トランプ支持者とポピュリズムの元凶(改版1)

Webであれこれ漁っていたら「クオリティ・ペーパー」という言葉がでてきた。なんのことかと思ったら、新聞のことだった。ちょっと読んで、なんでそんな分類をしなければならないのかと寂しかった。エリート層を読者とする質の高い高級紙とか、広く大衆に読まれる大衆紙……、そんな階層分けをしなければならないのが社会の実相ということなのだろうが、はいそうですよねって気にもなれない。
エリートからはほど遠い油職工崩れのデリート、ただ読むに値するからと思って読んでいるだけで、高級紙だからというわけでもない。読める範囲でしかないが、つまみ食いでもするかのようにWebで拾い読みしている主なものを下記にリストアップしておく。

あれこれ漁っていると、あれこれ何というのがでてくる。さっとみて読む価値あると思えば読む。読んでよかったと思えば、また情報源が一つ増える。出てきたメディアの報道の偏りや信頼度が気になれば、MEDIA BIAS/FACT CHECKというサイトでチェックでする。このサイトの信頼性はわからないが、まあとんでもないサイトではないと思う。
South China Morning Postをチェックした例(url)をあげておく。
https://mediabiasfactcheck.com/south-china-morning-post/

多少は社会のことも知らねばと、Economistを十年以上定期購読していたが、数年前にアレルギーでも起こしたのか、昔ながらの産業資本家の視点が鼻につきだして止めた。それ以来、これといった新聞も雑誌も定期購読していない。そろそろNew York TimesかNew Yorkerあたりをと思ってはいるが、特定の新聞や雑誌の影響を受けすぎるのもイヤだしで、どうしたものかと考えている。

リストアップした新聞や雑誌を読んでいる限りでは、トランプは特定の利権層にはこれ以上はないという大統領だが、世界中のほとんどの人々にとっては害悪以外のなにものでもない。汚い金だろうが、庶民から巻き上げた金だろうが、発展途上国の人々やアメリカの勤労者の血と汗の結晶のような金であれなんであれ、自分たちのものにせんがために、文字どおり嘘八百。環境破壊でも人権無視でもなんでもあり。ここまでくるとヒトラーなんかかわいいもので、大航海時代以降のヨーロッパ列強による植民地の搾取と殺戮と破壊に近い。
一言で言えば、アメリカという強大な国を手にしたヤクザ顔負けの詐欺師。Fake newsを規制しなければと、FacebookやTwitterが槍玉に挙げられているが、Fake Newsの発信源が大統領という詐欺師かだからたまらない。映画か漫画の世界だけにしておいてもらいたいという茶番を毎日みせられている。

そんなヤクザ顔負けの大統領をあいも変わらず支持している人たちがいる。読むに値する新聞を多少なりとも拾い読みすれば、支持しえない、支持すれば、自分の社会性を、きついことを言わせてもらえば、人間性すら否定することになりかねないと気がつきそうなものなのだが、誰にでもある頭の近視と乱視に目先の欲で見えるはずのものが見えなくなってしまっている。

地場で生きている人たちには、クオリティ・ペーパーが伝える世界経済や人権がどうのも、地球温暖化も報道の自由云々も、極端に言えば他人事、なんの実感もない。そんなもん、エライさんたちや自分たちを置いてけぼりにして、社会を変えていったエリート連中のゴタクにしか聞こえない。あいつらのせいで、俺たちの生活がこんなことになったとしか思っちゃいない。

ここで、地場の人たちとは、経済発展の恩恵に浴する機会を得られないまま、産業構造の変化とそれにともなう社会の変化に取り残された人たちを指している。この人たちの社会的、経済的地位は経済発展とともに低下し続けている。アメリカでいえば、傷んだ製鉄業に従事してきた人たちや炭鉱労働者がいい例だろう。この人たちの目には、社会経済発展を推進してきたエリートと政治家が、彼らの生活を苦しくしているようにしかみえない。この地場の人たちが、従来からの産業政策を、多少の手直しがあるにせよ、継続しようとしている政治家やマスコミに「否」を突きつける。
なにかあると、それはグローバリゼーションだから、新自由主義の問題だという人たちがいるが、この「否」をグローバリゼーションや新自由主義ゆえにおきていると考えるのは、緊密な関係があるにしても間違っている。それはグローバリゼーションだから、新自由主義だからということではない。社会の構造が大きく変わるときには、必ずといっていいほどおきる社会現象にすぎない。明治維新の士族反乱はそのいい例だろう。

