アメリカの大統領選挙と郵便投票

アメリカの大統領選挙に関係するニュースが朝から晩まで一日中ながれてくる。偉大なる発展途上国のことで、いつものように政治屋と利権屋が生活をかけてあの手この手の暗躍。なにも驚きゃしないが、トランプとコロナウィルスとBLM運動の広がりから、いままでとはちょっと違う、驚く状況が生まれてきた。

経済や社会には疎い高専出の油職工崩れが口をだすようなことじゃないだろうし、英語は仕事で使ってきただけで、記事をきちんと読めていない可能性すらある。それでも日本で見聞きする報道が物足りなさ過ぎて、一言二言付け加えたくなる。
英字新聞なんか引用すると、英語が得意なんでしょと言われることがある。誤解されては困る。英語は嫌いだし、面倒だから使いたくない。中学では問題児で、受験勉強もしたことがない。高専は体のいい職工養成所で英語など勉強するところではない。
日本のマスコミが流してくるニュースからでは、世界で何が起きているのか分からないことが多すぎる。たりない部分を多少なりとも補おうとすれば、英語のニュースと取っ組み合いするしかなくなる。日本語でしっかりした報道があれば、英語のニュースなんか読みはしない。

たまったニュースを斜め読みして、読んでいただける日本語に整理するだけでもかなりの手間がかかる。そんなことマスコミやジャーナリストにまかせておけばいいじゃないかと腰がひけていた。
どうしたものかと思っていたところに、BBCのホームページに日本語のニュースが二本も掲載されているのをみつけた。どこかに気でもつかったんじゃないかという気の抜けた記事だが、あるとないとでは大違い。概要や経緯から説き起こすこともなし、ニュースに抜けているキーになるところだけ引っ張りだせばと考えだした。できるだけ凡長や重複は避けたが、一部残っている。ご容赦を。

ニュースの一部を転載したが、英語を読むのが面倒だったら、Google翻訳をつかって機械翻訳したものご覧いただければと思う。あるは、ニュースサイトのurlからGoogle Chromeでサイトを検索して、右クリックして記事全部を一括翻訳してもいい。
下記はBBCのニュースを一読されているという前提のもとに書いてる。斜め読みされる前にBBCのニュースをご一読ください。

1)「トランプ氏、郵便公社への補助金を拒否 郵便投票減らすため」
https://www.bbc.com/japanese/53775161
2020年8月14日

2)「米大統領選の郵便投票、開票に間に合わない恐れ 郵便公社が警告」
https://www.bbc.com/japanese/53788583
2020年8月15日

郵政事業は、少なくとも先進諸国では行政が提供する基本的社会サービスの一環で、民間企業のように利益を求めてのものではない。アメリカに限らず、どこもインターネットの普及と小荷物宅配企業の台頭で、事業の縮小を含む経営革新を迫られている。時代の要請に応えて提供するサービスを改善していかなければならないにしても、都市部も僻地も同じ廉価定額料金で郵便を安心して任せられる郵便サービスは近代国家の象徴的存在であることに変わりはない。

アメリカでは下記に示すように、憲法で合衆国郵便公社(United States Postal Service:USPS)について規定している。USPSを健全に運営する権限と責任が議会にある。
「The post office has been, since before the founding of the United States, an essential service. So essential that when it came time to write a Constitution, Article I, Section 8, Clause 7 gave Congress the power and the responsibility to “establish Post Offices and post Roads」
出典は、ニュースサイト「The Nation」の下記の記事。
「Donald Trump and His Postmaster General Are Sabotaging Democracy in Plain Sight」
https://www.thenation.com/article/politics/dejoy-usps-postmaster-general/
AUGUST 13, 2020 4:54 PM

ここからトランプが自分の選挙のために郵便公社の改善をサボタージュしているという、もっともな非難がでてくる。
あちこちから似たような記事がでているが、「DemocracyNow」の記事を一つあげておく。
「Is Trump Sabotaging U.S. Postal Service Ahead of Election as Part of His Attack on Mail-in Voting?」
https://www.democracynow.org/2020/8/10/usps_postmaster_general_mail_delay_ballots
08/14/20 03:54 PM

ニュースサイト「THEHILL」の下記の記事によれば、資金難に直面していて現状の処理能力では郵便で投票されたものを開票日までに選挙管理当局に届けるのは困難とUSPSが四十州に伝えている。
「Postal service warns states it might miss some mail-in ballot deadlines」
https://thehill.com/homenews/campaign/512086-postal-service-warns-46-states-mail-ballots-may-not-be-delivered-in-time-to

「In letters to 40 states, the Postal Service warned that state deadlines to request, return and count ballots may clash with the realities of mail delivery at a time when USPS is already facing financial troubles, delivery delays and an expected influx of election-related mail, The Washington Post reported Friday, after obtaining the documents through a records request」

