支社じゃない、本社の問題ですよ(改1)

外資が抱える宿痾の問題を指摘する人に会ったことがない。それはもう宿命といってもいい問題なのだから、気がついている人もいると思うのだが、名のあるヘッドハンターからでさえ、気がついていることを感じさせる話を聞いたことがない。もっとも、ヘッドハンター、どんな能書きたれたところで、金をくれるクライアント(本社)からのワンサイドストーリーで動いている稼業ということなのかもしれない。多少なりともまっとうな仕事をしようと、解任予定の支社長の話など聴こうとはしない。人材を紹介するまでで、紹介した候補から誰を選ぶかはクライアントがすることだし、選んだ次期社長で日本支社がうまくゆくかどうかはクライアント次第ということなのだろう。

面接してこれはと思う候補に支社長を代えたが、何も変わらない。何が問題なのか訊いても要を得ない。なんでこんな人材しか紹介できないのかと、多少なりとも評判にいいヘッドハンターに切り替えてみた。優秀そうな候補が三人でてきた。人選で三回も失敗しているから、いやでも慎重になる。なぜうまく行かないのか疑心暗鬼になる。学歴も職歴も申し分のない、英語の面接での受け答えもしっかりしているのに、なぜこうも機能しないのか。面接で聞いたかぎりだが、学歴や職歴を詐称しているとは考えられない。
どうみても間違いなく優秀な人のはずなのに、なぜこんなにまで仕事ができないのか。日本人は真面目で働き者と聞いているが、いままで雇った支社長は三人とも使いものにならなかった。本社で製品トレーニングまでして、営業や技術のものを何度も派遣した。それでも、市場開拓の途がつきそうな感じがない。何をしてきたのか、何をしようとしているのか、言っていることが分からない。分からないまでならまだいい。本社の組織や文化を問題だと言い出して、一体何を言いたいのか。

外資という外資、例外などないといっていいほどに、どこでも似たようなことが繰り返されている。それは日本にいる外資も日系の海外支社も、世界中どこにいっても目にする。
母国で成功していなければ、海外市場にとは思わない。成功しているということは、販売している製品やサービスだけでなく、戦略も、その戦略を遂行する組織も、それを支えている企業文化も、全てが母国の市場環境に適合していることを意味している。
母国の市場は時代とともに変遷してきたが、何がどう変わったところで、あって当たり前の環境にいるだけで特別な違和感などあろうはずもない。その違和感のない環境に自然体で適合してきた。違和感のない環境にしかいたことがないと、意識して環境を理解するプロセスがあるということに気がつかない。プロセスを必要とする違う環境があるということを漠然としか思い浮かべられない。当然のこととして、努力して理解するプロセスを踏んできた経験もなければ基礎的な能力もない。

母国で意識することなく市場と一体だった企業が海外市場にでていけば、想像もしたこともない、しばし理解に苦しむ市場環境に遭遇する。ただいくら違ったところで、自動車産業は自動車産業だし家電は家電で、進出しようとしている国からも母国に進出してきているのだし、基本的なことは似たり寄ったりで、野球と水球のような違いはありっこない、と思っている。
自分たちが成功してきた製品とサービス、それを市場に送り出してきた戦略が、多少の違いがあったにせよ基本的には似たり寄ったりの進出先の市場で機能しないはずがない。にもかかわらず、支社はいつまで経っても立ち上がる気配がない。雇った三人の日本人支社長は自分たちの能力や努力が足りないのを棚に上げて、母国で成功してきた製品やサービスの優秀さを認めようとせずに、些細な市場と製品のズレを売れない原因として、文句としかとれない言い方で言ってくる。
なんの実績もない支社長に過ぎない者が、机上の空論を振り回して、問題は日本支社でも自分(支社長)でもなく、本社の、自分たちがやってきたことしか理解できない能力と傲慢な態度だと主張してくる。
我々としては、成功してきた製品とサービス、それを実現した企業文化に誇りをもっている。その誇りのたとえ一部でもそれが問題だと言われても誰も納得しない。それは我々だけでなく、日本の企業でも日本人でも同じだろう。

目的は海外市場の開拓であって、誰の自信でもなければ自負を守ることではないと整理して、進出先の状況に合わせて、提供するものや、やり方を変更してゆくだけの、真の自信に裏付けられた寛容な文化がなければ、支社はいつまでたっても立ち上がらない。
支社長をいくら交代しても問題は解決しない。何度か経験すれば、どこに問題があるのか気がつきそうなものなのだが、問題が見えるところ(支社)に問題があると思い込んでしまう思考の慣性のせいで、自分たちのありようが問題であることに気がつく人はいない。母国での成功が大きければ大きいほど、成功した自信と誇りが傲慢な文化を生み出し、思考の慣性を大きくする。

Superiority complex(優越コンプレックス)でしかないのだが、その呪縛から自由な外資を見たことがない。もし良識と勇気をもったヘッドハンターかコンサルがいて、それを問題として指摘したら?聴く耳があるとも思えない。優越コンプレックスは説得され、納得させられることを潔しとしない。この壁を乗り越えられない限り、海外進出にともなう本質的な問題を解決できない。
2016/12/25