食すも駆除も人間の勝手?(改版1)

遺伝子編集には遺伝子組換で言われるような危険性はないという記事をいくつか目にして、どこまで本当なのか、編集と組換はなにが違うのかが気になっていた。そんなときに偶然「ちきゅう座」の催し物案内に掲載された「落合・中井憲法九条の会」主催の遺伝子編集のセミナーを見つけた。
セミナーの会場、落合第二地域センターをGoogle Mapでみたら、自宅から直線距離にしたら大したことないのに、どうにも出にくい。電車だけならまだしも、バスは不慣れで使いにくい。歩くにはちょっと遠すぎるが、バスを乗り間違えるよりはと最寄り駅から歩いていった。

セミナーで遺伝子編集の革命的な可能性とそこに横たわる危険性をきいて、ちょっと調べなければと思いながら、あれこれ時間をとられて四月になってしまった。セミナーは二月一六日だったから、二ヵ月近く手をつけられないでぐずぐずしていたことになる。もういいかげんに始めなければと、あれこれほっぽりだして図書館でCRISPR/cas9の解説書を借りてきた。読み進めていって、ここまで科学が進歩していたのかと驚いた。事のついでにと、編集の一歩前の遺伝子組換の本に戻ってみたが、予想していた通りつまらない本だった。そこで遺伝となんなのか、進化とは何なのかをざっとなめておくかと一般向けの分子生物学の本を読み漁っていった。

極論してしまえば、進化は遺伝子の突然変異から起こる。人間が関与することなく自然におきた変異でも、人工的な操作による変異でも、どちらも突然変異で両者の間に違いはない。突然変異は対環境という視点でみると、優勢でも劣勢でもない中立的なものが多く、分子生物学者が発見でもしないかりぎ、誰もその突然変異には気がつかない。

突然変異の多くが環境に適応しえずに(自然淘汰)、あるいは既存の遺伝子の大海のなかに飲み込まれて希薄になって消滅してしまう。大海ではなく小さな湖のようなところで起きた突然変異は環境に対して劣勢でもなければ、一つの変異種として世代を超えて残っていく可能性がある。この可能性から性をとって一つの変異種として固定していく作業が人為的選択になる。
そんな本を読みながら毎日ミラーツインをみていると、どうみても遺伝としか思えないことに遭遇することがある。どうにも自分を見ているようでイヤな気持ちになる。突然変異と遺伝ねぇーって、ふとしたことから何年か前に目にした新種のザリガニの記事を思い出した。

ちょっとググってみた。すぐにNatureの記事が見つかった。読んだ記憶がある。二〇一八年二月七日付けの記事だった。マーブルドザリガニ(Procambarus virginalis)と呼ばれていて、九〇年代にドイツの水族館で初めて目撃された。原種の棲息地が離れていることから、水族館で雑交ではないかと言われている。

驚くのはマーブルザリガニにはメスしかいないといっていいのか、メスだけで繁殖する。その繁殖力の強さがどこからきているのか、研究者がDNAを調べていった。ザリガニの遠縁種の二つの近縁種の雑種らしい。遺伝的多様性が驚くほど欠如しているから、遺伝子の視点からみても最近になって生まれた、水族館生まれの新種だと考えられている。
マーブルドザリガニ、なんと通常の二本の染色体にもう一本余計に染色体を持っていて、合計三本の染色体を持っている。このおかげで交尾することなく繁殖できる。

見た目の綺麗さもあって淡水生物マニアの間では人気があるらしい。個人の鑑賞用であるうちはいいが、いったん外界にでたら雑食性と驚異的な繁殖力から在来種への影響が心配されている。生態系への脅威からEUでも米国の一部でも飼育を禁止している。

ところが、そんな心配や規制をよそに、もうマダガスカルでは在来七種が絶滅の危機に瀕している。研究者は駆除しなければと規制を喚起しているが、マダガスカルの人々にとっては、かけがえのないたんぱく源で田んぼで養殖のようなことまで始まっている。

日本で食用外来生物といえば、アメリカザリガニと食用ガエルが思い浮かぶ。どちらも人間の都合で持ち込まれたもので、手間暇かけずにたんぱく源をと考えてことで、今頃になって外来種だから、生態系への影響がと騒ぐのは、アメリカザリガニにしても食用ガエルにしても人間の勝手なんじゃないか言いたくなるだろう。

研究者や環境団体が喚起するマーブルザリガニの駆除、正論だとは思うが、今日の食に困っている人たちの目には食用としてのマーブルザリガニの養殖も繁殖ももう一つの正論じゃないか。

興味のある方は下記をご覧ください。
1) ウィキペディア
「ミステリークレイフィッシュ(英:marbled crayfish)」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5

2) Natureの記事
「Geneticists unravel secrets of super-invasive crayfish」
NEWS 06 FEBRUARY 2018
CORRECTION 07 FEBRUARY 2018
https://www.nature.com/articles/d41586-018-01624-y
マダガスカルの地図がついていて、マーブルザリガニの生息域の広がりようが一目でわかる。
2020/10/22