なぜ営業の生産性を考えないのか

転職を決めるまでにお会いした人たちは何人もいない。当然のこととして、出社して「はじめまして」のひと言から新しい仕事仲間との付き合いが始まる。何らかの関係があって転職したわけだから、なにも知らない会社ではない。ところが、どこでも聞いていた話とのあまりの違いに騙されたような気になった。多少のことじゃ驚きゃしないが、あまりのギャップに慌てることもある。まあ、なんとしても解決しなければならない問題を抱えているから呼ばれる傭兵稼業、何処に行っても何があっても、どうにでもしてやる、どうにでもなるはずだと思うようにしていた。

上から下まで関係者やその周辺にいる人たちに、そこまで卑屈になることもないんじゃないかと思うほど下手にでて状況把握に努めた。会って何日でもないのに本音を漏らしくてる人たちは、こんなことをいうと失礼になるが、なんでも文句タラタラの困った人たちのことが多い。でも、その困った人たちのなかにこそ状況を変えてゆく意志と能力のある人たちがいる。一ヵ月もあれば、大まかに何をどうしていけば先が開けるのかの見当ぐらいついてくる。困った人たちのなかから、コイツならと思えるのがとりあえず一人二人いればいい。そこから一点突破を試みる。多くは求めない。あれこれ手をつければ、一つの成果もあげられない。半信ダメかもしれないと思っていても、そんなことおくびにも出さずに、ダメもとの前哨戦を繰りかえす。話していることがダラ話でもないことを一つでも見せられれば後が続く。先の光らしきものが感じられる状態が見えてくれば、放っておいても、組織の分掌に関係なくチャレンジしたい人たちが集まってくる。使える戦力しだいでどこに全勢力を集中するかが決まる。ここまでいけば後は時間の問題になる。

ちょっと乱暴な話になるが、行先々でお会いした方々はまず二通りに分類できる。現状肯定派というのか現状で美味しい立場にいる人たちと、現状のままでは日が当たることがないと思っている現状否定派。話を続けていると、肯定派にしろ否定派にしろ、使えない人たちが三つのグループに分かれていることがみえてくる。論理破綻とでもいうのか、言っていることに整合性のない人たちがいる。どこで何を聞きかじったのか経験したのか知らないが、でてくるのはせいぜい投網を担いでイノシシ狩りにでも行くような話しでマンガにもならない。二つ目が、これも肯定、否定にかかわらず必ずいるタイプで、文句はいっても自分からは何もしようとしない人たち。三番目はこれが大勢なのだが、覇気がないというより、どれだけ楽ができるのかだけにしか関心のない人たち。やればやるだけ実入りが増える夜職のために、やってもやらなくても給料が変わらない昼職にエネルギーを浪費しないようにしているとしか思えない人たちがいる。そんな上司の下で仕事をしようとして叱られたことさえある。この人たちには何を話しても、意味のある応答はない。

論理破綻をしていた人たちと、なんとしても会いたい。何をどうみてどう考えて、そんな結論になったのか問い詰めてみたい。論理破綻と勝手に言わせてもらっているが、いくつか例をあげておく。
「今期の戦略は前期の十五パーセント積み上げ」というだけで、それ以外になんの話もでてこない営業部長や課長。一体なにをどうしてどうやって十五パーセント増を達成しようとしているのか?目標を掲げるのが戦略とでも勘違いしているのか、未だに判らない。
「営業マンは客へいけ」「物を売る前に自分を売って来い」「営業日報報告をきちんとだせ」と口うるさいだけの営業本部長。高度成長期やバブルの最中でもあるまいし、バカでもチョンでも足繁く通ってりゃ注文が出てくる時代じゃない。
「百パーセント出資の海外子会社は代理店と同じ、一販社ですから」とくり返す海外市場担当の課長。
「お客様に愛と感謝」と言う創業社長。それでいったい何をどうするの?もし本当にそう思うなら、慈善事業よろしく無償で製品とサービスを提供したらいいじゃないか。

技術部隊と製造部隊が製造コストを一円でも下げようと血の滲むような努力をし続けているのに、営業部隊とその上部管理組織は営業活動の生産性を向上すべく何をしてきたのか?長年にわたるコストダウン活動のおかげで製造部隊にはさらなるコストダウンの余地がほとんど残っていない。営業活動の生産性の向上に真摯に取り組んできたことない営業部隊にはそぎ落とすべき堕肉がありとあらゆるところに垂れ下がっている。高度成長期についてしまったあっちの堕肉、こっちの堕肉を落とせば、コストが下がって利益が増えて、働いている人たちの給料も上げられる。

なぜ営業の生産性という視点がでてこないのか?答えは簡単で、営業部隊を牽引する人たちにその考えがないからに他ならない。なぜ考えがないのか?営業部隊は戦後の技術革新の大きな流れの外周に身をおいて、技術陣の生産性向上の恩恵を受けてきた。その他人任せの文化のなかで経験を積んできた課長や部長や役員たちは、昔取った杵柄を振り回す――若い頃に経験したことからしか考えられない、生産性の向上が求められる時代の要請に応えられない人材になってしまっている。自分の存続を賭けて営業の生産性の向上をさえないようにさえする、反社的な人たちでしかない。営業は最低限のリソース(人と金と時間)で最大の利益を叩き出す製品やサービスを客に提供するのが目的であって、客を訪問するのが目的じゃない。
ご用聞き営業をいつまで続けるつもりなのか。そんな非生産的な、非人間的といってもいい営業体制しか考えられない経営陣はいらないし、そんなことしかできない営業マンもいらない。
アマゾンを見ろ。従来からの常識では手間暇かかる一般大衆向けの小売業で急成長しているじゃないか。わかってるだろうが、そこには一般的に言われる営業マンが一人もいない。
2022/9/18