トランプが引き起こしている惨状、多少なりともクオリティ・ペーパーに目を通している人たちには、あまりに周知の事実であって、いまさらここに書き連ねることもないだろう。地場の人たちの視点でも、はっきり見えるはずのことだけをリストアップしておく。

The Guardian (2018年7月29日):イギリスのもっとも信頼のおける新聞のひとつ
『Almost 80% of US workers live from paycheck to paycheck. Here's why』
https://www.theguardian.com/commentisfree/2018/jul/29/us-economy-workers-paycheck-robert-reich
Robert Reich(ロバート・ライシュ):アメリカの経済学者の論考で、この論考に目を通すだけで、問題の本質を鳥瞰できる。
「アメリカの勤労者の八割方は、なんとか次の給料まで食いつなぐような生活をしている」
「現在のアメリカの一般的な勤労者の所得は44,500ドル(簡単のため一ドル百円とすると、445万円)/年で、四十年前とたいして変わらない。経済発展によって生み出された富のほとんどが経営上層部と金融関係や投資家やデジタル機器関係会社の所有者に占有されている」
「The typical American worker now earns around $44,500 a year, not much more than what the typical worker earned in 40 years ago, adjusted for inflation. Although the US economy continues to grow, most of the gains have been going to a relatively few top executives of large companies, financiers, and inventors and owners of digital devices.」

アメリカの名目GDPの推移―1980年から2018年
1980年:   2,862.48
2018年(予測): 20,412.87
(単位:10億ドル)
2018年のGDP(予測)は、1980年のGDPの七倍以上ある。三十八年間でGDPは七倍。でも勤労者の所得は大して変わらない。誰が増えた分を手にしたのか?勤労者以外の人たちの所得が増えたということに他ならない。
出典:世界経済のネタ帳
http://ecodb.net/exec/trans_country.php?d=NGDPD&c1=JP&c2=US&c3=CN

CNBC (2017年9月13日):アメリカの三大テレビネットワークのひとつ
『Here's how much money Americans have in their savings accounts』
https://www.cnbc.com/2017/09/13/how-much-americans-at-have-in-their-savings-accounts.html
2018年8月28日にアップデートされている。記事のタイトルをコピーしてサーチすれば最新のもがでてくる。ここでは、昨年の記事に基づいている。気になるかたは最新記事をどうぞ。
「GOBankingRateの2017年の調査によると、アメリカ人の57%が1,000ドル(簡単のため一ドル百円とすると、十万円)未満の貯金しか持っていない。前年の2016年には69%だった。まったく貯金のない人たちが34%から39%に増えている」
「According to a 2017 GOBankingRates survey, more than half of Americans (57 percent) have less than $1,000 in their savings accounts.」
「While that's an improvement from last year, when 69 percent of Americans reported having less than $1,000 in savings, a higher percentage have no savings at all: 39 percent, up from 34 percent in 2016.」

NPR(National Public Radio) (2018年8月2日):寄付で運営されているラジオ局でアメリカでもっとも信頼されている、といわれているが、読んでいる限りでは、ちょっと怪しいこともある。
『Solving The 'Wage Puzzle': Why Aren't Paychecks Growing? 』
https://www.npr.org/2018/08/02/634754091/solving-the-wage-puzzle-why-aren-t-paychecks-growing
「失業率が4パーセントになって、企業は求める人材が見つからないと言っている。経済学者は賃金上昇率が3.5%にならなければと言っているのに、実際は2.7%しか上がっていない」
「At 4 percent, unemployment has been very low. Businesses report having a hard time finding available workers. And some economists say that should add up to wage growth rates of about 3.5 percent. Instead, wages are increasing at a 2.7 percent annual rate. (On Friday, the Labor Department releases its July employment report with the latest wage growth data.)」
求人は増えたが、増えているのは給料の安い仕事が多い。熟練を必要とする仕事が減って、安い給料の仕事に置き換えられている。あるいは、比較的高給の年配者がレイオフされて、給料の安い若い人に取って代わられているなどいくつかの要因が考えられる。

