嘘つき大統領を支持する人たち

十二月十四日付けのNew York Timesに、「Trump’s Lies vs. Obama’s」と題した、文字どおりオバマ前大統領とトランプがついた嘘を比べた記事があった。urlは下記の通り。
https://www.nytimes.com/interactive/2017/12/14/opinion/sunday/trump-lies-obama-who-is-worse.html
二人がついた嘘をざっとリストアップしているが、数えるまでもなく、ついた嘘の数が一瞥で分かるように二つのグラフにまとめてある。それを見ると、いかにオバマが良識のある大統領であったかが、そしてトランプが千三つあがりの街の与太者と変わらない、それでも大統領という大統領であるかが判る。

トランプは就任して高々十ヶ月の間に、オバマが大統領を務めた二期八年の間についたというのか、ついてしまったというのか、なってしまったという嘘の六倍もの嘘をついている。「嘘も方便」とも言うし、人間誰しもいいことは大げさに、都合の悪いことは矮小化してしまうことがある。ときには嘘になるなど想像だにしなかったことが、後で気がついてみれば嘘つきと言われても言い訳のしようのないこともある。
なかには認識を誤ってというのか、言った本人も騙されていて、言ったことが正しくなかったという嘘もある。その騙されて嘘になってしまったものにも、騙されまいとしたにもかかわらず騙されてしまったとものと、騙されていたほうが都合がいいから、騙されたというものがある。
イギリスの首相ジョン・メージャーはイラクのフセイン大統領の虚勢をはった大量破壊兵器の話を真に受けた。それは騙されまいとしたにもかかわらず騙されたのか、それとも都合よく騙されたのか、本当のところは分からない。ただ後日聞こえてきた話から想像すると、どうも後者のような気がする。どちらにしても結果的には騙されて、議会にも国民にも嘘をついて、積極的に戦争犯罪に加担した。

オバマの嘘にもトランプの嘘にも本人が騙された結果、嘘になってしまったというのがあるだろうが、トランプにその言い訳が通用するとは思えない。オバマの八年間の六倍を十ヶ月でとなると、どんな言い訳も、それすら嘘ではないかと思われてもしかたがない。仮に聞くに値するいい訳があるとしたら、それは頭の乱視が救いがたいところまで進んでしまったのか、血なのか育ちなのか分からないが、事実を事実として認識する知識と良識に欠けているということの証左に近いだろう。

こうして考えいくと、どうも嘘を嘘と一言で十把一絡げにしきれない気がする。それでも背景や事情から大きく二種類の嘘に整理できそうだ。一つは本人は事実を話していると思っていて、嘘を言っていることに気がつかない嘘。もう一つは自身の立場をよく見せるため、その見せるために特定の社会層に向けた、嘘を承知でつく嘘がある。
トランプの嘘を聞いていると、東部のアイビーリーグを卒業した自称IQの高い知識人らしいが、普通の人の目には視野の狭い、了見の狭い人にしか見えない。一代で成り上がった創業社長にありがちな、何でも我を張って押して押して思い通りにしてきたビジネススタイルそのままで、思いつくままの発言。認識不足による嘘も多いだろうが、支持者にアピールせんがために事実でないことを承知の上でプロパガンダの嘘をつき続けているようにみえる。

普通の人たちにはどうみても嘘と分かる嘘を、平気でつき続ける大統領をいったいどんな人たちが支持し続けているのか。想像でしかないが、支持し続けるということは、つかれた嘘が耳にここちよいか、あるいは聞いた嘘を嘘ではなく、事実と思っている程度の人たちなのか、あるいはその嘘のおかげで自分(たち)が得をすると考えている人たちとしか考えられない。

New York Timesにもう一つ興味深い記事がある。十二月十八日付けの「C.E.O.s worry about the tax bill and the Trump presidency」と題した記事で、そこにはアメリカ企業の経営トップのどうしたものかという、出るに出れない下がるに下がれない苦しい立場がみえる。トランプの傲慢さには固い共和党支持者である企業の経営トップですら困惑している。
記事のurlは、https://www.nytimes.com/2017/12/18/business/dealbook/ceos-taxes-trump.html
短い読みやすい記事。一読をお勧めする。

記事によれば、八十一パーセントのCEOがトランプの言動は恥ずべきことで、世界におけるアメリカのイメージを損なっていると思っている。五十五パーセントが減税法案を支持してはいるが、七十二パーセントが財政赤字を大きくする減税を誤りと考えている。六十二パーセントが健康保険制度が悪化することを心配している。減税によって国内設備投資が増えると思っているのはわずか十四パーセントにすぎない。八十二パーセントがキャピタルゲインに対する税率は不当だと考えている。

多くの視点からみて減税法案には否定的なのに、半分以上のCEOが「減税」を支持している。この二律背反する姿勢はどこからくるのか。話は簡単でCEOの立場では、「減税」のおかげで企業の業績が上がり、企業利益も自分の収入も増えて、いいことばかりで、社会全体をみれば悪法だけどということだろう。

自分たちの立場がある、儲かる、収入が増える、生活が楽になると思える人たちに向けて、トランプがその人たちが聞きたいと思っている嘘をつき続けている。そのような人たちは、自分にとっていい嘘なら、それが嘘であればあるほど、嘘までついて自分たちのことを思ってくれているのだと思う。さらに自分に関係のない嘘は自分には関係ないから、どんな嘘でもかまいやしないという気持ちすらある。

清廉潔白な歩く良識のような政治家のもとで、嘘や間違いの少ない政治が行われたとして、それで自分たちの生活がよくならないなら、嘘をつきっぱなしで、こんな大統領では恥ずかしくてしょうがないと思ったにしても、その嘘で生活がよくなるのならいいじゃないかというのが、利益誘導されやすい、騙されやすい衆愚と言われかねない一般大衆ということだろう。
巨大な資金を使ってプロパガンダの応酬が日常になってしまったアメリカで、何か本当なのかと問いだしたところで、疲れるだけで終わってしまう巷の人たちにしてみれば、ああだのこうだのは聞き飽きた、即実感のある得になることであれば、それが嘘からでたものでもなんでもかまいやしないということだろう。
トランプのアメリカ、多くの人がいったいどうなっているのかと思ってはいるが、似たようなことはアメリカに限らず、いつでもどこであることで、日本も五十歩百歩。人の振り見て我が振り直せといわれそうな気がする。
2018/1/14