「ニンジャ」じゃなくて「ニャンジャ」だった(改版)

言葉は社会の変化に応じて、ときには変化を牽引するかのように日々変っていく。それはまるでダーウィンが進化論でといた生物の進化の社会文化版のような感さえある。日常生活で頻繁に使われていた言葉の中には使われなくなって久しいものもあれば、初めて耳にしたときには何を意味しているのか見当のつかない新語もある。一時にせよ世間を賑わしたのに、いくらもしないうちに忘れられていく言葉も多い。

コロナ禍でとんと外に出なくなった。一日中家にいてなにかできることはとぼんやり考えていたら、何かで読んだ社会主義者(野呂栄太郎か大杉栄だと思うが)の外国語習得の話を思い出した。ちょうどいいトルコ語でもかじってみるかと始めた。まずは辞書とWebで探した。 トルコ語―日本語である必要はない。―英語で十分なら、いくつもあってどれにするかと迷う。ためしに使ってみて、これが定番だろうと思うものをメインにして、Google translatorをサブとして使っている。

ある日の晩、何の気なしにGoogle translatorの言語選択の一覧表を開いたら、トルコ語の下に「ニンジャ語」があった。
ニンジャ語、まさかあの忍者でもあるまいしと、Google chromeでみてみた。よく分からないが、忍者がニンジャに、そしてNinjaになって、ついには「ニンジャ語」らしい(と思った)。
さっと見ただけで調べる気もならないが、Webには「オモシロ語」というものまであった。Google chromeで「忍者語 変換」と入力して検索すればでてくる。
たまげることはまだある。もしやと「ニンジャ語検定試験」と入力して検索したら、日本語教育から日本語能力試験につづいてニンジャ語検定試験のようなものまででてきた。京都外語大学では海外からの学生むけにだろうが、NINJAを日本の代名詞のように使っているようにさえみえる。
これも多種多様な文化の現れの一つなのだろうが、年のせいもあってとてもじゃないが付いていけそうな気がしない。

ところが、後日「ニンジャ」は「ニャンジャ」を見間違えただけだったことに気がついた。なんとも、だらしのない話で恥ずかしいが、この類の見間違いはカタカナよりひらがなが並んでいるときによく起きる。どうにも句と句のつなぎが上手くいかない、流れをもうちょっとすっきりできないものかと書き直していると、前の文句の一部が残っているのに気づかないことがある。そういう個所にかぎって一文字抜けていたり、二文字順序が逆になっていることが多い。

それは視力の問題というより、映像情報を処理する頭のなかの生理活動が以前の経験でインプットされたものに引きずられているからじゃないかと思っている。子どものころから、好奇心ばかりが強くて、じっとしていられない、注意力散漫のけがあった。年もとって多少なりとも落ち着いてきたはずだと思っているところに、今度は年のせいで不注意が多くなったのかもしれないと気になってしょうがない。

この類の病理分析もすすんで、症状を示す名前もついているのではと探してみたら、ADHD(注意力の障害と多動や衝動性)と学習障害がでてきた。でもちょっと違う気がして見ていったら、視覚情報を処理する脳の働きがどうのという説明ができた。なんの知識があるわけでもなし、突き詰めようがない。たとえ突き詰めたところで、この年になっていまさらどうこうっていう話になるとも思えない。ちょっとあれこれ説明を読んで、まあそんなところだろうというだけで、なんとなくほっとするから不思議だ。素人だからできることで、知らないのも悪いことばかりじゃない、とへんに納得している。

p.s.
<怪我の功名?>
なんとも情けない見間違いから、思わぬ発見をすることがある。「忍者語 変換」と入力して検索したら、一番上に「もんじろう | 文章を方言やオモシロ語に変換!」がでてきた。なんだろうと思ってクリックしたら、へっ、これ何というサイトだった。

「もんじろうー言葉・方言変換サイト」
http://monjiro.net/

どんなサイトなのか説明するまでもない。サイトに入って、赤地に白抜き文字のボタン「変換」の左にあるプルダウンメニューをみれば分かる。日本語の奥行きの深さに四苦八苦してきたが、方言だけでなく新語が氾濫して、どうしようと思うほど幅が広がっている。一度ごらんあれ。

人のように読み間違えるAIなんて開発しても使いようがないが、間違いじゃないかと指摘する機能はすでに開発されている。この機能はAIで実現されているのかもしれないが、AIじゃ駄洒落を言ったり理解したりするのは難しいだろう。ましてやこの新語の氾濫、もう駄洒落なんてレベルじゃない。それをAIでなんて考える人もいないだろうが、もしAIが発達して、なんとか処理できるかもしれないというレベルになったら、そりゃ確かに本物だと納得するのだが。
2021/8/19