米価高騰と農林中金の赤字の関係は?

この一年ほどで米の値段が二倍にもなった。なぜ二倍にもなってしまったのか、価格を引き下げるべく政府はどのような対策を講じてきたのか……、投機目的で買い占めているヤツがいると犯人さがしのような話まで含めて、あれやこれやのニュースが飛び交っている。
米の生産にも流通にも関係したことのない巷の一消費者、米価に関係している知人もいない。ニュースは掃いて捨てるほどあるが表面的過ぎるのも多いし、なかには利害関係者が情報操作を目的として流したとしか思えないものまである。関係者のいったい誰がどのように米価高騰に関与しているのか、いないのか?想像の限りだが、主な関係者はつぎの通りだろう。農家―農協―農林中金―農林水産省―農林族議員。さらに米生産を支える組織、たとえば農業機械や肥料や農薬もあれば保管倉庫や物流に集荷業者や商社にスーパーや小売店……。名前も聞いたことがないところもある。知りようがないのだから気にしてもしょうがないんじゃないかと思いながらも気になって、いつもの作業を始めてしまった。

何も知らない者が、どうなってんだろうと思ったとき、大ざっぱにモノが生み出す金の流れとそこに棲息しているであろう利害関係(ときには利権)を想像することから始めていた。アメリカの制御機器メーカで日本市場の開拓に奔走していたときに気がついたらそうしていた方法で、すくなくとも仕事の領域を広げていくには有効だった。

普通に考えれば明々白々でしかないのに、米価高騰は自分たちの利益を求めてのことじゃないという人たちのニュースが氾濫している。人づてに野党政治家からも似たような話しが聞こえてきた。まず利権隠しにすぎない小賢しい言い分を切り捨てて、下記のように整理していけば自ずと答えがでてくる。
米価格の高低は直接にも間接にも関係者―農家や農協や農林中金、農林水産省や族議員の利の多寡になんの影響を与えないと言う人もいるだろう。その可能性が全くないとは言わないが、さすがに消費者からの厳しい批判に晒され続けたら、米価高騰の要因を整理して米価を下げる方向に関係者の誰かが動き出さざるをえないだろう。下げたところでなんの損もないのだから。
関係者が動き出さないのは、米価格が高い方が関係者の利が大きいからだろうと思わざるをえない。
もし、米価格が低い方が関係者の利を大きくする可能性があるのなら、関係者は価格を下げる努力を惜しまないだろう。
大雑把だがこうして考えていけば、巷でおきていることは価格が高い方が関係者にとって都合がいいからだとうという結論になる。

上記の仮説?を是とするか否とするか、巷のニュースを漁っていった。なんの方向性もなくただ情報を集めれば、そこからなにか定性的なものが見えてくるというわけじゃない。ましてや利害関係者の話しやその周辺から流れてくる情報にはしばし度を越えたバイアスがかかっている。官僚は米価高騰の責任は自分たちにはないと言い張るだろうし、農林族の先生方も似たような主張するだろう。農協や農林中金からもバイアス抜きの話しが聞けるとも思わない。こちとらぁ巷の暇人で、お太鼓持ちのマスコミでもなけりゃ、官報やプレスリリースを丸めてメシ食ってるわけでもない。この手の類からの情報は目を通すことはあっても、斜め読みまでで終わりにしている。状況を説明しえない情報は注目する価値がない。

なんの情報網もないから、情報集めはもっぱらGoogle Chrome頼りになる。
ネットには手にあまる数の情報が氾濫しているが、この二点をみれば必要にして十分だろうというものがあった。
まず一点目から、
「令和コメ騒動の黒幕は誰なのか?」
https://cigs.canon/article/20250624_8994.html
政策研究フォーラム「改革者」(2025年6月号)に掲載

素人が下手に記事を編集すると著者の真意からずれる可能性がある。詳細は記事を読んでいただくことにして要点だけに絞った。
農水省が長年調べてきたJA農協や大手卸売業者の民間在庫は昨年の5月頃から前年同月比で40万トン減少していた。端境期の9月には50万トン減少し、以降今年の2月まで40万トンの減少が続いている。

24年産米は本来昨年の10月から今年の9月にかけて消費される。23年産米の供給が40万トン足りなくなったので、昨年の8月から9月にかけて24年産米を先食いした。つまり、24年産米の供給は昨年の10月時点で既に40万トン不足していた。これが今年の2月まで在庫が前年同月比で40万トン減少している理由である。

