世界に冠たる日本の鉄道技術(改版1)

2015年11月11日から13日の三日間、幕張メッセで鉄道技術見本市「第4回鉄道技術展」が開催された。仕事で鉄道に直接関係したことのない巷の一利用者、鉄道技術について何を知っている訳でもない。ただ今日日の首都圏の鉄道サービスの不安定さ−運行システムの脆弱性を、日本の鉄道技術をもってして、なんとかしてもらえないかと歯がゆい思いをしてきた。してきてはいるものの、漠然としたもので、横浜港北ニュータウンの住まいからから幕張まで見学に行く気にはなれない。
日本の鉄道技術は世界に誇れるもと思っていたというのか、思わされていたところに、これじゃねぇー、一体どうする気なの?改善する能力があるのかという、些細な経験をさせて頂いた。そんなことでもなければ、鉄道技術展などWebですら見てみようなどという気は起らなかった。
Webをみたら、東洋経済ONLINEに12月3日付けで、ライターさんの『技術展で垣間見た「国内鉄道業界」の実態』、サブタイトル『鉄道輸出「オール日本は掛け声か」』と題したレポートがあった。
ライター氏のレポートを見て最初の一行目にあれっと思った。『11月11日〜18日の3日間、幕張メッセで国内最大規模の鉄道技術見本市「第4回鉄道技術展」が行われた。』という書き出しで始まっていた。展示会の会期は11月11日から13日の三日間で、「18日」は間違い。誰にでもあるタイプミス。本文を気にするあまり、数字には間違いが起きやすい。本文のもっと奥まったところなら目立たないが、書き出しからこれじゃ。東洋経済ONLINEには、こんな初歩的なミスをチェックする体制もないのか?入場者数など他の数字にも間違いがあるのではと思われかねない。鉄道技術も技術ならレポートする方もその程度かと冷やかしともつかないことを言いたくなる。
<注>
東洋経済ONLINEのライターさんのレポートは下記urlを参照。
http://toyokeizai.net/articles/-/94676
もう一年近くも前のことだが、JR東海の新幹線のコンピュータシステムのだらしなさにがっかりするとともに、だらしないコンピュータシステム上でしか働けなくなった人たちの哀れさを感じさせられた。
朝七時過ぎに横浜市営地下鉄で新横浜駅に出て、そこから浜松駅に行って、浜松駅で東京駅から乗ってくる同僚と待ち合わせの予定だった。
前もって乗車券や特急券を買っておく時間がなかったので、候補の列車がでる時間の一時間近く前に新横浜駅に着いて、当日券を購入した。自動販売機で買ってもいいのだが、みどりの窓口の列も長くはなし、時間にも十分余裕がある。カウンターで買えば、ちょっとしたことでも駅員さんに相談できる。事実、候補の列車が二本あった。どっちでも十分すぎる余裕をもって浜松駅に着ける。
駅員さんと話をして、先の列車の切符を買った。新横浜駅で時間を潰すより浜松駅に着いてから時間を潰した方が、万が一遅れがでても、遅刻する可能性が少ない。切符を買って、新幹線の改札に歩いて行ったら、なんかざわざわしていて、いつもと様子が違う。駅員が改札の前に出て、なにやら案内していた。なんのことやらと思いながら、前の人との話が終わるのを待って駅員に訊いたら、今朝新大阪駅を出たところで、新幹線の線路のそばで火事があった。その影響で下りの新幹線は運転を見合わせていた。復旧の目途はまだ立っていないが、そんなに時間はかからないだろうが、何時ごろ浜松駅に到着できるか分からない。この分では予定した時間には間に合わないと言われた。
新横浜駅は東京駅や品川駅のように大きくない。みどりの窓口から新幹線の改札まで二三十メートルくらいしか離れていない。改札にいた駅員からみどりの窓口の駅員に新大阪駅の近くでの火事、それによるサービスの停止の連絡がいってない。みどりの窓口の駅員は不通になっていることを知らずに、いつもと同じように発券していた。発券を制御するコンピュータシステムに自動的に運行状況をチェックする機能が組み込まれてないとしか考えられない。
コンピュータを介しての業務体系では、人とコンピュータシステムが一つのセットになって、異なる業務を担当するいくつものセットが並列して稼働することによって業務が遂行される。そこでコンピュータシステム同士の連携がとれない障害が発生しても、障害が起きたことが個々のコンピュータシステムに通知されなければ、人は障害に気が付かない。
新幹線ほどの大きなシステムを制御管理するコンピュータシステムではアプリケーションソフトウェアも巨大な塊の集まりになる。塊を形成する個々のタスクにそのタスクに関連するサブタスク。。。がいくつものソフトウェアエンジニアのチームに分担される。分担して開発された全てのタスクを一つの運用システムにまとめ上げるのはとんでもない力仕事になる。ましてや一つにまとめ上げられたシステムが間違いなく稼働するかの検証は力任せという訳にはゆかない。当たり前の話だが、いくらしっかり検証したところで、個々のタスクの開発仕様を検討し決定する段階で見落としがあれば、その見落としたシステムにしかならない。見落としは複数のコンピュータシステム(開発担当チーム)間の情報やデータの共有部分で起きやすい。
