客としての姿勢が人を現す

また、すんでのところで終電を逃してタクシーお世話になった。時間は遅いがろくに飲んでいないので素面だった。何に興奮しているわけでもないのに、眠かった朝より変にハイになっている自分がいた。いつものように運転手さんと世間話だ。乗っている時間はたいしたことないし、ご迷惑かとも思いながらも、お聞きできることはできるだけお聞かせ頂こうと思っている。ときには夜間割り増しをお支払いしても有り余るお話をお伺いしたり、ちょっと解決策が考えつかない難問や考えるヒントを頂戴することもある。もっとも、しばし、飲みすぎのためだろうが、降車して家の鍵を開ける頃にはすっかり忘れて、というより忘れたことすら翌朝起きたときには霧散していることも多いが。それでも、かすかな残渣の痕跡のようなものが、何だかよく分からないものが引っかかった状態で寝不足と二日酔い重なって、これぞベテランサラリーマンといった朝を迎えることになる。
この間の運転手さんからお聞きしたいくつかのことで、若いサラリーマンの横柄さについての話が気になっている。話は次のような感じだった。
「商売柄、色々な客がいるでしょう?中にはちょっと引けちゃうというか怖い感じの人達もいるんじゃないですか?」
「そうですねー、でも、最近は服装や物腰からの一見じゃ分からないのが多いですよ。」
「そんなもんですかねー」
「ただ、ちょっと話してると危ない方の人なのかどうか分かっちゃいますよ。でも、ちょっとしたことで、わがままを言ってくるのは、サラリーマン風の人に多くて。危ない感じの方より、こっちの人達ですよ。」
「わがままって、例えばどんな?」
「今の信号はまだ黄色だったろ、なんで止まるんだ!のや、こっちの道に曲がるんじゃなくても一本先で曲がるんだろう。。。なんてのが多いかなー」
「最近は、サラリーマンでも年配の人達より、若い人達の方が細かなことでああだの、こうだのが多くて、ちょっとしたことで、後ろで携帯ですぐ近代化センター電話始めちゃうんだから。。。」
「若いサラリーマンの人達、会社でストレスが溜まって、ついタクシーに乗ったときに、それが出ちゃうんじゃないかな。」
この話をお聞きして、昔同じ会社に籍をおいていたゴミを思い出した。営業部長の立場にいた。極めつけの俗物だった。俗にいうヒラメの典型で、自分より強者の立場にいる人に対しては、そこまで媚びるかのか、あまりの無能ゆえ、そこまで媚びなければ存在しえないだろうなという半分憐憫の情さえ湧いてきかねないのだが、一方で、自分より弱者の立場にいる人に対する傲慢な態度や言動には許しがたいものがあった。
その傲慢な言動は会社の中だけでは納まらず、料亭でも普通のレストランや居酒屋でもどこでも見境がなかった。会社の中には対等、あるいは上に位置する人達がいるが、外にはいないとばかりに、客としての強い立場を主張し続けた。日本の大手制御機器メーカの名古屋地区営業として過ごしてこられたという営業のプロという触込みで会社の方から招請したという話を聞いたことがある。日本の旧態以前とした売買上での悪しき慣習−買う側が神様で、売る側があたかも奴隷のように振舞う−を骨の髄まで染み込ませていた。 ご本人には、自分がしていることを整理して考える頭はないのだが、まるでその悪しき慣習をしっかりと次の世代に引き継ぐのが使命と勘違いしているような振る舞いに終始していた。
運転手さんに乗客のとして権力を振舞った若いサラリーマン、似たようなばか者の下で、しなきゃならない苦労をさせてもらう機会もなく、しちゃいけない、すればするぼど人間を野卑に、卑屈にしかねない苦労をさせられているんじゃないかと心配になる。
次の日本を、世界の中の日本を背負って立つ世代には、矜持を胸にと言ってもらえる自負をかたちづくる経験をして頂く機会を提供しなきゃならない。間違っても、社会人としての能力も見識も培う努力を怠り、その無知、無能が故に弱者に対して傲慢に振る舞い、権力に媚て、企業内の階層のどこに潜り込めるかということだけに神経を使って生き延びてゆくしか生きようのない痴れ者の再生をしちゃいけない。