外からの人材に求めるもの(改版1)

中途採用者に求めるものは、企業の文化や採用しようとするときの状況によってさまざまだろう。同じ企業の同じ組織が同じような人材を求めるにしても、その時々の状況によって評価する視点が違う。また、人材を社外に求めざるを得ない状況に至った経緯も含めた社内事情が求めるものに大きな違い生む。経緯も状況も千差万別。そのため、何が重要で、何はそれほど気にしなくていいと簡単に言い切るのは難しい。それでも、ある外資が重視していた視点は、記憶に留めておくことに多少の意味があるかもしれない。

社内に候補がいないわけではないのだが、これと思う人に限って現職から外せない。動かしたら、抜いたあとを埋めるのが難しい。後任の候補はいるが、キャッチアップにかかる時間を考えるとリスクが大きすぎる。求めやすい人材を社外に求めて、社内で玉突き人事という手もない訳ではないが、不確定要素は増やしたくない。人材の組み合わせの可能性を幾通りか考えたが、どう組み合わせても、玉突き人事をしないですむ人材を社外に求めるしかない。

懇意にしていたヘッドハンターに要件を伝えて人材を探してもらった。特別厳しい要件ではなかったはずなのだが、なかなかこれといった人がでてこない。書面で数名の候補を紹介されたが、ヘンドハンターがお伝えした要件の真意を理解していないとしか思えない。
書面で紹介された人たちをお断りしていたら、おやと思う方が現れた。ヘッドハンターから届いた書面をフツーの見方で見れば学歴も職務経歴も申し分ないというよりオーバースペックで、なぜこのような人材を紹介してきたのか、ヘッドハンターの真意を測りかねた。書面上ではオーバースペックなのだが、求めている知識や経験があるようにはみえない。瓢箪から駒というのもあるかもしれない。候補の人の時間の無駄になりかねないので失礼かと思いながら面談した。

儀式のようにひと通りの職歴とご経験をお聞きした後に、求めていることをお伝えして話をしてみたが、話が通じない。求めていることを違う視点からみて、この訊きかたなら多少は意味のある返答が得られるのではないかと、何度か試みたが得られた返答は同じだった。何を訊いても、答えの中心には「xxxで部長をしてました」が付いている。
部長としてどのようなこと、例えば新規事業の立ち上げとか、新市場の開拓とか、こちらが気にしていることに関連付けようと訊きかたを変えても、返ってくるのは、「xxxで部長をしてました」で、部長として何をしたというのが全くない。xxxと言えば、そこそこのビジネスマンで知らない人はいない。まさか、ここに来て、いつものようにxxxと言えば全てが通るとでも思っている訳じゃないだろうなと言いたくなった。返答を聞いているうちに憐憫の情すら湧いてきた。煩いクライアントとでも思ったのだろう、額面だけはスペックを満足したつもりの人を紹介してきたヘッドハンターにがっかりした。

何人かの候補の方と話してはみたが、なかなかこれと思った人がいない。また、部隊に負荷がかかるが、適材の人が見つかるまでは社内の陣容で回してゆくことにせざるを得なかった。
新しい事業を進めるに当たって、知らなければならない業界に関するかなりの知識を持っている人が欲しい。社内には経験もなければ知識もない。日常業務を通して社内では経験し得ない経験をしてきた、また社内ではトレーニングしようのない知識を習得している人に経験と知識を持ってきてもらって、それを知識を社内で共有してもらいたい。
社内で育てられる人材であれば、敢えて社外から招聘しない。社内ではどうにもならないから社外からという、当たり前のこととを理解しようとしないヘッドハンターには疲れた。総合職というオールラウンドプレーヤーを求めているのなら、「xxxで部長をしてました」で十分なのだろうが、特定の経験と能力を求めている外資には通用しない。

例を上げれば分かりやすいかもしれない。制御機器メーカが工作機械メーカへのセールスを強化しようと考えているとしよう。工作機械メーカに製品を収めたこともあるので、社内には工作機械メーカでの現場作業など多少の経験はある。ただ、その経験だけでは、日本の工作機械メーカとその周辺機器メーカから自動車メーカなど工作機械業界の客の市場までを鳥瞰した販売戦略を立案するには経験も知識もあまりにも足りない。

業界を広く知っている専門商社の営業マンが候補として上がってくるが、メーカの営業が提供する製品とサービスに対する責任感とでもいうのか、ビジネスに対する姿勢と商社のそれとではあまりに違いすぎる。些細な違いに見える立場の人もいるだろうが、この文化の違いともいえる違いが大きくて、埋めきれずに往生したことがある。商社や販売代理店の営業マンはメーカの営業マンとしては使えない。まして販売戦略など任せられない。その逆も同じことがいえるだろう。

同業他社からの人材も、同業であるがゆえに、よく知っていることも、ほとんど知らないところも似たようなもので、候補として上げることにすら意味がない。
ヘッドハンターから紹介された企業(面接する側)に関する知識は、ぼんやりした程度で十分。面接する側が自社に関する説明を長々と聞きたいと思ってる訳じゃない。巷で知りうる程度のことを知って、心底知ってるつもりなっているような、あるいはそう振舞おうとする人を評価する企業があったら、そっちの方が危ない。

一般論で言ってしまえば、最有力候補は客の業界の企業でこっちが提供する製品なりサービスなりを評価する知識が豊富で、彼らの客に関する知識(たとえば、工作機械メーカにとっての客である自動車工業業界)をお持ちの方ということになる。後者の知識はそれなりの立場にいる人たちなら常識として持っているので、前者の知識のレベルが最も重要な評価の視点になる。
2017/3/26