タクシー

終電を逃してしばしばタクシーのお世話になる。ちょっと長距離なので時間がある。そこで、できるだけ運転手さんに巷の話を聞くようにしている。様々な客に接するお仕事なので、人々の日常生活に基づいた街の実感をお聞かせ頂ける。うるさい客だと思われないよう多少の注意ははらいながら、世間話に交えてタクシー業界のこともお聞きしてきた。市場調査のようにきちんとお聞きする項目などを前もって準備したわけではなく、話しの流れのなかでお聞きできたことでしかないし、また、もしかすると企業機密になるので本当のところをお話頂けなかった可能性もある。しかし、この数年でお話をお聞きできた運転手さんは多分20人以上はいらっしゃると思う。ベテランの運転手さんもいらっしゃれば、ついこの間タクシーのお仕事を始めたばかりなので、道を聞かれる方もいらっしゃった。その20名以上の運転手さんからお聞きしたことはほぼ同じなので、タクシー業界として模範解答を用意されているのか、それぞれの運転手さんが同じような環境でお仕事をなさっているのかのどちらかだろうと、そして、お話をお伺いしたときに感じからして、まず後者だろうと思っている。
タクシー業界に精通しているわけではないので、何を勝手なことを言っていると叱責を受けかねないのを心配している。タクシー業界の実情を知らないただの一利用者、市井の者の素朴な疑問と受取って頂けるようお願いしたい。また、タクシー業界を例として他業界に触れていることについてもご容赦頂きたい。
どうも、お聞きした限りでは、タクシー会社から運転手さんに、何時頃はどの地域で客が見つけ易いなどなどの指示、あるいは情報提供はないようだ。ここで言っている指示とか情報とかは例えば次のようなものを指している。タクシー会社から個々の運転手さんに、何時頃から何時頃までは、どこそこに回ってください。データでは3台分の客が見込めます。5台そちらに回ってしまうと、同僚同士で客の取り合いになりかねないので、3台までにしてください。何時から何時まではxxxイベント会場から東京駅に戻る客が望めるので、5台はそちらに回ってください。A車とB車は、何時にコンベンションが終わるので、yyy会場回ってください。。。。
多くの業界で営業成績−受注を多くするために営業部隊になんらかの組織的な支援を提供する組織があるが、タクシー業界の売り上げに相当する水揚げげはもっぱら運転手さんの個人の経験、能力、努力に委ねられているように見える。ベテランの運転手さんなら、多分日ごとの好不調はあっても月に均せば、悪くてもそこそこの水揚げをあげられるのだろう。しかし、まだ経験の浅い運転手さんは、なかなかそうは行かないんじゃないかと想像している。タクシー会社にしてみれば、一日も早くベテランの域とは行かなくても立ち上がって欲しい、一人前(失礼)になって欲しいと願っているのではないかと、これも勝手に想像している。その方が会社にとっても、運転手さんにとっても収入が増えるから。運転手さんの個人個人の努力は必須だが、会社として、組織として支援すれば、立ち上がりにかかる時間を間違いなく短くできると思うのだが、お聞きした限りでは、少なくともうちの会社にはないし、聞いたことがないということだった。
このような環境で独り立ちされた運転手さんは、多分、今の会社じゃなくて、あっちの会社でも、こっちの会社でも同じように水揚げをあげられると思っていると思う。一匹狼的な営業マンに似ている。このような方々は支援なんて面倒なものは要らない、放っておいてもらった方が気が楽だという主張になるかもしれない。
タクシー会社にしてみれば、そのような支援をして、運転手さんが立ち上がったとしても、立ち上がったとたんに他社に転職してしまうかもしれないじゃないかという不安もあるのかもしれない。支援を煙たがるベテランもいるし、立ち上がったら転職する運転手さんもいるだろう。しかし、支援がベテランの仕事をより容易にし、また、支援が立ち上がった若手がベテランに近い水揚げをあげられる手法を提供する環境を提供すれば、タクシー会社としても運転手さんにとっても働き易いいい会社にしうるだろうし、同業会社との競争でも優位に立てると思うのだが。支援の内容を決めるデータも組織で蓄積すれば、個人、個人の経験にばらばらに頼る手法より優位なのは明らかだと思うのだが。タクシー業界は、こんなことを考えること自体意味のない業界なんだと言われればそれまでなのだが。
しかし、似たような状況はタクシー業界だけで起きている訳じゃなく、他の業界でも起きていないところを見つけ出すのが難しいくらい普通に起きている。人の生産性に直接影響のある支援−教育、トレーニングをなぜ充実しないのだろう。これは偏に経営者の考えによっていると思っている。