電気自動車にすればというけれど(改版1)

運転免許の更新も今年が最後で、五年後には自主返納しようと思っている。アメリカにでも行かない限り、運転なんかしようとは思わないし、年もいってもう運転も怖い。そんな自動車とは縁のない生活をおくってきたが、電気自動車にすればという話を聞くたびに、何がよくなるのか気になる。

一リットル当たり何キロ走れるかで燃費がいいのよくないのと聞いてきたけど、それはハイブリッドまでの話で、電気自動車なったら、どう勘定するんだろう。
電気自動車にすれば、地球温暖化の最大の原因とされる二酸化炭素の排出(エミッション)も減らせるし、大気汚染(ポリューション)も軽減できるという話は聞くが、電気自動車の燃費に相当するエネルギー変換効率の話は聞こえてこない。
なぜ聞こえてこないのか?斜に構えるが癖になってしまったものの目には、なんとなく胡散臭い。現在の、あるいは近い将来の技術レベルでは、エネルギー変換効率にさしたる向上が期待できないからじゃないのか? 本当のところはどうなんだろう。
ガソリンや軽油の代わりに電力ではいいけれど、電気自動車への電力はどこから持ってくるのか? 誰もが気になることだと思うんだけど、そこから、話が思わぬ方向に横滑りして、原発村が失地回復の好機到来と俄かに活気づいているようにさえみえる。

電気自動車の電力はどこからの前に、現在の電源構成――何から発電しているのかを見てみる。
経済産業省 資源エネルギー庁 「平成30年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2019) HTML版によると、電力の供給動向は下記の通り。

https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2019html/2-1-4.html

「2017年度の電源構成は、LNG火力39.8%(4,201億kWh)、石炭火力32.3%(3,406億kWh)、石油等火力8.7%(920億kWh)、新エネ等8.1%(855億kWh)、水力8.0%(849億kWh)、原子力3.1%(329億kWh)となりました(第214-1-6)。石炭火力のシェアは2016年度とほぼ同水準である一方、他の化石燃料のシェアが低減され、原子力及び新エネ他が増大しています」

不勉強が恥ずかしい。石炭火力がこんなに大きな比重を占めていたとは知らなかった。
全体をざっとみれば、LNG火力と石炭火力で72.1%、石油等火力を合わせれば、化石燃料から80.8%の電力を生み出していることがわかる。新エネルギー等8.1%は、太陽光発電や風力にバイオマスなどだろう。東日本大震災以降、安全性と放射能汚染が問題とされている原発は3%に過ぎない。
化石燃料に頼っているのは知っていたが、このままではマスコミが話題にしているゼロ・エミッションもゼロ・ポリューションもあり得ない。石炭は環境への負荷が大きすぎる。さりとて原子力は放射能汚染の問題を解決できない。となると新エネルギーを増やすかCO2回収・貯留(CCS=Carbon capture and storage)技術の開発しか方法があるとは思えない。ところが、これがどちらも簡単にはいかない。

自動車と電気自動車をエネルギーの視点で大雑把(に過ぎると叱られそうだが)にみれば、下記になる。
自動車の燃料はガソリンか軽油で、どちらも化石燃料の一種である原油から精製されている。電力はLNGガスや石炭といった化石燃料を燃やして得ている。おおまかに元をたどれば、自動車も電気自動車もそのエネルギー源はどちらも化石燃料。

自動車では化石燃料を燃やしてタイヤを回す運動エネルギーを得ている。電気自動車では化石燃料から一度電力エネルギー変換して、得られた電力でモータ(タイヤ)を回して運動エネルギーに変換する。
電気自動車にすればという話、極論すれば、化石燃料から直接運動エネルギーを取り出す自動車と、一度電力にエネルギー変換して、そこから運動エネルギーを得る電気自動車のどちらのほうが、トータルのエネルギー変換の効率がいいのかという問題にいきつく。
電気自動車の方がトータルのエネルギー変換効率が自動車より一割いいのなら、自動車由来のポリューションもエミッションも一割削減できるが、寡聞にしてこの比較を聞いたことがない。
変換効率に違いがなければ、ポリューションやエミッションを排出するのが市街地から遠い火力発電所なのか、それとも市街地で一台一台の自動車なのか違いでしかない。

二〇一八年の二酸化炭素総排出量のデータを見ると、運輸関係(自動車が主と考えていいだろう) が約一八%占めている。仮に一割効率がよくなったとしても、総排出量の二%にみたない。電気自動車にすればという掛け声の背景に何か、例えば原発推進があるんじゃないかと勘繰るなと言われてもという気がする。

太陽光や風力のような自然エネルギーを活用する技術開発に並行して水素発電がポリューションやエミッション対策に有効ではいかと注目されてきた。
実証プラントレベルでしかないにしても水素発電という画期的は発電方法の実用化を引っ提げて電力業界の地勢図の書き換えを試みる人たちもいる。水素発電に統一すればわかりやすいのに、車載かなにかの経緯があってのことだろうが、Fuel cellとも呼ばれてもいる。そこから燃料電池と呼ばれることもある。水素発電のほうがわかりやすいと思うので、ここでは水素発電を使う。

