ガスコンロの炎からベンゼン発生?

暇に任せてあれこれ漁っていたら、なんのことやらという記事がでてきた。
「ガスコンロの炎から発がん性物質『ベンゼン』発生、換気扇で除去不可」
https://forbesjapan.com/articles/detail/64243
十月三十日に記事を見たら、どういうわけか翻訳者の氏名が男性から女性に変わっていた。

「ガスコンロの炎……」は、六月三十日付けのForbus Japanの記事で、六月二十二日にForbusに掲載された記事(下記)を翻訳したもの。
「Gas Stove Flames Emit A Carcinogenic Chemical That Exhaust Fans Cannot Get Rid Of」
https://www.forbes.com/sites/anuradhavaranasi/2023/06/22/gas-stove-flames-emit-a-carcinogenic-chemical-that-exhaust-fans-cannot-get-rid-of/?sh=34eb12474daa

訳文のタイトルは、原文にあるCarcinogenic Chemicalを具体的にベンゼンとしている以外は忠実に翻訳している。Carcinogenic Chemicalを発がん性化学物資とするより分かりやすくて好感がもてる。が、しかし、ガスコンロで都市ガスやプロパンガスを燃やしたら、ベンゼンが生成されるというのが解せない。何度か記事を読みかえしたが、疑問は晴れない。Forbesの原文にもあたってみたが、要を得ない。Forbes、なんどか読んだような気がするだけで、日々読まなければという雑誌とは思っていない。念のためとGoogleでForbesと入力したら、下記が出てきた。
「Forbes JAPANは、世界的な経済誌であるForbesの日本版として、世界中のビジネスニュース、ランキング、テクノロジー、リーダーシップ、アントレプレナー、ライフ ...」
「新着記事」
「Forbes JAPANは、世界的な経済誌であるForbesの日本版として、世 ...」
自称によると信頼のおける雑誌らしいが、雑誌社がみずから生成?されるベンゼンの量を測定したわけでもないだろうからと、ソースを探した。驚くことにStanfordの研究者(?)の報告だった。六月十六日付けStanfordのNewとして下記があった。
「Study finds combustion from gas stoves can raise indoor levels of chemical linked to a higher risk of blood cell cancers」
https://news.stanford.edu/2023/06/16/cooking-gas-stoves-emits-benzene-2/#:~:text=Stanford%20researchers%20found%20that%20cooking,those%20found%20in%20secondhand%20smoke.&text=A%20chemical%20linked%20to%20a,residents%20light%20their%20gas%20stoves.
記事には、ご親切に戸建て住宅のキッチンのガスコンロから生成?されるベンゼンが他の部屋にまで広がっていく様子を描いたアニメまでついている。
Stanfordのニュースということなのだろう、NPR(National Public Radio)も六月十六日付けで「Gas stoves pollute homes with benzene, which is linked to cancer」と題した記事を掲載していた。
https://www.npr.org/2023/06/16/1181299405/gas-stoves-pollute-homes-with-benzene-which-is-linked-to-cancer

ソースまでいってはみたものの、何をいわんとしているのか素人にはよくわからない。下記は何を知っているわけでもない巷の素人の理解で、とんでもない勘違いをしているかもしれない。ただ、どう考えてもStanfordの研究者が何を思ってガスコンロからベンゼンが排出され、煙草の二次喫煙より有害だと言い出したのか分からない。また名のある雑誌やニュースサイトが研究者の言を真に受けて拡散しているのも不思議でならない。もし名門Stanfordだからということで、言っている事の真偽を確認することもなく掲載したのだったら、コタツ記事となにが違う?雑誌やニュースサイトの姿勢が問われる。

ベンゼンの化学式はC6H6--- 炭素原子六個と水素原子六個でベンゼン環といわれる化合物。ベンゼン環は、その毒性から含まれてもいい―最大許容量が決められている。原油にしても天然ガスにしても精製段階でベンゼンを取り除いている。
環境再生保全機構のホームページにベンゼンとはから規制値まで分かりやすく解説されている。urlは下記の通り。
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/yougo/kw108.html
ベンゼンの環境基準
人の健康を保護する上で維持することが望ましい基準として、1年平均値が0.003mg/m3以下であることとされている。(1mg=1000分の1g)

石油も天然ガスも不純物を除けば構成元素は、ベンゼンと同じ炭素と水素。炭素が燃えて(酸素と結合して)二酸化炭素(CO2)になる。水素が燃えて(酸素と結合して)水(H2O)になる。ガスコンロでガスを燃やせば、ベンゼンも燃えて二酸化炭素と水になる。ならないわけがない。もしガスを燃やしてベンゼンを生成できるのなら、その生成したものは硫黄などの不純物を含まない純粋なハイドロカーボン(炭素と水素)の化合物―石油や天然ガスと同等のものが得られる。記事に書かれていることが事実なら、Stanfordの研究者はノーベル賞もんなんてもんじゃない、世紀の大発見をしたことになる。それほどの発見なら学会で発表してNature誌に掲載されるはずと思うが、六月十六日からほぼ三月になるが、まだ目にしていない。能力がなくて見つけられないだけかもしれないが。

ガスコンロから発生するベンゼンが健康障害の原因になるというのであれば、家庭の料理時間のように一時間やそこらじゃなくて、一日八時間は調理場に立っているコックは職業病として呼吸器疾患やガンを患う人が多いはずだが、寡聞にしてそのようなニュースを聞いたことがない。

ガス中の含まれるベンゼンは燃えてしまうはずだから、ガスコンロの栓を開いて着火するまでに、燃えずに漏れるガス中に含まれるベンゼンの流出の方が問題なんじゃないかとWebで漁ったら、下記の論文が出てきた。
「Risk Assessment of an increased concentration limit of benzene in natural gas」
https://www.rivm.nl/bibliotheek/rapporten/601352002.html
National Institute for Public Health and the Environment Ministry of Health, Welfare and Sportはオランダの行政機関と考えられる。urlは下記の通り。
https://www.rivm.nl/en

「Risk Assessment of an increased concentration limit of benzene in natural gas」の12ページに下記の記述がある。
3.2 Exposure scenarios for consumers
3.2.1 Exposure due to cooking
In the Netherlands many households use natural gas for cooking. During cooking with natural gas the consumer can be exposed to benzene in the gas. The exposure will occur because unburned gas is released into the kitchen during the few seconds from when the gas tap is opened until ignition of the gas. Once the gas is burning, benzene is also burned and the consumer is no longer exposed.
機械翻訳すると下記になる。
3.2.1 調理による暴露
オランダでは、多くの家庭で調理に天然ガスを使用している。調理中消費者は天然ガス中のベンゼンに暴露される可能性がある。被ばくはガス栓を開けてから数秒間、未燃焼のガスが台所に放出されるためである。
ガス栓を開けてから点火するまでの数秒間、未燃焼ガスが台所に放出されるためである。いったんガスが燃焼すれば、ベンゼンも燃焼し、消費者が暴露されることはなくなる。

Stanfordの研究者の論文?アニメまでついて、なんかどこかの高校の文化祭の出し物のような気がしてきた。人騒がせな論文?のおかげでメディアの、少なくともForbesとNPRの姿勢を確認できた。ForbesとNPRのニュースレターは、迷惑メールに設定した。
2023/9/10 初稿
2023/11/1 改版