常識でしかないが、ついでにもう一つ付け加えておく。コンピュータシステムの開発でももっとも神経を使うのは、エラーハンドリングに関する部分で、これがなかなかしぶとい。これこれこうする、これこれこうなるという仕様はいいが、もしこれこれこれでないことが起きた、指令された−通常稼働から外れた状況が起きたときに、どう処理するかがしっかりしていないとシステムはまともに稼働しない。通常常態から外れた−ある意味想定外のことを想定したアプリケーションを開発しなければならない。労働集約産業の感のあるIT業界にありがちな体力に任せた力任せの開発ではまともなエラーハンドリングは難しい。
新幹線が使えなければ車で浜松まで走るしかない。同僚は池袋から新宿のヒルトンに立ち寄って、スイス本社の社長をピックアップして、東京駅から新幹線を使う予定で動いていた。時計をみたら、まだ池袋辺りにいるはず。即電話して、池袋でレンタカーを借りて、いつものように渋谷駅で合流するよう伝えた。
こっちは新横浜駅から横浜線で海老名に出て、そこから東急東横線で渋谷に向かった。横浜線の改札の駅員に、今払い戻しをしている時間がないことを説明したら、後日の払い戻しの為にと新幹線の切符に「遅延」のハンコを押してくれた。
「遅延」ハンコを押してもらったにもかかわらず、後日切符の払い戻しには手間取った。通勤で通過するJRの駅は渋谷だが、そこはJR東日本。JR東海の切符の払い戻しはできない。仕事で川崎に行くことがあったので、川崎駅のみどりの窓口に行ったら、そこもJR東日本だから払い戻しできないと言われた。新幹線の切符を見た駅員が、JR東海さんが単に「遅延」ではなく、『「事故」による遅延』のハンコを押しててくれれば払い戻しできるんですがね。東海さんは「事故」というのを嫌って。。。
そう言われた時は、まったくJR東海、なにやってんだと思ったが、後になって考えれば、線路脇の火事による遅延で、新幹線の事故ではない。「遅延」が正しい。「遅延」のハンコを押してくれたのは、横浜線の新横浜駅の改札で、JR東日本じゃないのか?どっちでもいいが、利用者としては相互に補完しあってもらえないかという、素朴な期待がある。そんなことを言っててもしょうがない、品川駅にJR東海のみどりの窓口があるのを知っていたので、そのためだけに品川駅まで払い戻しにいった。
東洋経済ONLINEのレポートには、次の記述がある。
「安倍政権のいう鉄道輸出は、ひと言で言えば高速鉄道技術(新幹線)のインフラシステム全体を丸ごと輸出しようというもの。事業者ではJR東海が積極的な姿勢を見せています。ただし、同じJRグループでもJR東日本はシステム全体としての輸出にはそれほど積極的ではない。関連するメーカーなども同様です」
「インフラシステム全体を丸ごと」「JR東海が積極的な姿勢」はいいが、日本人以上に仕事の縦割りがはっきりしている海外に、不通になっているのを知らずに発券してしまうシステムを持ち込んだら、どうなるんだろう?
均質な社会における人と人の緊密な人間関係で成り立っている業務を逐一明文化するのは難しい。明文化できなければ、ソフトウェアの開発仕様に抜けがでる。開発仕様の抜けは、そのままソフトウェア上にもきちんと抜けとして作り上げられる。
開発仕様上の抜けが新横浜駅の発券業務と運行業務の間で露見した。たかが三十メートル先で起きている運行業務状態−不通を知らずにコンピュータの指示に従って発券業務が進む。コンピュータ相手に日常の業務が進む社会で、人と人との関係が希薄になって、開発仕様の抜けを人と人との関係で補う文化も育たない。
その程度のシステムを「インフラシステム全体として。。。」、実務を知らない、知ろうともしないお役人(もどき)の戯言に聞こえる。海外市場では文化も違えば、人と人とのつながり方も違う。日本でもしきれないことを海外でするだけの広い意味での技術−仕様検討、決定からシステム開発、さらにオペレーションの検証までの能力があるのか?
世界に冠たる日本の鉄道技術だと思っていた。それを実現したはずのコンピュータによる運行システム。ところが、それを世界のどこに持って行っても、そのまま通用すると考えるのは、文化や人間関係はどこでも同じと短絡的に考える、あるいは自分たちの方が優れていると思い込む、ある種の驕りではないのか。
海外市場などと言うのは、せめて新横浜駅で遭遇した障害くらいは解消してからにした方がいい。
2016/1/24