郵便事業のあるべき姿に関する常識と、常態化した赤字経営と業務体系の見直しについてまでなら、誰も驚きもしないし、即対策をということでもないじゃないかと思いかねない。
ところが、今年はコロナウィルで社会(USPSも)が麻痺しているなかで、大統領選挙の投票日十一月三日があと二ヵ月ほどに迫っている。感染を防ぐために不要な外出や密集を避けなければと言われているなかで、誰もが投票所で何時間も列に並んでは避けたい。そこで、多くの州が不在者投票も含めて、郵便による投票でもいいと決めた。

コロナウィルスの蔓延が止まらないアメリカで、そうしたほうがいいと普通の人は思うが、思わない人たちもいる。
裕福な地域では投票所も多いし身近にあるが、貧しい人たちが住む地域では投票所そのものが少ない。貧しい人たちの多くが、黒人、ラティノとよばれる中南米系の人たちやアジア系、ネイティブアメリカンの人たちで、コロナウィルスの感染も死者も人口比では白人の二倍にのぼっている。その人たちにしてみれば、遠くの投票所にでかけて、感染を心配しながら長蛇の列に並んでは避けたい。

アメリカには選挙区の区割りから、投票権の入手手続きの煩雑さやなんやかんだで、貧しい有色人種の人たちの投票を抑え込んできた歴史がある。ラティノやアジアからの移民も増えて、アメリカの人種構成が急速に変わってきている。二十年数年後にはラティノが人口の半分を占めるという予想もあるなかで、奴隷制度以来固持してきた経済的、社会的地位に不安をおぼえる白人も多い。その社会層にむけて、良き時代のアメリカへの思いを語り、そこから人種差別の視点もからめて福祉政策は、オレたちの税金を貧しいヤツらに配給するだけだと主張して政治経済の実権を握り続けようとする人たちや社会層がいる。

ここまでは、まあ日々のニュースで聞いていることで驚きゃしない。ところが、トランプはやることなすこと常人の想像や理解をはるかに超えている。
今まで、いくつも州で郵便による投票が問題になったことなどない。にもかかわらず、郵便による投票はインチキが多いし、外国(中国)からの偽投票もあるから、禁止すると言い続けている。言っていることとやってることどころか、さっき言ったことと今いっていることの整合性など考えるだけの知性がない。自分の都合で何でも言い放題で、言っていることの根拠を示したことがない。まさか忘れてはいないだろうが、2016年の大統領選挙ではトランプ自身がフロリダ州で郵便で投票したし、何の問題もおきなかった。そんなことはおくびにも出さずに、郵便による投票はダメだと言い張っている。
まあ、ここまでもあのトランプだから言いかねないと、誰も驚きはしない。

ここら先が、さすがトランプでマフィア顔負けといったら、マフィアもそこまであからさまなインチキはもう爺さんの代まででオレたちゃ、もっとスマートにやってるぜといいだしかねない。
今年の六月にトランプがLoui DeJoyを郵便公社の総裁に据えた。DeJoyは人員配置換え、新規雇用の停止、残業禁止、業務スケジュールの改変を断行してサービスの低下をもたらした。一つ具体的なケースをあげておく。リストラと称して日常業務に責任のある二十三人もの役員(executive)を配置換え、あるいは解雇した。
DeJoyは郵便事業に従事した経験がないだけではなく、利益相反(Interest of Conflict)の問題がある。USPSの外注先XPO Logistics社の株式(?)を三千万ドル以上所有している。さらに競合するAmazonのストックオプションも買っている(株価が安いときにアマゾンの株式を購入して株価が上がったときに売る権利)。

なんでこんな問題の人材をと思うだろうが、驚くなかれ、下記の記事からはDeJoyはトランプの子分のようなものとしか思えない。
出典は、先にあげたニュースサイト「The Nation」の記事
「DeJoy assumed the postmaster general position as a man with no background of work within the Postal Service. Where he does have a background is as a major donor to the president’s campaign?$1.2 million since 2016. In April 2017, he was named as a deputy finance chair for the Republican National Committee」
要点を妙訳すれば、
「2016年の大統領選挙のとき以来、DeJoyはトランプに百二十万ドル(一ドル百円換算で十二億円)の寄付をしてきた。2017年4月には、共和党全国委員会の副財務会長に推挙された」
DeJoyはトランプの取り巻きの利権屋の一人で、ただの共和党党員ではない。

呆れたことに、先に上げた「DemocracyNow」の記事には次の記述がある。
「DeJoy and his wife, Aldona Wos, President Trump’s nominee to be ambassador to Canada」
「トランプがDeJoyの連れ添いAldona Woaをカナダ大使候補に指名している」

さすがトランプと呆れるが、これで終わりではない。DeJoyをトップに据えて郵便公社民営化を目論んでいる。
「Concerns about DeJoy’s alleged conflicts of interest, and about the influence on Trump and DeJoy of advocates for privatization of the USPS」
トランプの郵便公社兵糧攻めにのって、DeJoyが郵便公社を民会企業に転換しようと言いだした。誰のための民営化か?問うまでもない。