どれも、地場で生活している人たちでも日々の生活で実感できることで、地球温暖化だとか報道の自由のような天下国家を論じる話ではない。クオリティペーパーを買うまでもなく、テレビで普通のニュースを見ていれば、誰にでもわかることでしかない、と思うのはクオリティペーパーを拾い読みしているからでもないだろう。
実感できることからだけみても、トランプがやっていることは自分たちの生活をよくする、よき昔にまき戻しているわけではなさそうだと気がつきそうなものだと、クオリティペーパーの人たちも思う。そこで、地場で生活している人たちがどのようなニュースソースから情報をえているのかを伝える記事はないものかと探してみた。

Independence(2016年11月14日):イギリスのネット新聞
「トランプ支持者の多くが大衆紙ではく、Breitbartや InfoWarsや Freedom Dailyという、うそでもでっち上げでも、話題になればなんでもかまわないニュースサイトやFoxニュースから情報を得ていることが見えてきた」
『Donald Trump supporters get their news from a strange media universe ? and it's frequently fact-free』
https://www.independent.co.uk/news/people/donald-trump-breitbart-infowars-alex-jones-facebook-twitter-fake-news-fact-free-a7417331.html

トクヴィルが危惧したアメリカの衆愚政治のひとつの典型としてトランプがいる。社会でなにが起きているのか、何か特別な努力や労力が要るわけでもない、ちょっと気にしさえすればイヤでも見えてしまうことですら、見ようとしない人たちがいる。当然の報いとして変化し続ける社会から取り残される、と放っておくわけにもいかない。それは個人の問題や課題である以上に社会の問題であり、課題だから。

では、その目の前の事実ですら、事実としてみようとしない人たちにどのような働きかけをすれば、トランプのような国をあげての詐欺師が跳梁跋扈するのを防ぎえるのか。
好きではないが、ここで大衆を二つに分ける。クオリティ・ペーパーを読んでいる人たちを教養人、大衆紙すら読まずにプロパガンダサイトやFoxニュースから情報を得ているトランプ支持者。志向や関心や能力からして後者が前者に移行していく可能性があるとは思えない。できること、しなければならないことは一つしかない。後者がなんの努力をすることなく、プロパガンダサイトを読む、Foxニュースを見るのと同じレベルの精神的な負担で接することができる、一言で言えばやさしい面白い記事やニュースを提供することしかない。

前ニューヨーク市長のジリアーニはトランプの弁護団に入ったとたんに、演技ではなく血としか思えない才能を発揮してトランプ一座の「ピエロ」として失笑ものの話題を振りまいている。あまりのことに座長のトランプですら、もてあまし気味らしい。ジリアーニの活躍ぶりを9月10日付けのNew Yorkerが伝えている。表紙の漫画だけでも笑える。
https://www.newyorker.com/magazine/2018/09/10/how-rudy-giuliani-turned-into-trumps-clown

まっとうな?ニュースサイトVanity Fairで、まあ軽さもあってのことだろうが、よくぞここまで言ったという記事を例としてあげておく。
タイトルの書き出しに「Holy shit」。文字通りに見れば、「聖なる糞」。意訳すれば、「なに、うそだろう、なんてこった、そりゃないだろう」当たりになる。このくらい庶民の日常の感情表現をタイトルにする勇気にちょっとした感動すらある。
「うそだろう、信じられない。あのPecker(氏名)が寝返って司法取引に応じちゃった。National Enquirer(トランプの広報紙のようなタブロイド新聞、Peckerはそのオーナー)の連中は、最後まで頑張ると思ってたのに」

Vanity Fair(2018年8月23日):アメリカのネット新聞
HOLY SHIT, I THOUGHT PECKER WOULD BE THE LAST ONE TO TURN”: TRUMP’S NATIONAL ENQUIRER ALLIES ARE THE LATEST TO DEFECT』
https://www.vanityfair.com/news/2018/08/donald-trump-national-enquirer-allies-defect-david-pecker-michael-cohen?utm_source=CNN+Media%3A+Reliable+Sources&utm_campaign=b590e0ef65-EMAIL_CAMPAIGN_2017_06_06_COPY_01&utm_medium=email&utm_term=0_e95cdc16a9-b590e0ef65-91247321

MEDIA BIAS/FACT CHECKによれば、Vanity FairはFactual Reporting: HIGHで、記事の信頼性は高い。
https://mediabiasfactcheck.com/vanity-fair/

