自動車メーカへのスペックイン(標準採用)が成功して初めて製造装置メーカからも実質の引合いが出てきて、受注に結びつく。しかし、受注するのは製造装置メーカ担当の営業部隊であって、デトロイト担当営業部隊の受注額はゼロだ。営業部隊の評価を単純に直接受注した額ですると、最も大きな貢献をしたデトロイト担当の営業部隊は全く評価されないことになる。
企業として単純に直接受注額で営業部隊を評価しながら、営業部隊に部隊間の協力しろ、情報交換を密にしろと指示がでたところで、デトロイト担当営業部隊には営業活動をするインセンティブが働きっこない。彼らの貢献を評価する体系を提供しないかぎり、自らのテリトリ内で直接注文がでる案件だけしか追いかけなくなる。こうして、まるで分割統治でもされたように互いに孤立した営業部隊ができあがることになる。残念ながらこの状態とたいして違わない営業体制のままの企業がどれほど多いことか。このような営業体系による弊害を解決できるのは、また、する責任があるのは経営陣をおいて他にない。直販体制でも上記の問題がある、ましてや代理店など販売チャンネルが客との間に入るとその評価をどうするかは非常に面倒になる。面倒なだけに、逆に言えば経営陣の手腕の発揮どころでもある。
このような国をまたがるビジネスではサービス体制もグローバル化が要求される。製造ラインにかかわるビジネスではアフタサービスに不安があれば普通顧客は製品を買わない。顧客の本社はデトロイトにあるが、新設ライン導入されるのはブラジルなど発展途上国の場合もある。発展途上国市場はエンドユーザ市場でOEM市場ではない。そのため装置メーカの発展途上国販売サービス拠点は、販売拠点というより海外からの輸入製造装置に搭載されいる自社製品のサービスが主業務であることが多い。要は売上げはたいしてないが、サービス部隊がサービス要員を確保し、また必要なサービス用の製品、部品を保持するためのコストを何処から捻出するか?状況に応じて様々な方法があるが、一つは、 先に触れた営業部隊間での評価にアフタサービス部隊も加え、営業活動に貢献した販売拠点にサービスを担当する販売営業拠点も加え、受注金額の割り振りをする方法がある。
営業部隊だけでなくサービスその他の関連業務担当部隊まで有機的に結合し顧客以上に国をまたいで関係部署が協力、情報交換をするインセンティブがある環境を経営陣が提供しない限り、現場から改善が進むことはまずありえない。 多くのことがそうであるように、要は経営陣の能力が問われているにすぎないのだが。問われていることにすら気が付いていないような営業体制をよく見る。