突然詐欺メールが来なくなった(改版1)

十月十六日、掃除機の音で目がさめて、いつものように昼ちょっと前に起きた。さっさと着がえて起きがけの水を一杯飲んで、さあ今日も一日とPCを立ち上げた。メールフォルダを開いて、迷惑メールを確認して削除した。まずは迷惑メールの削除という、なんとも非生産的にことから一日が始まる。一日の始まりの儀式のようになって、かれこれ十年にもなる。
往時(?)はちょっと目を離したすきに数十通は入ってきたのに、最近は多くても一日百通にみたない。早朝の四時過すぎから十一時過ぎまでの七時間ほどの間に入ってくるのはせいぜい十通かそこら。

受信箱に入ってきたニュースレターを開いて、気になる記事を読んで関連したことをWebで調べて受信箱に戻る。そこで溜まった迷惑メールを確認して削除する。使っていた鉛筆が減ってしまって削り直すようなもので、ニュースレターから記事へ、そして迷惑メール削除のルーチンを昼過ぎからから早朝まで繰り返している。
詐欺メールなんかいくら来たところで迷惑メールボックスに入るだけ。いくら溜まったところで、なにが困るわけでもない。それでも受信箱に戻るたびに、増えていく迷惑メールボックスの数字が気になる。

どうしたのか、いつもなら記事を読んでいるうちに新しい詐欺メールが入ってくるのに、いっこうに入ってこない。もう十年以上続いている詐欺メールが来ない。
三十過ぎからはからずも培養してきた水虫がある日突然治ってしまったようなもので、ほっとしたような寂しいような、どうしたお前、しっかりしろと叱咤したいような、いやいや明日にはちゃんと復活してくるんだろうという変な不安というのか期待まである。

翌日十七日の昼ちょっと前、いつものようにPCを立ち上げて、ちゃんと入ってるよなと半分以上期待して受信箱を開いてみたが、迷惑メールボックスの表示はゼロ。おいおい最盛期(?)には一日千件近いメールを送り付けてきたのに、なんの断りもなしでゼロってのないだろう。楽しみにしてたわけじゃないが、ああこんな詐欺のお先棒を担いで、この人(たち)将来どうするんだろうって蚤の糞ぐらいは心配していたのに水臭いじゃないか。

いちどその世界にメールアドレスが抜けると、いつになっても三種類のメールが届く。一つは格安で映画やなにかが見れるテレビカードとかいうもので、ある意味詐欺メール以上に癇に障る。謳い文句がべちゃべちゃの関西弁でうっとうしい。裏稼業のメール、違法だとしても営業なんだから、営業マンらしいきちんとした言葉にしろと一言いいたくなる。このべちゃべちゃメールは相も変わらず来るが、大した数じゃない。 二つ目はお金をくれるというメールで、一億何千万円とか、七千うん百万円を賠償だか懸賞だか、善意の人がくれるという話だったり、訴訟がどうのこうのと件名は違っても、まったく同じ金額のメールが届く。三つめは言わんと知れた出会い系とでもいうのか、可愛い女性名で今すぐ会いたいとかなんとかで、名前は違っても全く同じ件名が並んでいて、またお前かと呆れることがある。なかには女性向けのものまであって、おいおいそっちの毛はないぞってクレームつけちゃろうかと思うこともある。

どれも件名を入力してググれば、必ずといっていいほど出てくる。定型文でいくつかのバージョンがある。相手にしないで、迷惑メールボックスを空にして終わりにするのが一番いいが、暇でしょうがないのなら、しょうがない人たちとメールのやり取をしてみたらいい。返信に何を書いても、普通は定型文の返信がくる。頭ごなしに馬鹿野郎って返信をすれば、ときにはなじり合いのメールを交換することもできる。なじり合いに勝ったところで、気がはれることもないが、おバカの日本語がどの程度かをチェックすることぐらいはできる。スマホでやってるからかオツムのせいか、拙い文章で反応が遅い。十年以上前になるが、なじり倒したことがある。なじり負けて、「お前サイテーだな」なんて言い返してきたから、「上野のお山のおサルさん(比較に使って御免)以下の相手してやってるのに、とやかくいってくるな。ガキの頃からまともだったこと一度もなかったんだろう。かわいそうだとは思うけど、オレ小学校の先生じゃないからいつまでも付き合っちゃられない。悪いこと言わないから、もう一度小学校からやり直せ。平均寿命も延びてるってから、今からも遅くはないかもしれないぞ」って最後通告して終わりにした。それでも詐欺のお先棒を担いでいるヤツがどんな面をさげてるのか一度は見てみたい。

詐欺メールのサーバーはいったいどこにあるのかとWebで調べたら、セーシェルとかトンガといったタックスヘイブンに出てくる発展途上国だった。日本の詐欺野郎が国境を越えて、ローコストのお手軽詐欺メールということなのだろうが、こっちも大した仕事をしてきたわけじゃないから人様のことを言える立場でもない。それにしても、もうちょっとまともな仕事をと考えることはないんかと憐憫の情さえわいてくる。

十年以上の間には、何度か減ってそのまま終息するかと期待したことがあった。減ってはぶり返してを繰り返していた。どうも今回は様子が違う。全く入ってこない。大手というのも変だが、煩いヤツらがガサ入れくってサーバーが潰されたのかもしれない。まあ、メーリングリストはどこかに残っているだろうから、いくらもしないうちにぶり返すだろうと変な期待をして待っている。

p.s.
<迷惑メールが入ってきたら>
迷惑メールとの付き合いも長くなって、なんだこれというのが入ってきても驚かなくなった。なにか怪しげなメールが入ってきても、開かないほうがいい。開けばそのメールアドレスが日常的に使われていることを相手に知らせることになる。
カーソルをメールの上に持っていけば(マウスをクリックしないこと)、発信元のメールアドレスが表示される。なんだかわからないアルファベットが、なんでこんなに長いのかというアドレスだったら、百パーセント詐欺メールだから削除してしまうことをお勧めする。 それでも、いったいなんなんだろうと気になるようだったら、ちょっと手間だがつぎのようにしてみたらいい。

件名をメモしてGoogle Chromeに入力して検索する。拙い経験からだが、ほぼ間違いなく、世界中のどこかにその怪しげなメールを受信した人たちがいる。そんなメールを受け取ったのは、あなた一人じゃない。何人も人たちがあなたと同じように、どうしようって思っている。そう思うだけでも気が楽になる。
ちょっと想像してみればいい。余程のことでもない限り、送付先ごとにカスタマイズした怪しげなメールが来ることはない。Chromeで検索して出てきたのを見て行けば、親切な人が書いてくれた対策まで見つかる。といっても、メールを削除するだけで、それ以上はしようがないのだが。

受信拒否を設定しても役にはたたない。乱数表でもつかってなのだろうが、一度限りのメールアドレスを発行することでメシをくってるろくでもないヤツらがいて、詐欺メールのメールアドレスはその都度違う。

削除するしかないのだが、削除する前に迷惑メールボックスを開いて中身は確認したほうがいい。操作ミスかなにかで、大事なメールが迷惑メールボックスに紛れ込んでいることがあるから。
2020/10/18