昇進を目的とした痴れ者

今まで通りのことを、今まで通りにしていたら、上手く行っても同じような結果になる。同じような結果がだせるうちはまだいいのだが、グローバル化の進展による経済構造や市場の変化がそれを難しくしてきた。
誰の目にも明らかのはずだ。にもかかわらず、去年と、もっと極端に言えば10年前と同じようなことを似たようなやりかたで、頑張ろうという叱咤激励のもとにやってきてはいないか。毎月の売上げに右往左往し、毎年の損益に終始する。右往左往も終始することも必要だが、それだけじゃ、今を、今年をどうやって乗り切ろうかということに過ぎない。毎年毎年似たようなことを繰り返しているだけじゃ、毎日決まったコースを通って餌場に通い、決まったコースを通ってねぐらに帰ってくる”あひる”と似たようなもんじゃないか。
数年後の市場は、どう考えてもこうなるだろう、こういうふうに変わってゆくだろう。その変わってゆく市場のなかで、自社は今どこに位置していて、数年後にはどこに位置したいのか。短中期だけでなく長期ではどのような企業でなければならないのか・・・、経営判断の基底をなす部分だろう。ところが今まで何らかの縁でお会いする機会のあった経営者と呼ばれる多くの方々からこの基底の部分に関する明確なお考えをお持ちであることを実感できたことがほとんどない。
実感されられるのは、社長であるという権力の誇示と程度の差はあれかなり困っているはずなのだが、その弱みを見せまいとする虚勢の二面だけというのが多い。社会を、市場を、自社を、さらにはご自身をさまざまな視点から評価して、求めるものと現状のギャップをどうやって埋めてゆくのかといった当たり前の知的作業に必要な最低限の能力を身につけることなく、ご本人にとっては上手く、関係者にとっては不幸にしてか、昇進してしまったという人があまりに多すぎる。
何をどのようにしてよくしてゆくのかと言った考えが必須であること、もっとはっきり言わせて頂ければ、そのようなことを考えることに思いが達したことすらない輩が多すぎる。経営に責任のある立場になることが目的だったためだろう、なってから何をするのかがない。多分、学生時代から、xxx大学に入るのが目的で、何を勉強したいからではなかったんじゃないか。就職も企業の名前で入っただけじゃないか。組織や社会に貢献しようという人のあり方の最も大事な部分が欠落した人達じゃないかと思う。そのような人達はビジョンがないので、上司とも周囲とも外面的には出世のために上手に渡り合う。ビジョンがないから、何かを改革してなどということもない。ないから何にもぶつかることもない。現状のなかで上手く泳ぐことに能力を発揮する。できることと言えば、よくて調整役といったところだろう。
中には、どこかで拾ってきたのだろうが、ビジョンらしきものを持っているように上手く振舞うのがいる。この振舞う輩のビジョンはないほうがまだいい。彼らのビジョンとは、権力志向と金銭欲から派生していて、社会や市場と自社との関係などは最初から最後まで眼中にない。権力志向の見栄っ張りが経営トップに座ると、企業の広告宣伝やセールスプロモーションまでが彼の認知度を高めるための手段に使われるようなことまで起きる。曰く社長対談などという企画ものが業界新聞や業界誌に掲載されることになる。もっともらしく収まっていたとしても、まずそんなかたちで表にでてくる経営トップがいたら、信用しない。
久しぶりに20年来の仕事仲間と喫茶店で業界の情報交換をしていたときに、かつて部下だった人から友人の携帯電話に電話が入った。頼みもしないのに、友人が携帯電話を渡した。話すとしても、元気でやってるかといった世間体を保つだけの話しかない。そこに突然、会社の名前も、業種の説明もなく、ジェネラルマネージャやってますという突っ張った声が響いた。ヨーロッパ系の企業なので、ジェネラルマネージャというポジションは実質日本支社の経営トップの可能性もある。よかったね。としか言いようがない。学閥で知られた某名門私立大学の出で、若いときから、社内の誰に寄り添った方が出世に有利かといった目敏さには長けていた。同僚の女性陣は彼のヒラメのような精神構造を見抜いていたんだろう。すこぶる評判のよくない一見好青年だった。
あと何年かすれば、またどこかに転職するのだろう。何かをするためにではなく、俗に言えば、出世するために。
なぜ組織にも、企業にもたいして貢献しそうもない、この手の人材を採用するのか?疑問に思われる方もいらっしゃるだろう。理由は様々だろうが、答えの一つをここに。
優秀な人材を雇って下手に仕事をされると、面接している側、上司の側がいかに仕事をしてきていないか、貢献してないかが暴露されることになりかねない。優秀な人材を使いこなして自分の成績にするほどの能力もない上司が、 自分の立場を危険にさらしかねない部下を望むか?愚問だろう。そのような人達は、一般に自分と同類でスケールが小さいというか能力の落ちる人材を部下に望む。と言ったら極論すぎるか?すぎて欲しいとは思うが、説明がついてしまうケースに何度か遭遇した。