DeJoyの発言で驚いていてはいけない。
先にあげた「DemocracyNow」の記事「Is Trump Sabotaging U.S. Postal Service Ahead of Election as Part of His Attack on Mail-in Voting?」は次の記述がある。
ネット対談で全米郵便労働組合委員長(president of the American Postal Workers Union)のMark Dimondsteinが語っている。
「Well, I think we can let President Donald Trump speak for himself on this question. On June 28th, Amy, the Office of Management Budget of the White House put out, in writing, a proposal to privatize ? i.e. break up ? the Postal Service and sell it to private corporations, where they can then make private profit」
六月二八日のホワイトハウスの予算委員会(Office of Management Budget)で、USPSを民間企業に払い下げ、そこで利益を追求してもらうという提案がだされ、書面で残っている。

選挙後の混乱
投票や開票がどうあれ、トランプは選挙当日には勝利宣言をだしてホワイトハウスに居座り続けるだろうと、多くの人が心配している。共和党の議員や財界人までが集まって、いくつものシミュレーションを用意してロールプレイまでして対策を練っている。
「DemocracyNow」が伝えている。

「What If Trump Refuses to Accept a Biden Victory? A Look at How Electoral Chaos Could Divide Nation」
https://www.democracynow.org/2020/8/3/nils_gilman_2020_election_scenarios
AUGUST 03, 2020

そこまで話がいくと、非常事態に力を発揮する二つの組織の動向が気になる。
1) 軍
アメリカ海軍の大将で、参謀本部議長だったMike Mullenも含め何人もの元高官が釘をさすかのような声明を発表している。
ここでは、「THEHILL」が伝えてきた国防総省の考えと立場だけで十分だろう。
「Pentagon dismisses 'unserious' debate over potential military involvement in any post-election dispute」
https://thehill.com/policy/defense/511848-pentagon-dismisses-unserious-debates-about-military-involvement-in-potential
08/13/20 12:21 PM
「“We have a Constitution, and our Constitution, which all members of the military have sworn an oath to, provides no role for the U.S. military as arbiter of political or election disputes,” chief Pentagon spokesman Jonathan Hoffman said at a press briefing」
アメリカ軍は憲法に忠実であるだけで、選挙結果の仲裁役の立場にはいない。大統領選挙後に予想される混乱に対して国防総省(アメリカ軍)は関与しない。

ご存知のようにアメリカは地方自治の集合体―合衆国で警察や司法は州ごと、町ごとの組織から始まっている。西部劇でみた隣の州に逃げ込んでしまえばという犯罪に対処するために全米を所管する連邦捜査局Federal Bureau of Investigation, FBI)が創設された。

2) 国境警備隊―Border Patrol Tactical Unit(BORTAC)
自治体ごとの司法と警察、合衆国を網羅する司法とFBI、そこに世界最強の軍までもっているのに、屋上屋を架すかのように国境警備隊がレーガン政権初期に強化された。不法移民の取締りとドラッグ汚染を堰き止めることが目的だったが、ロケットランチャーどころか潜水艦や多目的軍事用ヘリコプターBlack Hawkまで持っているドラッグマフィアと対峙するため国境警備隊の装備や活動が軍と変わらなくなっていった。
さらに国境を越えて政情不安とドラッグ汚染を出先で食い止めるという考えもとに中南米にまで越境している。越境したのは国境警備隊であって、派兵ではない。
2001年9月11日に起きた同時多発テロで震撼したブッシュ政権が軍隊と見違える重装備の部隊にしてしまった。
国境警備隊―Border Patrol Tactical Unit略してBORTACと呼ばれているが、トランプがポートランドのBLMデモの鎮圧に派遣したことによってその全貌の一部が知られるようになった。

アメリカ軍は歴史的に政治とは一線を画しているという自負が強く、もしトランプが出動を要請しても、市民に銃の向けるとは考えらない。ところがBORTACには対峙しているドラッグマフィアや不法移民(どちらもラティノ)に対する人種差別の感情があるし、軍のようにアメリカ社会からの目が行き届いていない。
選挙後にデモでもおきれば、ポートランドと同じようにトランプの私兵として使われる可能性がある。

ここで一つ注意しなければならないことがある。
十一月三日の選挙でトランプが負けても、来年の一月二十日にバイデンが新大統領として就任するまでは、トランプが現役大統領であり続ける。トランプのことだから、大統領権限を振り回して何をしでかすかわからないと、多くの人たちがどうしたものかと思案している。
アメリカが先端科学技術を誇る最も豊かな発展途上国にすぎないことを露呈するようなことがなければいいのだが。

p.s.
<ニュースサイトの信頼性>
「BBC」はいいけど、「The Nation」や「DemocracyNow」、「THEHILL」は聞いたことがない。どれほど信頼のおけるサイトなのか?と気にされる方もいらっしゃるだろう。
ここで引用したサイト以外にも、どの程度信頼がおけるのか気になったら、下記サイトで確認することをお勧めする。 拙い経験からでしかないが、今まで読んできた記事の内容と、下記サイトの評価は一致していると感じている。
「MEDIA BIAS/FACT CHECK」
https://mediabiasfactcheck.com/
2020/8/17