製品不良率と貸倒れリスク

米国系コングロマリットの産業用制御システム事業体では、実に様々なことで驚かされ続けた。常識ではありえないことがあたかも当然のこととして降りかかってきた。その一つにある事業体の製品不良率がある。
日常生活でコンピュータというとパッケージとして出来上がったものを想像するが、それでは処理しきれない特殊な目的や用途がある。このような場合、コンピュータを機能ごと、例えばCPU ボードや通信ボード、強力なグラフィック用ボードなど、機能別にボード状の専用製品を用意しておいて、目的に合わせて必要とするボードを組み上げて一台のコンピュータを作り上げる。
その事業体の顧客はほとんどが航空防衛産業で、航空機に搭載するカスタムのコンピュータの構成部品を販売していた。米国の防衛産業の下請け(失礼?)を業態としている日本の防衛産業では、米国が指示してきた部品を使うことになる。指示に従って日本の防衛産業が発注してくる。それを受けて販売するだけの営業形態だった。日本支社が独力で日本市場を開拓できる可能性はまずない。本来の意味での営業と呼べるような営業活動はしていなかった。
営業らしい営業がないのと反比例するようなかたちで、技術サポート(?)の負担は背負いきれない状態だった。その業務を技術サポートと呼ぶのにためらいがある。あまりに不良品が多いため、客に出荷する前に米国から入荷した製品を全数検査しなければならなかった。日本は販売・サポート拠点ででしかなく、人員も限られていてプロの品質保証の仕事をできる体制ではなかった。客先でいくつものソフトウェアを搭載して稼働したとき、ある特殊な条件下で発生する障害の追跡をするには相当な能力を持った技術者と設備が必須になる。どちらも子供だましのようなものしか持っていないにもかかわらず、ハードウェアメーカとしては、なにか障害がでれば、それがハードウェア側の問題でないことを客先に実証しなければならない。
ボード製品(ハードウェアだけ)の不良率が4%もあった。25台に1台が不良ということになる。この不良率の製品が組み合わされて1台のコンピュータになると障害はあって当たり前のような状態になる。日本の製造業ではとても信じられない数字で、普通のビジネスだったら、即、取引停止になるが、米国の防衛産業の下請けの立場にあるに日本の防衛産業は文句を言いながら使い続けざるを得ない。お陰で日本のビジネスが継続していた。
日本支社の人員とその能力では障害追跡をしきれないので、代理店にその作業の多くを肩代わりしてもらっていた。障害追跡コストの肩代わりの費用と、障害品の代替え品を在庫する費用を賄うため、代理店は販売価格を米国本社が決めている希望小売価格より高く設定していた。日本支社の代理店仕切り価格は本社のコンピュータシステムで管理されていて日本支社の力ではどうなるものではなかった。その結果、顧客は米国の定価以上の価格で信頼性という言葉がないような製品を買わされていた。
米国系コングロマリットの企業向け金融事業体(日本支社)の偉い方と一緒に仕事をできないかということで話し合っていた。何回か合っているうちに、うちの事業体のなかの一部隊の製品不良率が4%を超えていて、客先指定案件以外では日本ではビジネスにならないと話した。返ってきた話に呆れた。“えー、たった4%ですか、そりゃものすごい、いいですねー。うちなんかとんでもない数字ですから。羨ましいですよ。”こっちは、まともな実業の、製造業の世界での製品不良率を問題としている。そっちは、下世話な言い方をすれば、高利貸しじゃないか。一緒にされたら迷惑だと思いつつ、なんとも言えない。その米国系コングロマリットの利益の過半を金融事業体(消費者金融や企業向け金融)が稼いでいて、実業のビジネスユニットはほとんどが衰退傾向にあった。リーマン・ショックでバブルがはじけるまで、本来実業のコングロマリットだったのを目先の金を求めて金融関係ビジネスを肥大してきていた。(バブルがはじけて、大騒ぎでうちは金融事業の企業ではなく製造業だと言い出して米国で失笑をかった。)
そのコングロマリットでは、実業の事業体の経営トップも多くが財務系かその影響下にある人達で占められていた。 コングロマリットのCEOに直接レポートしている偉い(?)方と数人で夕食を一緒にする機会があった。担当事業体の日本の問題を聞かれたので4%の製品不良率が改善されないと日本でのビジネスは成り立たないとお伝えした。だからどうしたという、その時の反応が解せないでいた。企業向け金融事業体(日本支社)の偉い方の返事を聞いたときに、やっと分かった。金融業の、それも消費者金融や高利貸しの貸し倒れのリスクと産業として確立された製造業の製品不良率を同じものと考えている。一緒にされたら迷惑だ。一緒に仕事はできないというより、しちゃいけない。