説明責任

部下の至らない点について頻繁に公言する管理職にお会いした。曰く、ちょっとした仕事を頼むにも本当に細かく指示しないと、ミスが多くて。いくら説明しても、抜ける。この間説明したことをまた説明して頼んだ書類がミスだらけで、客からきついクレームがきた。これじゃ何年もかけて築き上げてきた信頼を失いかねない。何度説明しても、基礎知識が足りないので分からないんだ。。。
聞いていると一見ミスやら抜けやら基礎知識の不足などさまざまに聞こえるが、その管理職に対策を聞くと、ああだのこうだのとりとめのない話になるが、簡潔に言ってしまえば、巷でいうところのコミュニケーションが足りないのが問題で、それを解決すれば問題が解決すると信じていた。まるで、コミュニケーションの不足が解決すれば、地球上から問題がなくなってしまいそうな感じだった。その信念?とでも呼ぶべき考え?はどこかの新興宗教からもってきたのではないかと想像している。
人間関係の問題も含めて事あるごとに上司の裁定?とでも呼ぶのか?コミュニケーションの不足が問題なので、解決しようというものだった。何をどう具体的に解決するのか誰も見当がつかない。当然、誰も何もしない。たいした時間も経過していないのに、同じような問題がまたおきて、また同じようにコミュニケーションの不足が問題なので。。。という結論がだされる。あまりに度が過ぎるので、若いときから今までその上司は何度似たようなことに遭遇し、何度決まったようにコミュニケーションの問題で、と結論して何もしないで来たのだろうと余計なことまで考えながら、一体何が彼をしてそのような思考にするのか考えていた。多分次のようなことなのだろうと想像している。
問題の本質を追求するのに必須の見識も能力もない、さらに状況を少しでも改善しようという責任感もなく、努力すらどうしていいか分からない人達は具体策を全く考えつかない。そこで、話せば分かるというような陳腐で具体性には欠けるが反対しようのない一般論でお茶を濁すことになる。その上司も似たような上司に仕えていたのだろう。無能と無責任が歴代続いているようなもので、そのような上司のもとで何か価値ある改善なり、問題が解決される可能性はないだろう。
部下が満足な仕事をできないという問題の根源は無能と無責任の上司にある。能力のない上司は、まず業務の全体像を部下に説明できない。多分、目の前の個々の業務単独ですら、明確には説明できないだろう。目の前の業務を明確に説明するには、その目の前の業務が全体の業務のなかでどのような位置を占めているのか、各業務がどのように絡み合って業務全体を構築しているのか。市場の変化に伴って企業全体の業務がどのように変わってきているのか。これからどのように変わってゆく可能性があるのか。どのように変わって行かなければならないのか。そのために自部署としてはどのような体制に変わってゆくことになるだろう。。。などなどの理解があって初めて目の前の業務が一体なんなのかを理解でき、その理解に基づき担当者が業務遂行を工夫しうる素地ができる。
上司は、部下に対して常日頃から全体像と個々の構成要素、それらの歴史的な経緯、現在のありよう、さらに近い将来予測される、あるいは予定されている変化などを説明し続けなければならない。する責任がある以上に部下に理解して頂く責任がある。
ここでは、「説明している」というのはたいした意味を持たない。それは説明する側、この場合では例として上司としているが、の言い分に過ぎない。説明することの目的は、説明する側が説明していることにあるのではなく、説明を受ける側が説明を理解することにある。説明を受ける側が理解し得ない説明は説明ではない。受ける側が理解して初めて説明と呼べる。
部下の基礎知識が不十分で説明を理解し得ない場合はどうするんだという文句が上司側からでるだろう。だからどうしたと言いたい。マネージャの責務は管理屋とは違う。部下に必要とする基礎知識を吸収させる機会を提供し続けなればならない。マネージャであれば、何度も何度も根気良く部下の能力を向上するあらゆる手を講じる責任がある。部下の能力に苦言を呈することは自らの能力に対して苦言を呈するのと同義語と考えなければならない。最後は心を鬼にして切らなければならない部下もいるだろう。しかし、それはあくまでも最後の手段としてしまっておくしかない。
比喩として適切かどうかちょっと迷うが、野球の監督の立場を考えればいい。叱咤激励するための言い方は色々あるだろうが、監督が個々の選手の能力に文句を言ってても試合には勝てない。誰もオールスターチームを率いて試合の望めるわけじゃない。弱体投手陣とざる内野、。。。あてにならない4番、。。。
どこに出しても一流と言える部下を何人も抱えて業務を遂行しているマネージャが、経営陣が世界のどこにいる?総合力で見たら二流、三流、下手すりゃ流のつかない人材をいかに有機的なチームにして業務という戦を遂行してゆくのがマネージャの責務だ。部下のことをとやかく言いたくなったら、どれだけ部下に成長する機会を提供してきているのか、どれだけ部下に分かるように説明してきているのか、もう一度自問し、自分はだいたいでも完璧に近いと確信してからにした方がいい。