知らなきゃよかった

何でも知っていた方がと思いはするが、なかには知ってしまって、知らなかったほうがよかったと後悔することもある。
もし、「誰でも、多分九十九%の人が知りたいと思うことはなんだと思う?」と訊いたら、どのような答えが返ってくるのか。

政治屋や官僚の汚職や経営者やそれなりの立場にある人たちの背任行為については、誰でも知りたいと思っているだろうし、知ってしまって知らなかった方がよかったとは思わないだろう。それは芸能人のゴシップでも一部の篤いファンを除けば同じだろう。たとえであげるもの申し訳ないが、酒井法子のファンの一部には知らなかったほうがよかったと思う人もいれば、やっぱりとそうだったのかという人もいるかもしれない。でも、それは知ってしまって後悔するというより、がっかりというほうが大きいと思う。ビフォアーアフターのビフォアーは知らない方がいいし、楽屋は知らないに越したことはない。

松坂牛だと聞いていたのに騙されていたと知った人は、知って憤慨することはあっても、知らなかったほうが良かったと思わない。歴史上の偉人と言われる人たちや作られた英雄の知られざる一面を知った人たちもがっかりすることはっても、知らなかったほうが思う人は少ないだろう。

多分知りたくないという人がいない、すべての人が知りたいと思っていても知りようがなかった多くのことがWebで分かる時代になってしまった。その一つに手品の種明かしがある。種も仕掛けもありませんなんて口上を聞くこともなくなったが、見るたびにどうやってるのか気になってしょうがない手品、種や仕掛けがないはずはないと思っても、知りようがなかった。素人にも売ってくれる手品グッズ専門店を探して、グッズを買えば種も仕掛も買ったようなものだが、一度買って懲りた。分かってしまえば、なんていうこともない。数千円もだして、あまりのたわいなさにバカバカしくなった。

偶然見つけたYouTubeの種明かしサイトのいくつかをリストアップしておく。
こんなものを見ると、便利な時代になったのか、生きづらい時代になったのか。ビフォアーと同じで知らなかったほうが夢があったような気がしないわけでもないが、クリスマスや忘年会、あるいは新年会の余興に使えるかもしれない。

好きな目が出せるサイコロ
https://www.youtube.com/watch?v=Pb2OQUpTa1Y

剣飲み込むトリック
https://www.youtube.com/watch?v=ekolgJGGtWQ

レモンからカードが出てくるマジック
https://www.youtube.com/watch?v=sxMB2aXx9P4

【ハト出しマジック】色々出てくる手品【グラスやペットボトルなんかも出せます
https://www.youtube.com/watch?v=fs4kEqeRZ4c

チロルチョコの瞬間変化マジック
https://www.youtube.com/watch?v=5i1HW-S8PaA

ボールの色が一瞬で変化するマジック
https://www.youtube.com/watch?v=XBdRhcqU1MQ

ペットボトルが一瞬で消える手品
https://www.youtube.com/watch?v=Z3tiI-0uQ4E

液体が目の前で消える手品
https://www.youtube.com/watch?v=jIKQQ-LipWk

未開封ペットボトルにカード貫通
https://www.youtube.com/watch?v=vZM78EWtKtU

美女の体がバラバラになる!イリュージョンの定番
https://www.youtube.com/watch?v=zjDmePo0gyA&list=RDCMUC0dXZdPnEK8XOa-uiQyXeTw&index=4


なかには知ったとしても、認めるのを拒否したくなる人たちがいるものもある。
毎日新聞が十一月十三日付けで、Webニュースを配信してきた。

「日本語の原郷は『中国東北部の農耕民』国際研究チームが発表」
https://mainichi.jp/articles/20211113/k00/00m/030/100000c

記事の要点を書き写しておく。
「日本語の元となる言語を最初に話したのは、約9000年前に中国東北地方の西遼河(せいりょうが)流域に住んでいたキビ・アワ栽培の農耕民だったと、ドイツなどの国際研究チームが発表した。10日(日本時間11日)の英科学誌ネイチャーに掲載された」
「日本語(琉球語を含む)、韓国語、モンゴル語、ツングース語、トルコ語などユーラシア大陸に広範に広がるトランスユーラシア語の起源と拡散はアジア先史学で大きな論争になっている。今回の発表は、その起源を解明するとともに、この言語の拡散を農耕が担っていたとする画期的新説として注目される」

「ドイツのマックス・プランク人類史科学研究所を中心に、日本、中国、韓国、ロシア、米国などの言語学者、考古学者、人類学(遺伝学)者で構成。98言語の農業に関連した語彙(ごい)や古人骨のDNA解析、考古学のデータベースという各学問分野の膨大な資料を組み合わせることにより、従来なかった精度と信頼度でトランスユーラシア言語の共通の祖先の居住地や分散ルート、時期を分析した」

「その結果、この共通の祖先は約9000年前(日本列島は縄文時代早期)、中国東北部、瀋陽の北方を流れる西遼河流域に住んでいたキビ・アワ農耕民と判明。その後、数千年かけて北方や東方のアムール地方や沿海州、南方の中国・遼東半島や朝鮮半島など周辺に移住し、農耕の普及とともに言語も拡散した。朝鮮半島では農作物にイネとムギも加わった。日本列島へは約3000年前、「日琉(にちりゅう)語族」として、水田稲作農耕を伴って朝鮮半島から九州北部に到達したと結論づけた」

「研究チームの一人、同研究所のマーク・ハドソン博士(考古学)によると、日本列島では、新たに入ってきた言語が先住者である縄文人の言語に置き換わり、古い言語はアイヌ語となって孤立して残ったという」


「英科学誌ネイチャーに掲載された」のならと、英語の論文を探したら、ソースらしきものが見つかった。ご興味のあるかたは下記をどうぞ。

Triangulation supports agricultural spread of the Transeurasian languages
https://www.nature.com/articles/s41586-021-04108-8

Martine Robbeets, Remco Bouckaert, […]Chao Ning
Nature (2021)Cite this article

日本語と琉球語をひとまとめにして日琉語族と呼んでいるが、日流語族は(ウラル・)アルタイ語族の一つと考えられている。還暦も過ぎて日本語を少しは勉強しなきゃと始めてはみたが、あまりにも使い勝手のいい、融通無碍な日本語に呆れている。
漢文の強い影響に加えて先進ヨーロッパの科学技術の導入から生まれた翻訳日本語のもとには大和言葉があった。何を考えるでもなく使っている日本語の基底となった大和言葉とはどんなものだったのか気になって、あれこれ読んでいて、多分中央アジアから伝わって来たんじゃないかと勝手に思っていた。ウラル・アルタイ語族に属する日琉語族が日本で生まれて、遠くトルコを含めた西アジアにまで伝播したとは考えにくい。大陸の方が文化的にも進んでいたし、言語の伝達も方言周圏論がいうように同心円状に拡がっていったのだろう。

一学説に過ぎないとはいえ、「日本、中国、韓国、ロシア、米国などの言語学者、考古学者、人類学(遺伝学)者で構成。98言語の農業に関連した語彙(ごい)や古人骨のDNA解析、考古学のデータベースという各学問分野の膨大な資料を組み合わせ」となると、かなり信頼のおける結論と考えてよさそうだ。

「古事記」や「日本書紀」……をひっくり返して天孫降臨や万世一系......云々しての話ではない。そのあたりに固執している人たちにとっては、知らなかったほうがよかったという学説で、知ったところで黙殺するしかないだろう。科学的調査と研究に基づいて反論しようなどと試みる方もいらっしゃるとも思えない。知らないほうがというより都合の悪い事実と言った方が合っているような気がする。
2021/11/19