市場とは−市場の階層性

市場はさまざまな小生態系が有機的に関係し合った大きな生態系に似ている。プレーヤの中には個々の生態系に留まらず、複数の生態系にまたがるかたちで経済目的を持っているものもいる。これは自分や自分たちが提供する製品やサービスを購入する顧客の全てが一つの生態系の特定の領域や階層−小生態系−にいるわけではないことから必然的におきる。業界によって、業界における自分や自分たちのいる位置などによって注視する社会の部分−市場が違う。注視する人たちの立場も各人各様に異なる。そのため、注視する人たちの数だけ、お互いの違いがたとえ僅かであったとしても、それぞれの市場がある。
たとえば、自社から見た市場では自動車メーカがエンドユーザに見えても、エンドユーザの先にエンドユーザのユーザの市場がある。自動車メーカの例でいえば、顧客が一般大衆の場合もあれば、運輸関係の企業、リース会社のこともある。ユーザを最後まで辿ってゆくとエンドユーザは、ちょっと乱暴にまとめてしまえば社会、あるいは世界市場になる。誰も最終エンドユーザ市場−社会の変化から自由ではない。食物連鎖と似ている。社会に何らかの変化があれば、何らかのかたちで自分たちに影響がおよぶ。市場−社会の変化によって自社の自動車メーカ向け営業成績が影響を受ける。
産油国の政情不安や為替変動により原油価格が高騰すれば、また、車輌税や関税の変更などによっても自動車の販売に影響がでる。あるいはフラックリングで価格優位の天然ガス市場が立ち上がってくれば原油価格が低下する。低下すれば電気自動車開発に関係してきた企業に影響がでる。
例として自動車産業をみてみる。自動車業界の競合関係や協力関係を平面座標系で表し、その座標系になんらかの影響をおよぼす市場の要素−サプラチェーンから課税や原油価格をそれぞれ別の平面座標系で表せば、市場全体を何層にも重なりあった平面座標系の集合として表せる。
重なりあった座標系の一番上に自分たちが乗っている座標系がある。その座標系に影響をおよぼす座標系−社会の一部が層をなして下にある。一番下にある座標系が社会と呼ぶ座標系になる。このさまざまな領域の重層化した座標系によって生態系のような市場が形成されている。
市場のプレーヤには自分たちと顧客だけでなく同業各社もいる。さらにその同業各社に部品やシステムエンジニアリングを提供する協力会社もある。商取引には販売代理店や商社も関与する。自分たちが乗っている座標系、およびその周囲には業界団体や業界誌、学術団体や行政関係、広告宣伝。。。さまざまな関係者が乗った座標系がある。ほとんどのプレーヤが複数の座標系に関係し、座標系同士が重なりあい、相互に影響しあっている。
自分たちのビジネスに直接関係する座標系だけを見ていたのでは、市場の動きや構造的変化を見落とす可能性がある。自分たちのビジネスのある一局面を表す座標系、たとえば、特定客への特定製品やサービスにおける競合状況には細心の注意を払う。注意を払うあまり、その座標系が乗っている座標系(下の階層)からの影響や、自分たちが提供してきた方法を置き換える新しい方法を提供する業界−今まで関係するとは思ってもみなかった業界の座標系の動きに気がつかいないことがある。ゼンマイを動力源とした精密機械工業の粋だった腕時計が廉価な半導体技術と電池で置き換えられたのは好例だろう。
自分たちが直接乗っている座標系のなかで優位な位置に移動できたとしても、下層の座標系が大きくマイナス側に移動すれば、自分たちの絶対位置だけでなく業界全体がマイナスに引きずられることがある。予期しない極端な為替変動や原油価格の暴騰などで自動車産業が傷めば、自動車産業に関係した業界も間接的に影響を受ける。直接乗っている座標系だけをみてのビジネス展開は危険すぎる。乗っている座標系に影響をおよぼす階層をなした座標系と、関係する周囲の座標系からの影響に注意を払い続けることになる。
2013/11/3