地図を読む人、地図を変える人(改版)

十一月二十二付で、ABCニュースが高校生によるChatGPT活用の是非を問う記事を送ってきた。
「ChatGPT was tipped to cause widespread cheating. Here's what students say happened」
https://www.abc.net.au/news/science/2023-11-22/how-high-school-students-used-chatgpt-2023-education-cheating/103108620?utm_source=sfmc&utm_medium=email&utm_campaign=abc_specialist_science_sfmc_20231122&utm_term=&utm_id=2252673&sfmc_id=353532960
記事の表題を機械翻訳すると、下記になる。
「ChatGPTはカンニングを蔓延させると言われていた。以下は学生たちの証言である」

インターネットが普及して、居ながらにして世界中のニュース読めるようになった。機械翻訳も進歩して、主要言語から日本語への変換も十分使い物になるようになった。ずいぶん便利になったものだと重宝に使っていたら、驚くことにChatGPTという生成型検索エンジンが登場してきた。検索結果を表示するまでの検索エンジンだったのが、きちんとした文章にまとめるものに進化した。
ChatGPTが登場する前から、情報管理や操作から監視社会へという方向に進んでいるような気がしてならないが、国境を越えたインターネットの性質から、監視警察国家でもなければ、規制するにも国内までしか手が及ばない。
インターネット上に溢れるプロパガンダを規制しなければとも模索しているところに生成型検索エンジンが登場したからたまらない。生成型検索エンジンがおよぼす影響の大きさと広さに、アメリカでもヨーロッパでもどう規制すべきかと議論が交わされている。ただ問題としているのが社会全体に対する影響で、あまりに範囲が広すぎて、どこでなにが起きているのか把握することもできないでいる。
無秩序な情報の氾濫は混乱と社会不安を醸成するから規制は必要だろうが、誰がどのような基準で管理するのかという具体的な話にはなかなかならない。

記事ではアメリカとオーストラリアの高校で、何が起きていて、具体的にどう規制すべきなのかという議論と、規制しようがないのだから積極的に活用することを考えるべきじゃないかという意見を紹介している。高校教育に限定しても、一様にこうした方がという結論はでそうにない。それでも何が起きてきているのか、そして何が起きようとしているのか、さらにどうしたらいいのか、すべきなのかを考えるきっかけにはなる。そこから変わらざるをえない状態に落ち込んだ教育現場のありようから学者や研究者、そして教師が何を求められるのか、求められようとしているのかについて考えざるをえないことが見えてくる。

機械翻訳した記事の要点を書きうつしておく。断片的になるが、ご容赦を。
エッセイを作成したり、宿題をこなしたり、持ち帰り課題のカンニングをしたりすることができる人工知能(AI)ライティングツールに生徒がアクセスすることを、教育省は禁止した。
一部の専門家は、学校はカンニングの波に飲み込まれるだろうと言っていた。
多くの教師は、生徒がカンニングをしているのではないかと強く疑っているが、はっきりしたことはわからないと答えた。
一方、新しいAIツールを受け入れ、逆の方向に進んだ学校もあった。校長たちは、生徒たちはおそらく彼らの将来を決定づけるであろうテクノロジーの使い方を学ぶ必要があると言った。

しかし、そこには生徒自身の視点が欠けていた。
学年が終わりに近づくにつれ、我々は11年生と12年生の生徒たち(注:日本の高校二年生と三年生相当)に、彼らが実際にどのようにジェネレーティブAIツールを使うことになったのかについて話を聞いた。
全体として、これらは歴史的な瞬間からの物語であり、教育の未来への洞察である。高校生が高品質のAIライティング・ツールに簡単にアクセスできるようになった最初の年である。
以下は彼らのコメントだ。
チャットボットなら数秒で叩き潰せる。(注:宿題や課題を簡単に済ませるという意味)
最初は好奇心旺盛な生徒もいたが、慎重な生徒もいた。
ある者は一度使ってからやめた。また、使い続ける人もいた。
何人かは捕まったが、多くは捕まらなかった。(注:捕まるー使っていることが教師にバレたという意味だろう)
生徒がAIを使って課題をカンニングするのをやめさせるため、彼の学校はより多くの授業内評価に切り替えた。

