呼んだ相手が悪かった

知り合いの紹介で、米国系のビジネスコンサルタント会社からビジネスミーティングに招待された。招待客は10人弱で、全員、欧米企業の日本支社の責任者か、カスタマーサティスファクション担当部署のトップだった。10人もいれば、日本人が数人いてもいいようなものなのだが、どういうわけか一人しかいなかった。
ビジネスミーティングはフレンチの夕食を取りながら、参加者同士、できるだけオープンに意見交換をして頂きたいとのことで、あまり堅苦しくならないようにと、少なくとも口先だけは配慮されていた。 ワインを飲まされ(好きじゃない)、呼んでくれたコンサルタントの担当者と彼の同僚に自己紹介、他の招待客とのそつはないがお互いに相手を値踏みするようなたわいのない話が続いてやっと食事の席についた。
軽い料理がでてきて、ワインをやりながら司会の若いコンサルタントの話を聞く。ありきたりの堅苦しいオープニングの話が終わって、ちょっと年配のコンサルタントから、ミーティングの議題について説明された。彼の話も、特別なことは何もない。企業としてどうのようにしてカスタマーサティスファクションの向上を図ってきているのか、カスタマー(顧客)からのフィードバックをどのような方法でとっているのか、各社各様の工夫もあるだろう。問題にならない範囲で結構なので、情報、意見交換をさせて頂きたい。。。
自社の低い不良率やクレームはめったにないと自信のある数人が、顧客満足度の調査の方法まで踏み込んで、まるで自社PRのような感じで話していた。若手のコンサルタント数人がその話の中に入って、上手な相槌を打ちながら、自慢話を活発にするように仕向けていた。こっちは、製品不良率4%を問題とも思わない米国本社の経営陣に率いられた会社の日本支社の責任者として四苦八苦していて、巷で一般的に言われるカスタマーサティスファクションをどのように実現するかなど聞いてもしょうがない状態だった。話が一段落したところで、今まで聞く側に回っていた、かなり年配のコンサルタントが口を開いた。どうもコンサルタントの中で役割分担が決まっているようで、出席者の話が出ききったところを見計らって出てきて、出た話を自分の、自社の経験やノウハウから見たかたちで総括し始めた。当然の態度として、出席者の具体的な話、意見に経緯を払いながら、話にでた個々の施策やその施策の論理的な後ろ盾?を売り物にしているビジネスグルの話に軽く脱線しながら、話をまとめている格好をしていた。もともと招待客の個々の特殊事情からバラバラに出てきた話なので、まとめられるわけがない。流石と言えば流石、まとめる格好を格好をつけて演じていた。
口ぶりからしてビジネスミーティングを開いたコンサルタント会社の社員ではなく、今夕のビジネスミーティングにパートナとして呼ばれたのだろう。コンサルタント会社から彼に招待客が働いている企業名やどのような経歴の招待客なのかについて基本的なことが伝わっていなかった、あるいは聞いてはいたが、つい忘れてしまった。こともあろうか、話をまとめるのに、こっちが働いていた米国系のコングロマリットの社名をあげ、その経営手法を持ちだした。
立派なコンサルタントなのだろう。どこかで聞いてきた又聞の又聞の、その又聞のような、あっちで聞きかじったとこをこっちで拾ったものにごちゃ混ぜにして、名の知れた企業やビジネスグルの理論として話をする。まるで映画のビジネスシーンの役者のような物腰で、それなりの言い回しの英語で、自信満々に話される。知らない人はコロッと騙されるだろう。確かに、そのコンサルタントが言うように、引き合いに出された米国系コングロマリットの先代のCEOが、CEOに就任した際に、会社にとって大事なものが3つあるとして、その3つの最初に上げたのが、どうも“カスタマーサティスファクション”らしい。こっちはその会社の一事業体の日本支社のトップとして、その“らしいもの”と現実の間、とてつもなく大きな乖離のおかげで日々悪戦苦闘している。
招待された人達は、カスタマーサティスファクションの“カスタマー”を、金を払って自社の製品やサービスを買って使ってくれる人や企業と思って話をしていたし、コンサルタントも一応はそう定義した格好をして話をしていた。ただ、引き合いに出された投資家資本主義の権化のような企業の一つである米国系のコングロマリットの言うところの“カスタマー”は、リップ・サービスはどうであれ事実は、資本家あるいは金融機関であって、物やサービスを買ってくれる人でも企業でもない。いつもの調子で引き合いに出したのだろうが、引き合いに出すこと自体が、実のビジネスを知らない、自らの知識や理解が上辺だけものに過ぎないことを露呈していた。
あまりに何度もこっちが働いている会社の名前を引き合いにし、それを美化して真似すべき標準モデルとして話を進めるのにうんざりして、こっちがどういうもので、どういう状態にいるかを手短にお伝えした。
あまりに勉強不足。その程度で喜んで金を払ってありがたがる経営者も多いのだろう。その証左として、その程度でメシを食ってるコンサルタントが掃いて捨てるほどいるのも事実だろう。ただ、あんたの、あんたの類の方々の演技や口上、三文芝居に騙される相手ばかりじゃない。