アンラーニング

子どもは覚えが早く、歳をとると物覚えが悪くなるという。昔、なにかの本で読んだことだが、次のような説明があったと記憶している。子どもは白紙の状態に新しい知識を書き込むだけだが、大人は既に何かが書かれてる紙の上に新しい知識を追記することになるので、既に書き込まれている知識と新しい知識の間の関係を調整しなければならない、あるいは書き込まれていた知識を整理して捨てる作業さえともなうことすらある。既に書かれている知識が多くなればなるほど、その蓄積した知識を整理し、情況に応じて使えるようにしておくだけでも手間を食う。そこに、今までの知識とは相反するような新しい知識を組み込むのが容易でないのは想像がつく。
さまざまな経験を通して蓄積した知識を縦横に駆使してビジネスの世界で曲がりなりにも成功を収めてきた組織、人であればあるほど、蓄積してきた知識と相反する知識を吸収するのが難しくなる。ビジネスの世界で成功し続けるには、広範な整理された知識の蓄積が欠かせない。しかし、ビジネスの環境も、市場も、市場のなかでの自社のポジションも急速に、しかも大きく変ってきている。環境が大きく違えば、今までの環境に有効だった知識が陳腐化し役に立たなくなる。新しい環境における経験から得られる知識が蓄積してきた知識と相容れないケースに遭遇することになる。
万能薬がないのと同じように、どのような市場環境でも有効な戦略はありえない。ある特定の環境に有効な知識に基づいて組上げられた戦略がその特定の環境にあっていればいるほど、大きなビジネス成果が得られる。しかし、特定の環境にあっているということは、別の環境にはあっていないことを意味する。以前の成功体験をもとにして、市場環境が大きく違うにも関わらず、以前と同じか似たような戦略を繰返せば、失敗をまぬがれない。成功体験が大きければ大きいほど、そこで経験し組織の文化にまでなってしまっている思考形態に束縛され、従来とは異なる戦略を組上げることが難しくなる。
組織的にも、個人的にもアンラーニングを繰返し、蓄積された知識を再整理し、新しい環境にも適応できる知識と、当面はしまっておくべき知識を峻別し、蓄積された使える知識と新しい環境に適合した知識と再構築し、今の環境に最も適した戦略を再構築しなければならない。