ウソと欺瞞に満ちた農水省の対応
昨年夏から農水省はウソと訂正を重ねてきた。しかし、その裏に一貫しているのは“コメ不足を認めたくない”という態度である。
被害粒の増加で農家が販売する玄米から消費者が購入する精米への歩留まりが低下し、23年産米の実供給量が減少していることは、一等米の比率が減少した23年秋の等級検査で農水省は分かっていたはずである。だから、民間在庫量は減少した。これが理解できないほどではないとすると、同省は意図的に23年産米の不足を隠していたことになる。

農水省は、民間備蓄は十分あるので不足していないとして、大阪府知事からの備蓄米放出要請を拒否し、卸売業者等に在庫の放出を要請した。卸売業者が在庫を放出しないからだとして、責任を卸売業者に押し付けたのだ。
農水省は9月になれば新米(24産米)が供給されるので、コメ不足は解消され米価は低下すると主張した。だが、私の主張通り逆に価格が上昇すると、こんどは流通段階で誰かが投機目的でコメをため込んでいて流通していないからだと主張した。この量はJA農協の在庫の減少分21万トンだと主張した。同時に24年産米の生産は18万トン増えているので供給は不足してなく、 “流通の目詰まり”、“消えたコメ”に問題があるという主張を展開した。
農水省は今年に入りこれまで把握してなかった小規模事業者の在庫調査を行ったが、これら業者は在庫を増やすどころか、逆に前年比で5956トンも減少させていた。“消えたコメ”はなかったのである。

二点目
「なぜ植田日銀はいま利上げを急ぐのか?高騰する『コメの値段』とも関係する『不都合な真実』」
https://gendai.media/articles/-/116494?imp=0
近藤 駿介

金融市場に大きく影響する農林中央金庫の大幅赤字
1月の消費者物価指数発表が発表される前日の2月20日、農林中央金庫は今期(2025年3月期)の連結純損益が1兆9000億円程度の赤字(前期は636億円の黒字)に陥る見通しであることと、巨額損失を受けて奥和登理事長が3月末で引責辞任することを発表した。
林中央金庫が外債投資に伴う多額の損失によって今期決算が大幅に赤字に陥ることは昨年の6月時点で、また最終赤字が1.5〜2.0兆円にまで膨れ上がる見通しであることは昨年11月時点で明らかになっており、20日に発表された赤字規模や理事長辞任自体には驚きはない。
農林中央金庫が外債投資の失敗で2兆円近い損失をだしたことは、金融市場だけでなく、当然国内の金融にも大きな影響を及ぼしている。
ポイントは、「巨額赤字への対応策であるJA(農協)などを引受先とした1兆4000億円規模の資本増強も今年度内に完了させる」ところだ。
JAや全農連は農作物の集荷、販売を担う部門であり、そこで獲得した資金は農林中央金庫に預けられ運用されている。
農業部門の金融を担っているその農林中央金庫が運用に失敗して2兆円に迫る赤字を計上し存亡の危機に陥ったことで、JAは農林中央金庫の資本増強に応じなければならない事態に陥ったのだ。この構図は、預金先の銀行の存亡の危機に直面した預金者が銀行倒産を避けるためにその銀行の資本増強のために資金を出すというのと同じでことだ。
農林中央金庫に資金を預けて運用して貰っていたJAに1兆4,000億円もの大規模な資本増強に応じられる体力が残っているかは甚だ疑問である。
資本増強に応じるには引き受け手となるJAの利益確保が必要不可欠である。そして、物価上昇によって生産コストが上昇する中でJAが必要な利益を確保するために必要なのは「売上拡大」である。
政府の対応が遅きに失した要因は、「新米が出回る秋には問題が解消する」という政府の見通しの甘さだけでなく、農家の手取り、JAの売上を増やさなければ農林中央金庫を救済することが出来ないという事情があった可能性は否定できない。
おコメの価格上昇は確実に農家の手取りとJAなど集荷業者の売上増に繋がっている。
おコメの価格上昇によって増えた農家の手取りは、JAを経由して農林中金への預金増という形で農林中央金庫に還元され、JAの売り上げ増に伴う利益は農林中央金庫の資本増強の資金に回すことが出来るのである。
JAが農林中央金庫からの1兆4,000億円という大規模な資本増強要請に応じられる資金を捻出するためにコメ価格の上昇を抑えるわけにはいかなかったという大人の事情があったと考えるべきだろう。

