組織の改革―新館をつくるように

どんな組織でも出来上がってきたときには、すでにその時代の要請から遅れ(はじめ)ている。当たり前の話で、組織のありようを決めたのは組織を作り始める前の時代の要請の理解に基づいたものだから、作っているときに、すでに遅れの要素が入り込んでいる。いくら次の時代の要請をと思っても、予言者でもあるまいし、自分(たち)の思いにひきずられた予想までしかできない。
時代の変化に合わせていかなければと思っても、出来上がった組織のありように安住していたいという生物の本能的な保守性が改革の前に立ちはだかる。立ちはだかる人たちには時代の要請に遅れをとった組織の中心的な立場にいる人たちや篤い支持者たちが多い。なかには、時代に遅れていることに自分(たち)の存在価値を意識的にか無意識のうちに抱えている人さえいる。

組織が時代の要請にそぐわなくなっていったことに気がついて、改革を考える人(たち)がでてくる。それは確立された組織の中の人(たち)で、組織が崩壊状態にでも陥らない限り外部の人(たち)が改革に参画することも、改革の当事者となることもない。ところが、組織内の改革者は組織に関与しすぎているだけでなく、しばし個人的な付き合いもある人たちの立場や思い入れに引きずられて、組織の骨格の改革にまで踏み込めない。

企業や事業の建て直しを生業としてきた経験からでしかないが、改革と呼べる改革を進めるには、次の三つの視点が欠かせない。
1) 自分たちを乗り越えるのは自分たちでなければならない。他人に乗り越えられたら、自分たちの存在意義がなくなる。問題を かかえながらも、それなりに機能している組織のありようを基本のところから大きく変えようと思えば、自分(たち)が培ってきた、誇りとしてきたものの主要な部分を破棄せざるを得ない。極端な言い方をすれば、自分たちの歴史を思い切って否定しえるか、する勇気があるかということになる。
もし、関係者の誰からも改革に対する反対意見の一つもでてこなければ、その組織はもう社会から否定するまでもないところまで痛んでいると思ったほうがいい。改革云々は考えるだけむだ。早々に放棄(ゴーストタウン化)して、以前からの組織や文化を引き継がずに新しい組織(都市の建設)を検討したほうがいい。

2) 今までの組織の改革などにリソースを割かないで今の要求にそった新しい組織を作る。 従来からの組織の束縛を受けない組織を隣に作って、新旧両方が並存するかたちを考えたほうがいい。昔ながらのやり方でやっていきたい人たちには、新しい組織にかかわることなく、自由に今まで通りやり続けていただいて、新しい組織への関与をご遠慮願う。

比ゆになるが、老舗の旅館の操業をどうのといじるのではなく、旧館は老舗(本館)として今まで通りで手付かずにおいておいて、時代の要請を組み込んだ新館を作ればいい。時の経過とともに、旧館が朽ちて、新館が時代の顔になっていく。旧館と必要以上の関係を保つこともない。放っておけば、必然として新館が次の時代の顔となっていくし、人の認識も必然として変わっていく。
2019/6/2