セルフレジをカートの上に

四月三日付けのThe Hillの「Amazon ditching ‘Just Walk Out’ technology at grocery stores」と題する記事をみて、そこまでやるかと驚いた。驚きはしたが、言われてみればその通りというのはこのことかと妙に感心してしまった。スーパーマーケットのカートにレジ機能を搭載してしまえば、セルフレジなんか設置する必要もない。フロアスペースも節約できるし、故障した時のメンテナンスもバックヤードでできる。セルフレジが導入された時点で、レジ担当の従業員の多くはレイオフなっているから、カートにしたところでレイオフになる人はでないし、いいことばかりじゃないかと思っていた。ところが同日付けのCNBCの「Amazon cuts hundreds of jobs in cloud computing unit」をみて、いいことばかりの環境を顧客に提供する人たちも生産性の向上がもたらす人減らしから自由じゃないんだという、当たり前じゃないかといわれれば、その通りとしか思えない現実――仕事でさんざん見て来た、して来たこと――を思い出した。

まず、The Hillの記事「Amazon ditching ‘Just Walk Out’ technology at grocery stores」から話を進める。表題を機械翻訳すれば、「米国内のアマゾン・フレッシュ店舗におけるセルフサービス技術『Just Walk Out』を廃止する」になる。urlは下記の通り。
https://thehill.com/policy/technology/4572865-amazon-ditching-just-walk-out-technology-at-grocery-stores/?email=467cb6399cb7df64551775e431052b43a775c749&emaila=12a6d4d069cd56cfddaa391c24eb7042&emailb=054528e7403871c79f668e49dd3c44b1ec00c7f611bf9388f76bb2324d6ca5f3&utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=04.03.24%20Techa

表題からでは分かりにくいが、Just Walk Outはセルフレジと考えればいい。
二〇〇三年だったと思うが、ボストンのThe Home Depot(日本でいうホームセンター)ではじめてセルフレジを使った。一つひとつバーコードリーダーでスキャンしていて、ドライバやサインペンなんかスキャンせずにポケットに入れちゃったってわかりゃしないんじゃないかと思った。万引きの多いアメリカでセルフレジなんか成り立つのか?そこまで考えて、住んでいる町が普通のアメリカの町じゃないことに気がついた。Lexington、ちょっと歴史に詳しい人なら聞いたことがあるだろう。ボストン市の西部に位置する典型的な中流階級が住む町で、教育レベルも高いし治安もいいが、日常的に人種差別を肌で感じるイヤな町だった。
一介の駐在員で子供を私立の小学校に入れる金はない。居住地の公立学校に入れるしかないということで選んだ町だった。地方自治のせいで、経済的に恵まれている市や町の公立学校は安全で施設も充実していて教育レベルも高い。とくにLexingtonの公立学校は全米でも群を抜いていた。

成人人口の半分以上が小学校六年生以下の識字率のアメリカでは従業員に任せる方がリスクが大きい可能性がある。乳業会社のアルバイトをしていたとき、パートの人たちがお互いにレジをパスして助け合ってるという自慢話のような裏話を聞いたことがある。
セルフレジを導入できるかどうかは顧客の民度次第だろう。デトロイトのダウンタウンとかサウスブロンクスあたりじゃ考えられない。

なんで同じ日にと思ってしまうのだが、CNBCが同日付けでアマゾンのレイオフのニュースを伝えていた。
「Amazon cuts hundreds of jobs in cloud computing unit」
https://www.cnbc.com/2024/04/03/amazon-layoffs-hundreds-of-jobs-cut-in-cloud-computing-unit.html?email=467cb6399cb7df64551775e431052b43a775c749&emaila=12a6d4d069cd56cfddaa391c24eb7042&emailb=054528e7403871c79f668e49dd3c44b1ec00c7f611bf9388f76bb2324d6ca5f3&utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=04.03.24%20Tech

表題を機械翻訳すると、「アマゾン、クラウド・コンピューティング部門で数百人を削減」になる。
記事の要点を説明する必要もないだろう。状況をまとめてしまえば下記になる。
このところ大手IT企業のレイオフのニュースを頻繁に目にするが、遠目には成長し続けているように見えるIT業界で、なんでそんなにレイオフと思っていたが、考えてみれば当たり前のことが起きているだけのような気もしてくる。一言にIT業界と呼んでいるが、そこでは物凄い勢いで技術開発が進んでいて、何年か前には大きな話題になっていた技術が陳腐化してしまうこともある。新しかった技術が新しくでてきた技術に置き換えられれば、当然のこととして前の新しい技術に携わっていた人たちも置き換えられる。置き換えることによって新しい技術の敷衍が促進されると同時に、IT業界全体の、そして個々の企業や組織の生産性も向上していく。向上していくのはIT業界の顧客の生産性だけじゃない。IT業界の生産性は顧客以上に上がっている。その当たり前ことが結果としてIT業界のレイオフを引き起こす。
人さまのレイオフの引き起こしている人たちは、もっと厳しいレイオフの嵐のなかで生き残りかけて日々戦っている。
2024/4/11