営業支援(迷惑)システム

日米欧の製造業を渡り歩いて、何度か営業支援システムなるものを使うはめになったことがある。担当営業として、マーケティングマネージャとして、支社長としての三つの立場でなのだが、どれも使えたしろものではなかった。マーケティングマネージャとして、あるいは支社長として営業のステータス、それも入力されたデータだけという限定つきの確認まではいいが、担当営業として営業情報を入力するのは大変だった。

マーケティングとしては新しい市場を開拓のために営業の現状把握をと思ってのことまで、支社長としては本社への報告のためのデータ集めだから、使うといってもしれている。ところが営業として営業情報を入力するとなると話がちがう。製品やサービスの見積価格や競合状況など、あって当たり前、なければ営業情報にならない基本的な情報を入力するだけでも、とんでもない手間がかかる。入力作業で四苦八苦すると、営業支援システムという看板はいいが、いったいなんのために導入されたシステムなのかと文句のひとつも言いたくなる。

営業情報を入力するだけの営業マンには、システムがどのように稼動しているのかわからない。わかるのは使う立場で実感する表面的な理解にすぎないのだが、その理解を一言で言えば、あまりに稚拙な作りにうんざりするになる。営業マンをいじめるために、わざとではないかと勘ぐりたくなるほど煩雑なGUI(Graphical User Interface)で、使用方法のトレーニングを受けても、どこから何をどうすればいいのかわからない。

アマゾンのサイトを想像してみていただきたい。サイトで画面をみて、どこからどうしたらいいのか見当がつかなかったら、利用者の知識が足りないからだとは誰も思わない。そんなサイト、ましてや使用方法のトレーニングを受けてやっとつかえるかもしれないというサイトなど誰も利用しやしない。ところが営業マンは、一般社会では誰も使用しやしないサイトと似たような営業支援システムを使用することを強制される。そして、営業マンが控えめに使いにくいとでも言えば、システムの導入を進めた管理者連中は、営業マンの知能か努力が足りないからだとしか思わない。

管理者連中の関心はシステムの自動集計機能であって、営業マンの具体的な入力作業などにはなんの興味もない。システムを使っての実感からだが、GUIの仕様検討や情報入力機能の決定に営業部隊が関与していない(としか思えない)。管理者連中の注文を受けて、外注業者がシステムを構築する。外注のシステムエンジニアリング会社にしてみれば、営業部隊の細かな話など聞かずに、大雑把なことしか言ってこない一握りの管理者連中の話を聞いて、作りやすいように作ってしまったほうが楽でいい。
営業マンから利便性など聞きだしたら、使い勝手も含めた細かな要求が噴出して、たたかれた外注費では割の合わない仕事になりかねない。具体的な営業活動には興味のない管理者連中とそこからでてくる骨組みのような要求仕様までの仕事に収めたい外注業者の思惑が一致して、使えたもんじゃないという営業支援システムができあがる。

たしかに個々の営業マンに営業状態を聞けば、要の得ない報告しかできない人もいるし、なかには状況を明かすのをいやがって、枝葉末節に話をそらすのまでいる。マネージメントの立場として、いちいち個々の営業マンに聞かなくても、いつでも必要とするときに必要とするデータを簡単にとりだしたいという欲求がある。あるのは分かるが、営業支援システムなるものを導入すれば、その課題を解決できるのか、という本質的な問題を理解しない管理職が多すぎる。
そもそもが管理者連中がいつでも簡単に営業状況を見たいという思いから始まった筋違いの営業支援システムの導入、なにがどう転がっても営業マンが楽をできるシステムとはほど遠いものになる。「支援」システムといいながら、実態は営業マンに余計な負荷をかけるだけの、営業迷惑システムとでも呼んだほうがあっている。

電子計算機(コンピュータ)を導入すれば、問題が解決すると素朴に信じている人が多かった六十年代や七十年代でもあるまいしと思うのだが、いまだにコンピュータシステムを導入すればIT化できて、事業全体の見通しがよくなると思っている経営者が後を絶たない。
2017/5/28