わかってもらわなければならない人たちにわかってもらえるように話を伝える責任が教養人(知識人階層)にある。知識人階層の中での話しにとどまって、トランプ支持者をポピュリズムに扇動される人たちといっていても何も解決しない。誰も苦虫つぶしたような顔でされる、しちめんどくさい話を聞きたいとは思わない。単位のためにどうしてもとらなければならない授業を社会に持ち出して、なんであの人たちはといっている知識人階層の人たちが、ポピュリズムの元凶で、ここから変えなければ社会は変わらない。

p.s.
<Webで斜め読みしている主な英字新聞や雑誌>
BBC(英),AFP(仏),New Yorker(米)、Atlantic(米)、NPR(米)、New York Times(米)、Washington Post(米)、Naked capitalism(米) 、Guardian(英)、Independent(英)、Die Spiegel(独)、Die Welt(独)、Huffpost(米)、Al Jazeera(カタール)、South China Morning Post(香港)、Mail & Guardian(南ア)、Havana Times(ニカラグア)、Nautil(米/サイエンス)、ZDNet(米/IT関係)、CNNやアメリカの三大テレビネットワークの記事

<教育の機会>
七十年代の後半に工作機械屋の駐在員としてニューヨークにいた。毎週のように西はミネソタからネブラスカまで、仕事で飛びまわっていた。顧客の多くが零細な機械部品の賃加工屋で、現場で働いている人たちのなかには、英語をきちんと書けない――TouchやToughのスペルがわからない――移民ではないアメリカ人も多かった。高校卒業(義務教育終了)しても十パーセント近くが、氏名にあとちょっと何かを書ける程度だと聞いていたが、一日中「fxxx」で始まる話を聞いていると、確かにそうかもしれないと思った。

二〇〇五年、ボストンで日本の会社のアメリカ支社の建て直しをしていた。同業から営業ウーマンを引っこ抜いた。特別なものがある人ではなかったが、安心して日常の営業業務をまかせられる。彼女のおかげで営業部隊が安心して外に出れるようになった。 ある日、読んでいた「Economist」を目にして、Such a bored……(退屈なか面倒くさい)と言われた。彼女がもっていたのは「People」(ゴシップと芸能記事の週刊誌)だった。
Peopleは典型的な大衆向け週刊誌で、下記サイトでバックナンバーの表紙の写真をみれば、おおよその見当がつく。
https://www.zinio.com/jp/back-issues/people-m5722
どっちがどっちという話でもいい悪いでもない。ただ人は手間隙かかる面倒なことはさけて、楽しいことに流れる。普通の人が楽しいと、あるいはすくなくとも要らぬ苦労はしないですめばそれにこしことはない。

<路上生活者と酒を飲んで>
この夏、夜な夜な池袋西口公園に出かけては、路上生活者や危なっかしいのと酒を飲んで、出てくる話題に合わせて他愛のない話をしていた。何んだったか覚えているような話ではないが、ついポロっと、「それプロパガンダじゃない」と言ってしまった。何人かが顔を見合わせて、そのうちの一人がポツンといった。「お兄さん、学あんだね」何日もかけて狭まってきた距離が空いてしまった。
新聞は読んでもスポーツ新聞までだろう。トランプみたいのが、缶ビール抱えて出てきて、「太陽を指差して、太陽が地球の周りを回ってる」、「会社があるから仕事があるんだ」、「俺たち(トランプみたいなご本人とその仲間)がいるから会社があるんだ」と言ったら、疑問をもつ人がどれだけいるだろう。

「家に帰って、周りを見渡してみろ。テレビは韓国製、洗濯機は中国製、乗ってる車は日本製。テーブルもソファーも食器もあれこれの雑貨も、そうだお前の穿いてるズボンもパンツもなにもかも中国かどっかからきてる。もっといいもの、アメリカで作れない?馬鹿いっちゃいけねぇ、俺たちできないわけねぇだろうが。あいつらが安売りして、オレたちの仕事をとっちゃんてんだ」 話は簡単、二日酔いでも居眠りしていてもわかる。こんなむき出しのプロパガンダが新聞もろくに読まない人たちに毎日流れている。
そこに、日常生活に海外製品があふれているのは、アメリカの企業の経済活動がもたらしているもので、経済合理性から考えると……、安い輸入品のおかげで、生活費が下がってみんなの生活が楽になっている……、筋道をたてた説明。そんなものしたところで、面倒くさがって聞きゃしない。聞くのは何もしなくても聞こえてくるプロパガンダと与太話だけだろう。
実体験までの人たちが大衆とはいわないが、近いものがあると思っている。
2018/9/30