水素というと中学校の理科の時間の実験を思い浮かべる人が多いだろう。実験では、まず希釈した塩酸に鉄か銅の小片をいれて、そこから気体(水素)を発生させる。その発生したガスを空気中の酸素と反応(水素を燃やして)させて試験管内に水滴ができることを確認する。水ができたことから、発生した気体が水素であるという実験だった。
下記のサイトに分かりやすい説明がある。

https://www.try-it.jp/chapters-1521/sections-1554/lessons-1560/point-2/

水素発電と聞くと、理科の実験のように水素を燃やして、ちょうど火力発電所で天然ガスを燃やすのと同じ要領で、そこから高圧蒸気を発生してタービンを回して、タービンで発電機を回して電力を取り出すという方法をイメージするが、水素発電はこの燃やすという過程をとらずに、水素と酸素の間の電子の移動から直接電力をとりだすところが違う。直接とりだすことから、火力発電のように蒸気の発生から発電機までの大きな機械装置が不要になる。機械装置がないから、そこで生じるエネルギー損失もない。廃棄物は水素と酸素の化合物―水で環境汚染の心配もない。

エネルギー損失と言われてもピンと来ないかもしれない。それはプロセスの過程で生じる熱をエネルギー損失と思えばいい。これは日常生活においても照明器具で実感できる。白熱電球より蛍光灯の方が、蛍光灯よりLEDの方が、電力を光に変換する効率が高い。効率が高いということは損失が少ないということで、発生する熱が少ない。照明器具で欲しいのは光で、熱じゃない。熱は損失。

いいことずくめの水素発電にみえるが、問題は何から水素を作るかにある。現在の技術では大量の水素は化石燃料からしか作れない。化石燃料の主成分は水素と炭素で、水素を取り出せば炭素が残る。この残った炭素、そのまま炭素でいてはくれない。空気中の酸素とくっついて、しっかり二酸化炭素になってくれる。水素発電にしても二酸化炭素が廃棄物として出てくる。
違いは、同じ量の化石燃料からどれだけの電力を得られるかという、繰り返しになるが、エネルギーの変換効率でしかない。

太陽光や風力や地熱などの自然エネルギーから電力需要の大半を生み出せない限り、どうしても化石燃料に頼らざるをえないのが実情で、化石燃料から電力エネルギーへの変換効率の問題にいきつく。
ゼロ・ポリューションやゼロ・エミッションを目指して電気自動車にすればという話からぐるっとまわって、エネルギー源の化石燃料にもどってしまう。電気自動車にすることによって、環境負荷をどれほど減らせるのか? 素人にも分かる説明が欲しい。

2035年には二酸化炭素の排出量を2005年の何パーセントまで削減するという話があちこちから聞こえて来るが、目算すらたってるようにはみえない。2035年でも2050年でもかまいやしないが、どうみても話しの辻褄があわない。核心を隠したままきれいごとを並べておいて、最後は二酸化炭素削減を理由に、やおらクリーンンエネルギーとして原発をと言いだしてくるような気がしてならない。

「小型モジュール原子炉(SMR)のEPC事業へ進出」なんてニュースをみると、ますますその疑いが濃くなる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000065135.html

p.s.
<電気自動車の技術的課題>
1) 充電時間
充電(自動車の給油に相当する)に時間がかかりすぎる。
電気自動車を持っていないから実体験はないが、あれこれ読むと三十分はかかると言われている。ここからプラグイン・ハイブリッドの考えがでてくる。家電製品をコンセントにつないで充電する要領で、バスなどは営業時間が終わって駐車基地に帰ってきてから翌朝の営業開始までに充電すれば、家庭であればガレージや駐車場で夜充電すればいいという考えだが、決まった時間から決まった時間までしか使わない電気自動車ばかりじゃないだろう。

2) 充電池の充電寿命。
携帯電話やスマホで、充電表示は100%を示しているのに、使いはじめたら表示があっという間に減っているのを経験している人は多いだろう。電気自動車の充電池もこの技術的課題を解決できていない。
零寒地で充電量の表示をみて、100%充電できているものと思って出かけて行ったら、吹雪で立ち往生なんてことも起きる。最悪の場合、凍死なんてことにならないとも限らない。そこからガソリンエンジンも搭載したハイブリッド車が賢明な選択肢と考えるメーカや消費者がいる。
ガソリンエンジンを燃料電池(水素発電)に置き換えて、排気を水だけにした電気自動車(ハイブリッド車)も市販されている。

<転業と失業をまねく>
電気自動車にすればエンジンやミッション、センターシャフトといった重量級機械部品が不要になって、自動車の構造がすっきり簡単になる。モータも含め電装品は増えるが、不要になった機械部品を製造してきた企業は転業を迫られ、なかには転換しきれないところも出てくるだろう。電装部品の製造は、機械部品の製造ほど多くの従業員を必要としない。大量の失業者を生み出す。
2021/4/19