口コミ、真に受けるか(改版1)

引越しするたびに、近間の医者や歯医者に美容院、気の利いたレストランからパン屋までインターネットで探すことになる。なにかちょっとしたことでも、頼りにするのはインターネットが普通になってしまった。イエローページは見ることもなくなったし、近所づきあいもないところで人には訊きようがない。新聞の折込み広告や郵便受けに入っているチラシなど、たまに役にたつことはあっても、ほとんどゴミでしかない。

インターネットで探せば、業界内のランキングからユーザーの口コミまで出てくる。口コミ、信用しているわけでもなし、参考になるはずがないと思いながらも、何もないよりはと面白半分で見てしまう。レストランや居酒屋など、よほどでもなければ辛口の批評はでてこない。値段も勘定にいれた料理の評価を知りたいのだが、落ち着ける雰囲気だとか、店員の態度が気持ちいいなどという本筋をはずれた雑情報ばかりが目に付く。ましてや病院や医院、歯医者になると、医療サービスの質を患者が評価しえないこともあって、受付の感じがよかったとか、看護婦さんが親切だったとかまでで、医療そのものの評価は期待できない。

うろ覚えだが、飲食店の紹介をビジネスとしているインターネットサイトでは、登録かなにかの手数料を払わないと、評価を下げられるというニュースを聞いたことがある。真偽のほどは知らないが、関係者がどう否定しようが、まあありそうというより、ないわけないとしか思えない。評価が低いところに辛口の口コミが並びだせば、たとえ篤い固定客をつかんでいても、閉店に追い込まれかねない。

一般大衆が客として、あるいは客でなくても好きなように書き込める口コミ、どこかで整理しないことには、風説のプラットフォームになりかねない。サイトを整理する立場にいる組織や人たちが、クライアントに相当するレストランやお店とその顧客の間で、どちらにも肩入れしないフェアな立場にいられるとは思えない。クライアントとして金を払ってくれるレストランや商店があって、はじめて成り立つビジネス、いくらフェアにやってますといったところで、どこまでいう疑問に変わるだけだろう。

ほとんど信用していない口コミサイトについてあらためて考えたのは、シンガポールの新聞『The Straits Times』の「Man in coma after China restaurant sends gang to beat up couple who posted bad online review」と題したニュースを読んだのがきっかけだった。表題を意訳すれば、「辛口の口コミに怒ったレストランがヤクザを送って、たたかれた男性がこん睡状態」になる。ニュースのurlは下記の通り。
http://www.straitstimes.com/asia/east-asia/restaurant-in-china-sends-gang-to-beat-up-couple-who-posted-bad-online-review-report

ニュースによると、湖南省長沙市にあるレストランが厳しい口コミ(online review)を書いたカップルの家にヤクザ七人を送った。ヤクザが棍棒を振り回して、男性は脳に損傷を受けこん睡状態、婦人は骨折した。
カップルは九月十二日(火曜)、チキンと牛のバーベキューのデリバリーを注文した。翌日、「高いは、包装はだらしないし、新鮮じゃない。量は普通だけど、こんなにまずいバーベキューの肉ははじめてだ」と厳しい評価をonline reviewに書いた。

たかが辛口の口コミでヤクザに乗り込まれたんじゃ、たまったもんじゃない。読んだときは、そこはやっぱり中国なのかなとまでしか思わなかった。ちょっと経ってから、知らないだけかもしらないが、日本で似たようなニュースを聞いたことがないと思いだした。聞いたことがないのは、そこまで厳しい口コミを書かれても、日本ではレストランが早々簡単にやくざを使ってにはならないだろうし、それ以上にサイトを運営している組織と人たちが、事件になりかねないほどの辛口の評価やマイナスの評価を載せないように操作しているからだろう、と想像している。

下手すれば死人すらでかねない、良くも悪くも誰にも編集されていない裸の口コミがのる、ある意味信頼のおける中国の口コミ、日本の口コミより参考になるのかもしれない。レストランや店も客もさまざま、事情も違えば常識も違うから一概にどちらであるべきといいきれないが、お手盛りの口コミは体のいい詐欺のようなものだし、かといって事件にまで発展するような口コミは勘弁してほしい。どこかにちょうどいい折り合いのつくところはないものかと思ってしまうが、折り合いなんて面倒なことを考えることもなく、どんな口コミであれ、斜に構えて真に受けなければいいだけということかもしれない。
2017/12/10