残雪

先月、久しぶりの大雪だった。豪雪地帯の方々にはそんなもの大雪じゃないだろうが、東京では大雪、積もって場所によっては一週間以上残った。マンションの九階から見る低層家屋の多い街の屋根やねの残雪が眩しかった。その残雪が日に日に減ってまだら模様になっていった。降った翌日、翌々日にはほとんどなくなってしまったところもあれば、一向になくらならないところ、そのコントラストが妙な感じだった。残雪の多い屋根や路地には、明らかに日が当たらないからといえる所もあるが、あちこちで、なぜ、ここではこれほど早く溶けてしまって、なぜここでは、これほどまでに残っているのか、なにがその違いを生んだのかがはっきりしない。雪が降るまえの普段見慣れている屋根やねの景色からは、なにが違いをもたらしたのか想像もできない。残っているから残りやすい環境なのだろう、残っていないから温度が上がって溶けやすいのだろうという程度の説明しかできない。何がそれほどまでの違いを生んでいるのか。
就職して十年にもなれば同期入社の間で、ときにはなんとなく目に見えるような、見えないような差というか違いを実感として感じるようになる。持って生まれた性格もあれば、社会に出る前に会得した能力、その能力を実社会で伸ばすべく与えられるチャンスや社内教育によって生じる、あるいは個人の努力によって得た業務上の能力の差も多少なりともでてくる。それでも、人間の能力は本質的に人事評価などでいくら公平な評価を試みたところでしれきれものではない。人間の能力はあまりに多面的過ぎて、人や組織がその価値観や社会観をもってして、それも定型化した評価方法では評価できない。それでも企業として、組織として、何らかのかたちで従業員を評価してヒエラルキーを構築してきたし、し続けざるを得ない。何をもってして公平な評価というか。答えはない。できることは、できるだけ公明正大に、数値化して、。。。という努力目標のお題目に掲げる程度までだろう。
同期といっても、同い年か、似たような年齢の人達が同じ日に就職したというだけの関係で、当たり前の話だが、親しい関係の人達もいればそうでない人達もいる。ただ、お互いに特別な関係ではないにしても、似たようなスタート地点から始まったという共通点がある。広い意味での能力と人間関係からだろうが、時間の経過と共にそれぞれが担当する業務にも違いが出てくる。その違いが次の違いや差を産み、それが拡大してゆく。しかし、明示化した違いを外部からつきつけられるまでは、似たようなチャンスを与えられ、似たり寄ったり、優劣を意識することもなく年月が経過してゆく。
ある日突然の人事発表、能力と評価の違いというのか差というのかが明示化される。同期の何人かが先に昇進する。誰が見ても納得のゆくほど能力と実績の違いがあって、それがゆえに同期の多くを後にしての昇進であることは稀だ。たかが三十代に入ったところの人の能力、中には誰もが認める優秀な人材もいるし、誰がどうみても使えない人材もいるが、上と下を除いた中央の集団にいる人達の間の能力や実績に取り立てた違い、これと言ったものを明示することの方が難しい。
何をしての違いなのか、たとえ違いがあったにしても明示化された差や違いを生むほどの違いではない、ほんの些細な違い、いくら細心の注意を払って家探ししても違いと言えるほどの違いが見つからないことの方が多い。たとえあったとしても取るに足らない、違いと呼べるほどの違いではないものが、時の経過とともに公平とは呼びがたい違いを生み出し、違いを加速してゆく。
明らかに終日日当たりがいいから雪があっという間に溶けてなくなってしまうところ。その逆に終日、日があたらないところで、周りにはどこにも雪がなくなってしまっているにもかかわらず、何時までたっても残っているところ。 この両極端を除いたところ、あっちでは結構溶けてなくっているけど、こっちはまだまだ残っている。温度計でも持って測定してまわれば、両者の違いを説明できるかもしれないが、フツーに見ている限りでは違いは分からない。多分、ほんのちょっとした、取るに足らない違い、そのちょっとした違いが一日のうちに何時間かあって、雪が溶ける速度の違いになるのだろう。一度解ければ、黒っぽい屋根がでてくる。白い雪は光を反射するが、黒い屋根は光を受けて熱を持つ。その熱が雪解けを加速する。加速が始まれば違いが加速的に大きくなる。
数日間、なくなってゆく雪、残っている雪、その違いを生み出しているであろう些細な違いを想像しながら、人間社会の結果としての違いを生み出す、本質的に複雑で多面的な能力と実績の評価のあり方が気になった。 いくら心がけても公平には評価し得ない人の能力とその能力を築くことを可能にした、しなかった、成功した、成功しなかった。。。も多くの場合、取るに足らない、違いと呼べないような些細な違いが、偶然のように生み出したものではないかと思えてならない。
2013/2/24