紹介訪問−目的と準備

いくら考えても既存のベンダーと今まで通りのやり方で何に困っているとも思えない。そこに上手く行けばそこそこコストダウンになり得るソリューションを提案しようとしてきた。してきたものの、そう簡単に上手くゆくはずがないのは分かっている。物の採用というより開発作業のありようといいうのか仕事の仕方まで変えなければならない。そこまでしなければならないほど困ってはいないだろうし、もししようとしても組織間の分掌の問題もある。
買わないということを条件に話だけはきいてやるというところまでこぎ着けた。今採用しているシステムをどのように使っているのかの詳細は知りようがない。ましてや改善の余地など想像するしかない。その程度の理解で現行のシステムとの優劣をと言ったところでカタログ値の比較までしかできない。経済紙かお手盛りの業界紙でもあるまいし、実ビジネスへの先は長い。紹介できるのはこっちの手前味噌の提案まで。その提案、あちこちでピント外れ、それでも何か気になることがあるから話だけは聞いておこうかということだろう。
訪問の目的は、まず第一にまた来れる事にある。今回の紹介訪問でもうこれ以上知る必要なしと判断されればそれで終わる。第二に今までのやり方をできるだけ聞き出すことにある。現状が分かればどこに改善の余地があるのか、こっちの勝ってな視点に過ぎないにしても何を訴求すれば興味を示すかが見えてくる。
相手には長年やり続けてきた集大成として今日の製品やその製品をかたちにする仕事の仕方がある。そこには社内だけではなく協力会社やベンダーが一体となった物と人、人と人をつなぐ生き物のような、よそ者を受け付けない小社会がある。それでも必ずどこかに改善の余地がある。どこまで行っても完璧も終わりもない。時には既存のベンダーの技術的、コスト的限界を業界の限界と信じ込んでか信じ込まされて改善の余地はないと思っている人たちもいる。
外から違う視点でも持ち込まれない限り、既存のシステムとその延長線に問題があるとも、何か改善しなければならないと思うこともない。そこに今までとは大きく違う視点から改善提案の話をしてゆけば、今まで気が付かなかった改善の余地に眼を開かせることができるかもしれない。そこまでたどり着ければ実ビジネスへの何らかの可能性が見えてくる。
訪問の目的、フツー誰もが自社と製品の紹介だと考える。そのために製品紹介の資料からパワーポイントで作ったプレゼンテーションを用意して。。。しばし周到すぎるほどの準備をする。相手に時間を割いて頂く以上、割いた意味があったと思って頂ける訪問にしたい。誰しもそう思う。ただ、その準備、自分たちが何を提供しえるのかを考えることもせずにしている可能性が高いと言ったら、ほとんどの人たちがその意味を理解できないだろう。
相手が求めているのは製品やサービスそのものではない。製品やサービスを採用することにどれほどの利点があるのか。得られるであろう利点が採用するために割かなければならない工数や直接間接のコストを補ってどれほどの余りがあるかにある。これを実績のないベンダーが最初の訪問の時にできるか?相手から見た利点とその利点を得るためのコストも知らずにどれほど周到な準備ができるのか?できる訳がない。相手の内部や入り込んでいる代理店や外注エンジニアリング会社の強力な支援でもなければ到底できない。
到底できないのであればどうするのか。製品やサービスの全体像を漫然と紹介すれば相手にとって興味のないところに要らぬ時間が割かれ、焦点のボケた紹介に終わってしまう。訪問に先立って準備しなければならないのは製品やサービスの細かな紹介資料でもなければ十ページを超えるようなPowerPointのプレゼンテーションでもない。
製品やサービスのどの点であれば相手の興味を引く可能性があるのか、相手が知りたいであろう点を大まかに説明できれば十分。また来れることが目的であること、そして最大の目的は相手の課題、解決したいと思っている課題をどこまで詳細に聞けるかにある。製品やサービスの紹介は紹介自体に価値があるのではなく、相手の口を軽くして課題をお聞かせ頂くための呼び水でしかない。
製品やサービスを紹介されれば、興味をもっていたこと、知りたいと思っていたことが変わることも多い。紹介しながら、相手の興味がどこにあるのか確認しながら相手の反応に合わせてアドリブで紹介を続ける。周到な準備をすればするほど準備した紹介プロセスに引きずられる。引きずられれば相手の反応に対応した紹介が難しい。準備したプロセスから外れても対応しえる知識と知恵がなければ相手の課題など聞きだしようがない。この知識と知恵が訪問時に求められることで周到過ぎる資料などの準備は害の方が大きい可能性さえある。
当然といえば当然のことなのだが、知識や知恵のない人たちに限って資料の準備に余念がない。余念がないのはいいが、その程度の付け刃で相手の口を開いて課題を聞かせて頂けることもないし、たとえ頂いたとしてその意味が分かるわけもない。
訪問先が業界のなかで特別な地位にでもいない限り、どこも似たような課題をかかえている。業界の大きな流れが分かれば、個々の訪問先が抱えている課題の想像はつく。(特別な地位にいれば課題は分かり易い。) その課題を訪問先ではどのように解決しようとしているのか、何をもってすれば解決の可能性があるのか。その可能性と自社の提案との競合性や整合性はあるのか。訪問時に必須なのは訪問先の状況をどこまで順当に想像できるかであって、自社の製品やサービスの詳細な説明の準備ではない。まさか準備しなければ紹介できないわけでもあるまいし。
2015/02/27