米価高騰と農林中金の赤字の関係は?という素朴な疑問からググっていったら、起きていることの背景がおぼろげにせよ,みえてきたような気がする。

p.s.
<アメリカには国債価格の下落で経営破綻した銀行もある>
二〇二三年三月には、シリコンバレー銀行(SVB)やシグネチャー・バンクも経営破綻している。公定歩合が上って国債価格が下がったのが一因とされている。
詳細をと思う方は、銀行名を入力してググってください。

<なんにしてもまずは自助努力―独立自尊>
単位面積当たりの収穫量−生産性
もう六十年近く前に学校でならったことで、いまさら引っ張り出すのもとは思うが一言言っておきたい。かつて日本の米作は、農家(耕作者一人)当たりに収穫量ではアメリカにかなわないが、丁寧な農作業をもってして単位面積当たりの収穫量ではアメリカよりはるかに優れていた。ところがもう何年も前から単位面積当たりの収穫量でもアメリカに大きく水をあけられている。
「単位面積当たりのコメの収穫量日本とアメリカ」と入力してググったら下記がでてきた。
日本の水稲10アール当たりの収量は約500kg、アメリカのカリフォルニア州では約800kgと、アメリカの方が単位面積当たりの収量が高い傾向にあります。これは、アメリカの大規模な単一品種栽培や、機械化による効率的な作業、肥沃な土地などが要因として考えられます。
気候も違うし品種も違う。耕作地にも灌漑設備にも違いがあるから安易な比較は避けなければならないが、考えさせられることは多い。最大の違いは、大規模な単一品種栽培、機械化による効率的な作業があげられるだろう。小規模零細耕作では生産性の向上がむずしい。そこから小規模農業の保護、さらに食の安全保障……という美辞麗句がならんでいつまで経っても自立できない農業が残っている。
モノの調達の常識だと思うが、調達先を一つに限ってしまうと、その一つに問題が起きたときバックアップの取りようがない。十も二十も調達先を増やすと管理が複雑になって調達コストの上昇を引き起こす。業界や置かれた環境にもよるが調達先は複数持たなければならない。それは食の安全保障にも言える。複数の調達先として、たとえばアメリカやタイの特定農家との契約も考えるべきだろう。
国の平均的生産性に遠く及ばない産業は国民の血税によって保護されていることを忘れてはならない。製造業は世界の競争にさらされて強くなった。日本の労働コストでも世界市場で戦える企業しか生き残れない。そこで生き残るために勤労者の賃金はそれなりのレベルに抑えられてきた。

サラリーマン家庭と兼業農家の収入をググってみた。
専業農家の平均年収は、約433.5万円です。農業収入だけで生計を立てる場合の収入です。
農林水産省の調査(2021年度):専業農家の平均農業所得は433万5000円です。
兼業農家の平均年収は、全国的に約500万円とされていますが、本業の収入や農地規模、作物の種類などによって大きく異なります。
サラリーマン世帯の平均年収は、一般的に524万2,000円とされています。これは、厚生労働省が実施した2023年の国民生活基礎調査の概況に基づいています。
専業農家:約433.5万円
兼業農家:約500万円
サラリーマン世帯:524万円
サラリーマンの方が専業農家より百万円近く多いじゃないかと言われるだろうが、サラリーマン家庭の多くは都市部に住んでいて住居費が高い。専業農家や兼業農家が賃貸住宅に住んでいる可能性はほぼないんじゃないか?住居費を勘定にいれたら、どっちが豊でどっちが貧しいとも言えないだろう。

技術の進歩が加速するなかでサラリーマンは転職を余儀なくされる可能性が高まっている。分かりやすいからテレビのブラウン管(CRT)を例にあげる。二十年ブラウン管のテレビの製造に携わってきた技術者がLEDの普及に伴って職を失った。二十年にわたって培ってきた専門的能力を活かす機会が社会から消失した。失業保険があるにしても技術屋としての経験を生かせなくなれば、転職先での給料は大きく下がる。進化が異常に早い半導体の世界では栄枯盛衰が日常的に置き続けている。かつて世界をリードしていた日の丸半導体の凋落はそのいい例だろう。
サラリーマンには技術革新によって失われる経済的損失を補償するー農業のような保護政策がない。
さらに都市部の税収の一部を地方に割り当てる「地方交付税」なんて制度もあれば、国政選挙では一票の重さにとんでもない不公平まである。どちらも都市部のサラリーマンの負担のうえに成り立っている。
2025/7/2