CRMが好きな人たち

だらしのないヘッドハンターには一見外資のカントリーマネージャクラスの人に見える。人材として素直に見れば、ご本人たちも一所懸命そう見せようとしているだけの人でしかない。そういう人たちの多くが、転職する度にCustomer Relationship Management(CRM)を構築しなければと言い出す。その考え、一面では正しいが本質的な欠陥は覆い隠せない。
その程度の人たちを雇う会社、どのような代紋を掲げていようと中味は地場の商店の域をでない。販売実績など、生のデータはあったとしても、ありますというだけで日常的に使えるように整理されていない。中にはどこに何を販売してきたのかのデータすら、記録として残っているものは残っているというところすらある。ましてや生のデータをどのように整理して分析して。。。などと考えたこともない、というより考えてみようか、考えなければなどと考える知識がない。
事業規模が小さすぎて経営データを整理するコンピュータシステムの導入が合理的な投資と思えない企業はいくらでもある。それは地場の商店や町工場に留まらず数人規模でしかない外資の日本支社の多くも似たような状態にある。経営学など多少なりとも体系立てて勉強してきた人たち、本に書いてあることからこれほどまでにかけはなれた経営が実社会にあること想像もできないだろう。
自社の業界と顧客の業界に関する知識やその知識を知識たらしめる基礎知識がほとんどない人を経営トップに雇うから、雇い直す度にすごろくのように振り出しに戻る。あっちの振り出しから始まってたのが、今度はこっちの振り出しに戻って、経営としての最低限の定量化を可能にする基礎の作り直しになる。
前任者が残した基礎の上に定量化するプロセスを改善すれば済むはずではないかと思われるだろうが、その程度の会社を解雇された前任者の遺産、その人でなければ使えるようで使えない。安普請の建売戸建てのように一度更地にして作りなおさなければならないことが多い。歴代格好をつけるまでの人材しか雇ってこなかったツケが引き継がれて行く。
社長としての格好はつけなければならないという“立派な”プライドはあるのだが、残念ながら中身がない。あまりに業界知識がないから何でもかんでも従業員に聞くことになる。聞くのはいいのだが、従業員から聞いたことを理解する基礎知識がない。基礎知識を構築しようとすれば、基礎知識を理解する基礎学力の強化に遡ることになる。エンジニアリングに関係したことを理解しようとすれば、最低限の物理や化学の知識が必須となる。その必須となる知識を得ようとすれば、最低限の数学の知識が不可欠になる。極端な場合、日本語すら怪しいのまでいる。基礎の基礎をどこまでということになるのだが、その程度の人たち、いまさら勉強しようなど真摯な気持ちは持ち合わせていない。
インターネットで拾った砂礫の知識を基礎にして従業員の話を聞いて分かったところで無作為に散ったデータの小山程度の理解が限界になる。データを整理し整合だった情報の構築物に仕立て上げる知識も能力もない。業界地勢図もなければ競合との関係やパートナーとの関係。。。何をどのように見なければならないという大枠の知識がないから何をどう見たところでぼんやりした景色しか見えない。その結果、どのデータも同じ重みで処理してほどんど生のデータと変わらないものをばらばらの情報として捉えるのが精々になる。
海外の本社への報告もあるし、今後の日本支社の営業戦略(もどき)も形ながらも書き上げなくてはならない。そのためには現状を鳥瞰するためのツールとしてCRMが欲しい。ここでその程度の人たちだからだろうが、必ず犯す間違いというのか基本的なズレが起きる。
技術的にも営業的もというより全ての面で基礎知識のない人がCRMから何か有意な情報を抽出できるのか。何も分からない人が何かのインデックスのようなものを設定して抽出した情報。抽出した情報を分析して、そこから社の将来を賭けた方向性とか戦略とかの指針となるものが得られるか?あるのは素朴な疑問というより確かな不安だろう。
確かに現在までの事業の結果、顧客と顧客に提供した物やサービス、逐一データ処理してゆけば何かでてくるだろう。ただ何が出てこようがそれを判断するのは人。判断する人に判断するだけの知識とその知識を裏づける広範な社会人として職業人としての常識がなければどんな立派なCRMシステムを構築したところで『猫に小判』を絵に描いたようなことになる。
自分に何もないから何もないのをCRMシステムで補えるのではないかなどと考えること自体間違っている。CRMシステムを導入したとして、中身のデータは従業員の日々の追加負担によってしか充実できない。日々の負担をおしてデータを入力し続けたとして、何が得られるのか。CRM、無能な経営者が格好つけるための体のいいおもちゃにしかならない。まさか、CRMから引っ張り出したデータが、分析結果がこう言ってますとでも言うつもりじゃないだろう。ご自身の判断はどこにあるのか。
全てのデータが揃うことはない。常に限られたデータと情報、限れた時間とリソースのもとできること、してはならないこと、しなければならないこと、それをどうやってやってゆくかの決断。一筋縄でゆくものでもなし、基礎知識のない経営者がCRMを持ってきてなんとかなるようなものではない。自明の理だろ。
2015/3/8