日常生活からは太陽が回っているように見える(改版)

六月十日付けのNew York Timesのニュースレターに「I’m the Governor of Nevada. This Is Why Trump Is Doing So Well With Our Voters」と題する記事があった。機械翻訳すれば、「私はネバダ州知事だ。これがトランプが有権者に支持される理由です」になる。urlは下記のとおり。
https://www.nytimes.com/2024/06/10/opinion/trump-biden-nevada.html
もしNew York Timesの記事にアクセスできなかったら、DNyuzがNew York Timeの記事を配信しているから、こちらからどうぞ。
https://dnyuz.com/2024/06/10/im-the-governor-of-nevada-this-is-why-trump-is-doing-so-well-with-our-voters/

ネバダは共和党支持の州だったが、カリフォルニアからの転入が続いて民主党支持者が増えた。(二〇二〇年以降、十五万八千人がカリフォルニアから転入した。これは人口増の四十三パーセントにあたる。ちなみにネバダ州の人口は三一八万人) その結果、共和党の支持率と拮抗してきてスイングステートの一つに数えられるようになった。二〇〇八年以降の大統領選挙では民主党候補が勝ち続けているが、今年の選挙ではトランプ有利と言われている。アメリカ経済は堅調に推移していて失業率も低く抑えられている。メキシコからの移民問題はあるが、インフレも収まりそうな雰囲気になってきているのに、なぜゴロツキとしかいいようのないトランプを支持する人がいるのかと思う人もいる。そういう人たちに向けてだろう、New York Timesがネバダ州の知事の発言を掲載した。

記事の要点を機械翻訳した。
「ネバダ州民は、経済や家族の繁栄に満足していないとき、変化を起こすために投票することが多い。2022年の選挙で、私は現職知事を落選させた唯一の候補者だった。そのとき私が選挙戦で有権者から最も多く聞いたのは、より強い経済を構築することの重要性、特に高賃金の雇用と減税の必要性だった」
「私が大統領(州知事であって、大統領は翻訳の間違い)に就任したとき、ネバダ州はパンデミックによる経済的二日酔いに苦しんでいた。その後数ヶ月の間に、私たちは主要事業税を15%引き下げ、増税に拒否権を行使し、行政命令によってお役所仕事をなくし、知事経済開発局に競争力のあるインセンティブ・パッケージを作成する権限を与えた。その結果 その結果、新たに50億ドルの民間経済投資を創出し、年間雇用成長率で全米をリードし、州内で数千の新規雇用を創出した」
「しかし、バイデン政権がインフレ抑制に失敗した結果、州民の多くが物価上昇に苦しんでいる。バイデン氏が大統領に就任して以来、物価は19%上昇し、実質的な平均週間所得が4%減少した大きな要因となっている。このような経済の混乱は、ネバダ州の家庭にとって持続不可能である」
「ラスベガスの住宅価格の中央値は2021年1月には342,995ドルだったが、今年には460,000ドルに急騰した」
「ネバダ州の平均給与は55,070ドルだが、ネバダ州民が中央値住宅の住宅ローンを毎月支払うには、少なくとも111,557ドルの収入が必要となる」
「2021年1月と同じ商品やサービスを購入するために、インフレによってネバダ州民は毎月1,199ドル余分に負担している。バイデンが大統領に就任して以来、食料品は20.6%、家賃は21.6%、ガソリンは46.99%上昇している」

地球にいては地球を見きれない。生まれ育った日本にいて日本をみようとしても見きれないことがある。そこでアメリカで生活して考えたことから、日常生活から必然として引き出される気持ちをみていくことにした。
仕事で二十代の中頃にニューヨークに、三十代後半にはクリーブランド、そして五十を過ぎたときボストンに短期間だが住んでいた。今になって思えば、所属する社会層の違いが知り合うアメリカ人の社会層を決めていた。ニューヨークでは中の下の人たちもいたが、大半は下層階級の人たちだった。クリーブランドではほとんど全員がきちんと大学を出ていて中の中あるいはそのちょっと下あたりの人たちだった。ボストンではハーバードやMITの教授も含めて、中の中から中の上の人たちだった。
下層階級の人たち以外は、かなり親しくなっても政治や経済に関する意見を交わすことを避けるのが生活の知恵のようになっていた。ただ一人、ボストンでお世話になった公認会計士だけが違った。アメリカの最大の問題は経済格差にあるという人で、「CEOの所得は従業員の平均給与の二十倍までじゃなきゃいけない」言っていた。サンフランシスコ出身で若い時はポニーテールでベトナム反戦運動をしていた人だった。
アメリカ人に一般的にみられる社会観の大きな特徴は、事業に成功して金持ちになった人が立派な人で、恥ずかしげもなく羨望の念を吐露する。平たく言えば、社会的な地位も瀟洒な生活も何でも金次第で、何をしてもしなくても金さえ手にできれば成功者として評価される。
ただボストンで知り合った大学教授たちの視点は金ではなかった。自身の能力と努力が生み出す成果とそれについてくる社会的立場。そこから必然として生まれる経済的基盤があるという意識だった。中流の生活はしているが、決して金持ちと言える生活には見えなかった。
もう一つ特徴的だったのが税金と社会福祉に関する否定的な考えだった。自分で稼いだ金をどんな名目にしても取り上げることに対する不満が共通していた。国王や領主……に搾取されていたヨーロッパから解放されて、誰でも才覚一つで成功できる、金持ちになれる(はずと信じている)アメリカで、自助があってはじめて独立自尊があり得るという社会常識のようなものがあった。課税を即ロシアや中国に共産主義に結びつける主張を繰り返す人たちも多かった。

ネバダ州の知事が言っているように、一般大衆は日常生活者として目の前の損得で支持政党や誰に投票するかを決めている。それはアメリカだから日本だからという話ではない。日常生活で見える世界は今も昔も、地球の周りを太陽が回っている天動説の世界だと考えれば、何が起きているのか起きようとしているのか、おおよそにせよ説明がつく。
取るにたりない経験からだが、巷の普通の人たちのほとんどは実生活からの視点までで、思想や理念や経済理論や政治哲学のようなものから選挙の一票を投じるわけではない。なかには天動説が奇形化したような宗教がらみなんてのもあるが、「パンとサーカス」は今も昔も変わらない。
2024/6/18 初稿
2024/7/30 改版