手も洗わずに手掴み、そりゃ蔓延するわな

暇にまかせて、一日中インターネットでアメリカの新聞を中心にあちこちの英字新聞にざっと目を通している。ドイツやシンガポールに香港の新聞もあれば、カタールやニカラグアに最近はインドまででてきた。どこも新型コロナウィルス関係の記事で溢れている。気になる記事の拾い読みだから、見落としているのかもしれないが、日本では常識になっている「手洗い」を目にしたことがない。不注意で読み落としているとは思えない。

新型コロナウィルスの感染経路は主に飛沫感染と接触感染だといわれている。そこから感染を防ぐには、人混みや閉鎖空間を避け、人との距離を開けて、換気につとめ、外出時には自分からの飛沫を防ぐためにもマスクを着用する。そして石けんをつかって手を洗って、消毒用アルコールで消毒する……。略して三密(密閉・密集・密接)、何も特別なことでもないが、これができそうで、できない人たちというか文化がある。

パンにハンバーガーにピザ、サンドイッチやサブにホットドッグ、フレンチフライやポテトチップス……、食の洋風化にともなって手掴みの機会が増えた。それでも箸やスプーン、時にはフォークを使う食事が普通で、三食とも手掴みという人は稀だろう。たとえ手掴みにしても、日本では、コロナウィルス騒ぎが起きる前から、特に食事の前には手を洗うことが躾としていき渡っていた。手は雑菌だらけが常識として共有されている。

アメリカではどうかと、改めて駐在していたときに目にしていた風景や自分の食習慣を思い返すと、日本食でもないかぎり、ほとんど手掴みがあった。限られた経験からでしかないが、食器は洗うのが当たり前でも、食事の前に手を洗うのが当たり前になっているとは思えない。
どの英字新聞にも手を洗え、少なくとも食事の前には手を洗えという注意を喚起する言葉がみあたらない。閉鎖した空間をさけて、マクドナルドなどがドライブスルーにしたという話を聞くが、手を洗ってということにはならないだろうし、アメリカでお手拭きなど貰ったことがない。
ナイフやフォークにスプーンを使うにしても、一日三食、人によっては無節操とも思える間食のすべてに手掴みがある。

なんということもなく使っているが、手掴みの人たちにとって、箸はけっして使い易いものではない。日本に駐在十一年の同僚が、箸を実にぶきっちょに使っていた。それでも赴任したとき、使えるようになろうと練習して手がつったことがあると言っていた。面倒が先にたつのだろう、使わないですめばと思う気持ちもあってのことだろうが、今となっては逆の視点さえでてくる宣伝があった。
ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)、イタリアを代表する高級ファッションブランドらしいが、一昨年末、箸での食事を馬鹿にしたかのような広告で顰蹙をかった。いかにも中国を思わせるシーンで、東洋系の容姿の女性がピザを箸で切るのに四苦八苦している動画は記憶に新しい。中国政府の厳しい対応に、思わず引いた人もいただろうが、拍手を送った人も多かったのではないかと思う。

問題とされた動画のurlは、https://www.youtube.com/watch?v=wHwTr2j0lxg

手掴みの食事に感染拡大の原因が、少なくとも一因があるといいだしたら、食文化そのものを問題視することになりかねない。ドルチェ&ガッバーナでもあるまいし、そんなことを言う気はないが、せめて食事の前には手を洗ったら、「Wash your hands dummy!」、と余計なお節介の一言いいたくなる。

アメリカで、親しい間柄の相手に「おい、手を洗え」を普通にいうとすれば、「Wash your hands dummy!」なる。Google Chromeに入力して検索したら、驚いたことに商品名「WASH YOUR HANDS DUMMY」になっていた。

https://www.etsy.com/listing/649920105/wash-your-hands-dummyhelping-train-your

印象を求めたこんな商品名があるくらい、アメリカでは食事の前に手を洗う習慣がない。ヨーロッパは出張でいったことがあるだけで、日常生活がどのようなものなのか知らない。目にした限りだが、手掴みはアメリカと同じだし、手を洗う頻度も似たようなものだった。

Dummy、時と場合によって意味合いに違いがあるが、軽く、「なー、お前」、「わかってんだろうな」、「しょうがねぇな」という前置きのようなものと思えばいい。バカのように見下した感じはあるが、はるかに軽い。コンピュータのソフトウェアの入門書に「さるでもわかるExcel」というのがあるが、「さる」に相当するのが「dummy」と思えばいい。
初心者向けの入門書には、よくdummiesが使われていて、「Excel for Dummies」もあれば「Science for Dummies」もある。「Corporate Finance for Dummies」にはお世話になった。

英語は仕事と生活で使わざるを得なかっただけで専門ではない。経験からに過ぎないが、英語での会話では、日本語とは比べようのないほど飛沫が多いと思う。
英語のthは上下の歯の間から舌を出さなければならないし、そもそも発音がきつい。日本語のように口先だけでフラットな抑揚では通じない。腹の筋肉も使って力を込めるというのか、Primary stressとSecondary stressをしっかり言葉としてださないと通じない。(辞書によれば、Primary stressは一次強勢、Secondary stressは二次強勢と言うらしいが、なんという日本語か、どうにもピンとこない。)

知人と会っても同僚と話をするときでも、距離をあけるのはもちろんのこと、日本以上のマスクはしてもらいたいと思う。唾液を吸い合っていたなんて想像しただけでも、気色悪い。
今、手を洗わないのは気色悪いではすまない。Wash your hands dummy!
2020/5/22