YouTuberが伝えるハバナの庶民の生活(改版)

コロナ禍で図書館が閉館になったのがきっかけで、Webで海外のニュースを読に目を通すのが日課になってしまった。New York TimesやThe AtlanticにBBC、APやReuterなどの名の知れた新聞社や通信社しか知らなかったのが、いつのまにやらAl JazeeraやThe HillからDemocracy NowやProPublicaに、そこからAllAfrica NewsやThe Natureに広がって行った。
New York TimesやGuardianは購読してないから、News Letterに気になる見出しがあれば、その記事を配信しているサイトや似たような記事を掲載しているサイトを探すことになる。そこから定期的に見にいかなければというサイトが見つかることがある。英語まででていけば世界で何が起きているのか、何を問題として騒いでいるのか、おおよそにしても分かる。コロナ禍のさなかは毎日かかさずBeckers Hospital Reviewをみていた。
昼前に起きだしてニュース漁りの一日が始まる。おおかた片付いたところでトルコ語を独習する。疲れたら気晴らしに本を読んで、飽きたら気になることや思いついたことを書き残している。

コロナ禍が落ちついて図書館が再開されたとき、堀田善衛をもう一度、こんどは全集を借りてきて手できるものは全部読んでやろうと始めた。ほとんど再読、なかには再々々読でしかないのに、あらためていろいろ考えさせられた。その一つが『キューバ紀行』だった。二十歳をちょっと過ぎて読んだときは感動して涙までした。アメリカ資本に支配されて植民地のような状態だったキューバが独立した。クーデタのような革命だったが、多くの国民の支持を背景に建国が進んでいくさまが『キューバ紀行』に生き生きと描かれていた。ところが、その後今日に至るまで革命の熱気は流行病だったのかと言いたくなるような情報しか流れてこない。若くして死んだゲバラの肖像にはかつての熱気があふれているのに、年老いたカストロからは干からびた失望に近いものしか感じられなくなってしまった。堀田善衛が描いたキューバ、そして若き革命家に率いられ人びとの希望の星だったキューバはどこにいってしまったのか。

二十歳で社会人になってから還暦を過ぎまで製造業で禄を食んできたこともあって、政治経済や市民活動とは縁のない生活を送ってきた。転職するたびに新しい業界とそこで必要とする知識の吸収に明け暮れた高専出、社会や経済に関する知識は中学卒業程度しか持ち合わせていない。思いもしないきっかけから「ちきゅう座」の会員にさせていただくまで、ちきゅう座という名のサイトがあることも知らなかったし、社会や経済、ましてや哲学などを語る知り合いもいなかった。ちきゅう座に集まっていらっしゃる方々からさまざまなことをお聞きして、催し物のページをみては情報と知識を求めて出かけていった。ハバナにまでいかれて直にキューバを目にしてきた方からのお話は新鮮だったし、キューバの経済政策を担っていらっしゃるキューバの大学の先生のお話にも驚いた。計画通りに自由化が進められているというお話とどこかからか漏れ伝わってくるキューバの惨状があまりにかけ離れていて、どっちが実情に近いのか見当もつかない。今日のキューバを伝えるニュースサイトはないものかと探した。アメリカ側のプロパガンダなんか読んでもしょうがないし、キューバ政府の公式見解などから何が分かるとも思えない。外国語は英語までで、スペイン語は分からない。わからなくても、かまいやしない、中南米を網羅していそうなサイトのこれはと思う記事を機械翻訳してみたが、キューバの現状を伝える記事はみつからない。キューバのニュースということではHavana Timesがあるが、表面的なことまでで事の本質にせまる記事にはであったためしがない。どこかに実を伝えるサイトがあるはずと思ってはいるが、いくら探しても見つからない。Havana Timesのurlは下記の通り。
https://havanatimes.org/

そんなことをしていて見つけた、読んでもしょうがない典型的な「左傾」のサイトを一つ上げておく。
The New Republicはアメリカの左翼系のニュースサイトで、直截で分かりやすいのはいいが、度を越えた偏りがみられる。urlはhttps://newrepublic.com/。
サイトに掲載されたキューバの観光広告を見るたびにがっかりする。広告収入を求めてのことだろうが、肝心の政治経済社会全般から庶民の生活についてのニュースがない。

ニュースサイトや本に疲れたとき、YouTubeで気分転換している。偶然旅系ユーチューバーとでも呼んでいいのか Bappa Shotaと自称する人のYouTubeが見つかった。
「物価超高騰キューバに1万円持って行ったら10倍の金になって大金持ちに」
https://www.youtube.com/watch?v=VrbdMR6TWxM&t=1604s
「社会主義国キューバ政府が世間に絶対に見せたくない闇の実態...」
https://www.youtube.com/watch?v=-Lq_BF_Zzhc
「社会主義国キューハ゛の売◯婦と彼氏の生活に密着してみた」
https://www.youtube.com/watch?v=Q5zL4FEW2-8
「死亡率99%の魔の海へ亡命するキューバ人達のリアルが恐ろしすぎた」
https://www.youtube.com/watch?v=i7BIiHPYeK4&t=1066s
「2度と社会主義国キューハ゛へ出入国できなくなりました」
https://www.youtube.com/watch?v=1LMEgud7h6c

新聞社やテレビ局のような組織的後ろ盾を持たないYouTuberが発信しているYouTubeの方がキューバの現実――たとえそれが断片的だったとしても――を伝えてくるのは、これるのはどういうことなのか?何故と思わずにはいられない。既存のマスコミや先生方への不信感が募っていくのを抑えられない。

<おまけ:ジャマイカの日常>
「世界の大富豪達に植民地化された国の残酷な超差別社会の実態...」
https://www.youtube.com/watch?v=yfVHtxScDTE&t=770s

p.s.
二十歳過ぎからプロパガンダに引きずられてきたことへの反省もあって、高名な先生のお話やブランドで売っているようなマスコミの記事をみると、裏返して透かしてみたくなってしまう。古希をすぎるまで半世紀にも渡って、プロパガンダが伝えることと日常生活で目の前にする社会の状況との乖離をどう説明したらいいのかと考え込んできた。やっとたちこめた霧が晴れてきたような気がしている。
バカが真に受けたプロパガンダの一例を「プロパガンダを真に受けて」と題した拙稿にまとめて、二〇二三年一月十一日付けで「ちきゅう座」に掲載していただいた。urlは、http://chikyuza.net/archives/124663。
拙稿で取り上げたプロパガンダは、雑誌「世界」の一九七六年二月号に掲載された西川潤の「北朝鮮の経済発展」と題する報告。
2024/6/3 初稿
2024/7/17 改版