ショーハント(改版1)

展示会の活用方法は二通りある。一つ目は、展示会の本来の使い方で、出展者として自社の製品やサービスの存在を来場者に知ってもらうことで、二つ目は、出展せずに出展者に自社の製品やサービスを知ってもらう活動がある。これは展示会本来の目的からは外れるが、新しい市場を開拓するときに有効な手段として使える。
顧客になりそうな客に自社の出展小間に来てもらえれば、製品やサービスを紹介しやすいが、出展していなくても、簡単な資料を用意して出展者に初期レベルの営業活動ができる。
制御装置メーカにいたときは、開拓しようとしている業界の展示会があれば、市場のプレーヤを確認するために、あわよくば後日製品紹介すべき担当者を聞き出そうと展示会に出かけていった。新しい市場を開拓しなければならない立場になって、あれこれしているなかで気がついた方法の一つで、あくまでも個人の思いつきの域をでなかった。

アメリカの画像処理メーカに転職して驚いた。そこでは、その活動をShow hunt(ショーハント)と呼んでマーケティング業務の一環として定型化していた。
画像処理はニッチなうえに、半導体と電子部品の製造と検査が極端に大きな割合を占める特異な業界で、そこではすでに圧倒的なシェアを握ってしまっていて成長は望めない。ビジネスサイズは期待できなくても、新しい業界に営業展開しなければならないのだが、あまりに半導体と電子部品関係の仕事に偏りすぎていて、社内にはそれ以外の業界に関する知識がほとんどなかった。知識がないだけならまだしも、既存ビジネスとその自然延長線にしか興味のない営業マンの大きな声にマーケティング全体が引きずられていた。

たいしたものではなかったが、それでもアメリカ本社から持ち込まれた体系だったショーハントの考えがある。ただ持ち込めるのは考えまでで、日本市場の理解は自分たちの努力と試行錯誤からしか生まれない。自分たちが市場のどの領域でどうありえるのかという理解は、どこかから拝借できるようなものではない。この理解の存在に気がつくこともなく、形ながらのショーハント――客でもないものがカタログ片手に展示小間におしかけて製品案内、厚かましいにもほどがある。ビジネスの邪魔をするなと塩を撒かれる。誰も飛び込みの製品案内など聞きたくない。問題を解決するソリューションを訴求する資料と要点をつかんだ手短な説明ができなければ、ショーハントなどしないほうがいい。

相手の関心を引くソリューション案が欲しいが、社内の経験や知識には頼れない。下手に営業に聞くと、枝葉末節の知識に振り回される。変なバイアスなどないほうがいい。まっさらな気持ちで、業界誌を参考に前回の展示会の出展者リストと小間割りから話をしたい企業を割り出した。
限られた経験と知識から検討する価値のあるアプリケーションを想定して紹介資料を作り上げた。その資料を片手に出展小間にいって、展示会の邪魔にならないように注意しながら話を聞いてくれそうな人を探して、事業所のコンタクト先に紹介の段を取ってもらえるように依頼した。
想定した需要がないこともあるが、一軒でも二軒でも紹介にあがれれば、何を課題として何を必要としているのかを聞きだせる可能性がある。

候補の業界をピックアップして、ショーハントを繰り返せば、少しずつにしても業界と個々のプレーヤの課題が見えてくる。見えてくれば、問題解決の提案も要点をつかんだものになってゆく。仮説から課題とその解決案をお話して、また仮説に戻ってを何回か繰り返せば、新しいビジネスの可能性が見えてくる。

個人の思い付きから組織だった作業にできれば、一人では避けられないバイアスや見落としも減らせるし、思いもつかなかったアプリケーションも見えてくる。ショーハントも何年もやっていると、それなりにデータも整って、関連した展示会が待ち遠しくなる。
いつでもどこでも使える方法ではないが、組織だって始めれば、たいした時間もかからないうちに成果が見えてくる。仮説をもってはじめて、結果をみて次の工夫に結びつける。それを組織立ってできるかどうかが、大きな違いを生み出す。対費用効果を考えれば、もっとも効果的な市場開拓の手法の一つだろう。
2017/6/25