新しいAIライティング・ツールには使い道があった。第1学期、彼はChatGPTを使ってカンニングの実験をした。
彼は捕まらず、まずまずの成績を取った。
次に、ChatGPTに宿題を出しました。
意味のない単調な仕事だ。チャットボットなら数秒で終わらせることができる。
エリックは、2023年の間にChatGPTが宿題のほとんどを書いたと推測している。
「宿題の60%はChatGPTが書いたものです」

シドニーのYear11(高校二年?)のChrysoulaは、当初はChatGPTを「退屈だと思う宿題をこなすのに頻繁に」使っていた。
クラスメートの多くも同じことをしていたという。
クラスのディスカッションで誰かが良い答えを読み上げると、誰かが身を乗り出して "Chat[GPT]?"とささやいた。
"みんながみんなの答えの信憑性を疑っていた"。
しかし、年が明けると、クリソラは自分の「批判的・分析的思考が少し損なわれている」ことに気づいた。
「暗記するための知識を与えてくれるAIに依存し始めていたのです」
AIが彼女の学習能力を害することを心配したクリソラは、ChatGPTのウェブサイトにアクセスできないようにした。

別の高校に通う12年生のフィルもまた、各生徒がどれだけAIを使って授業を行っているかによって、クラスメートの間に溝ができているのを目の当たりにしている。
彼の学校では、生徒がアイデアや研究のためにChatGPTを使うことは認めているが、評価を直接書くことは認めていない。
しかし、フィルによれば、依然として多くの生徒が課題をカンニングしているという。彼は、彼らが「何も学んでいない」ことを心配しており、HSC(Higher School Certificate)試験での成績不振が最終的にATAR(Australian Tertiary Admission Rank)に響くことを懸念している。
「学校のかなりの生徒が何も勉強していない」

マッコーリー大学でアカデミック・インテグリティの責任者を務めるケイン・マードック氏は、AIの不正行為の割合が今は低くても、今後増える可能性は高いと言う。
彼は、学生が自信をつけ、AIを使ってより多くの授業を自動化する方法を学ぶだろうと考えている。
AIの不正行為を禁止しても効果はない。
我々が話を聞いた生徒の多くは、宿題や課題にAIツールを使うことを止める力は教師にはほとんどないと言う。

機械翻訳のコピーはこの辺りで十分だろう。
要約すれば下記になる。
1) ChatGPTの使用は止められない。
2) ChatGPTをつかえば、定型化した課題を短時間で処理できる。
3) 日常的にChatGPTを使っている学生の多くが、それを使えない入試や検定試験をどうするか悩んでいる。
まあここまでは、起き始めた現象から定型的に引き出せる結論でしかない。

GhatGPTが突きつけた問題の本質はこの結論の先にある。
1) 公知の知識や情報であれば、教師の助けを借りることなくWebから必要な情報を集めて誰でも勉強できる。
この状況をかつて将棋の羽生が「高速道路の先の渋滞」と言った。
2) 教師は、情報や知識の伝授ではなく、教え方と学習支援の技量を求められる。一言でいえば、「教師はサービス業だ」ということになる。
3) 羽生がいった「高速道路の先の渋滞」では、たどり着きたい、たどり着かなければならない地点―将棋のプロ棋士が明確に規定されている。
ということは、とりもなおさず到達地点はすでに明確に規定されているとうことで、常識をひっくり返すような新機軸や発想、発見や発明は思考の範疇に入っていないことを意味している。
4) そう考えていくと、学者や研究者の多くが、実は先達の足跡をなぞっているだけか、新しい解釈をもちだしているだけではないかという疑問が出てくる。カーナビが卑近な例になる。カーナビがどんなに優れていても、表示できるのは既知の道や建物や遺跡までで、まだ生まれていない、気が付かれていないところは表示できない。これは検索エンジンの機能も言える。インターネット上にアップされていない情報は検索のしようがない。それは生成型になっても何もかわらない。
5) コンピュータがいくら進化しようが、既知の知識から今まで存在したことのないものを生み出す人間の能力には及ばない。この及ばないところにこそ、人の人たる所以、能力がある。そこにこそ学者や研究者の本分があるはずだろう。
6) 既知の情報をまとめて文章として提供する能力は、極端にいえば、既知の情報の扱いのかたでしかない。
変な言い方になるが、地図を読む人と、今までなかったものをつくりあげて、それを地図に加える人。人それぞれだし、比較するようなことではないが、どちらを志向したいか?問うまでのこともないと思うだが、どうだろう。
2023/11/27 初稿
2024/1/22 改版