Teen Vogueに時代をみる

JPOPとKPOP、どちらも聞いたことがある。誰かがチャンネルを変えているときにテレビに映っているのを見たこともある。ただ映っていたのがJPOPなのかKPOPなのか分からない。グループ名やメンバーの名前など言われても何のことだか分からない。どちらもほとんど何も知らない。

六月二十日、オクラホマ州タルサでトランプの選挙集会が開かれた。トランプ陣営が百万人を越える参加希望者が殺到していると豪語していたのに、フタをあけてみればたったの六千人。一万九千人収容できるバンク・オブ・オクラホマ・センターには空席が目立った。一体なにが起きたのか?

ニュースサイト「The Mainichi」が、六月二二日付けの下記の記事で、TikTokの利用者とKPOPファンの若い人たちが選挙集会を馬鹿にして空予約を入れたと伝えてきた。
「Did TikTok teens, K-Pop fans punk Trump's comeback rally?」
https://mainichi.jp/english/articles/20200622/p2g/00m/0in/035000c

この記事で初めてTikTokを目にした。いったい何なんだろうとググっていって、多少は分かったような気になった。 タルサの選挙集会をきっかけにTikTokの周辺が騒がしくなった。いつまでも原稿を温めてはいられないと、わかっている範囲で、拙稿「TikTokとK-Popについて」を書き上げて、七月十四日「ちきゅう座」に掲載して頂いた。
http://chikyuza.net/archives/104598

トランプが八月六日に強権を発動して、TikTokの親会社ByteDance社にTikTok事業をアメリカの企業に売れと言いだしてからは、毎日新しい情報が流れてくる。ByteDance、トランプの圧力に負けて、事業をMicrosoftかOracleに売却するのかと気にしていたら、八月二四日、トランプ政権を訴えるというニュースがはいってきた。TikTokのアメリカ事業体の従業員も同じように訴える考えだという。
「TikTok sues Trump administration over executive order」
https://thehill.com/policy/technology/513364-tiktok-sues-trump-administration-over-executive-order

「TikTok to sue US government over ban」
https://www.zdnet.com/article/tiktok-to-sue-us-government-over-ban/?ftag=TRE21e7bbc&bhid=28244923174642383536642577150432&mid=13004158&cid=2085273807

八月十四日、トランプが九十日以内にアメリカの会社にTikTok事業を売却しろと再度強権を発動した。
「August 14 order gave TikTok's parent company ByteDance 90 days to sell of its business in the US. Discussions were ongoing with Microsoft and, more recently, Oracle involving a potential sale」

トランプは簡単に売れと言っているが、買った方は入手したTikTokのソースコードを解析して、情報漏洩を問題とするのであれば、すべて開発し直さなければならない。三ヵ月やそこらでできる作業ではない。最短でも半年以上、下手をすると一年、あるいはそれ以上かかる可能性がある。アメリカ企業が買収したとしても、TikTok利用者は半年以上、後継アプリがでてくるのを待たなければならない。

Die Weltの八月二八日の記事が二つの重要なことを伝えている。
「The future of TikTok after CEO Kevin Mayer resigns」
https://www.dw.com/en/tiktok-us-china-kevin-mayer-walmart/a-54725880?maca=en-newsletter_en_bulletin-2097-xml-newsletter&r=17178601131318983&lid=1601383&pm_ln=47201

1) TikTok monthly download in 2018 (USA)
添付されているグラフが事のすべてを語っている。このグラフを見れば何が起きているのか分かる。一昨年のデータでちょっと古いが、先が見えてしまったアメリカIT企業のスマホアプリを尻目にTikTokのうなぎ上りの勢いが見える。世界を牛耳ってきたアメリカのIT大手が束になってもTikTokに追いつけない。

Facebookが時代の寵児として躍り出たのは、もう十五年も前のことで、既に時代から取り残されつつある。Microsoftに至っては、インターネットとスマホが普及する前の時代の会社でしかない。

2) アメリカやインドが情報の流出云々でTikTokが国防上の脅威だといっているが、ドイツ(TikTokのヨーロッパ事業体はフランクフルトにある)は、そんな兆候はないと言いきっている。
「Germany, on the other hand, says it has seen no signs that the app is a security risk and is courting Tiktok to set up its European operations in Frankfurt」

真偽のほどを確かめるてだてがないが、FacebookのMark Zuckerbergが、TikTokがアメリカのIT企業の独占的地位を脅かすとしてトランプや議員に対策を訴えたというInkstoneの記事をYahoo newsが配信してきた。
「On Sunday, the Wall Street Journal reported that Facebook CEO Mark Zuckerberg had lobbied lawmakers in Washington to take a critical look at TikTok’s owner, Bytedance」
「Zuckerberg directly lobbied Trump during a dinner about the threat Chinese internet companies posed to American businesses」
「Zuckerberg reportedly also discussed TikTok with multiple American senators」

FacebookはTikTokのコピー(製品名Lasso)を作ろうとしたが、結局は既存のInstagramにSnapchatのコピーを載せたInstagram Storiesまでしかできなかった。
「Facebook even tried to copy TikTok with a new product called Lasso, much as it copied a Snapchat feature and turned it into Instagram Stories」

WALLAROO(市場調査コンサル?)によると、昨年の十一月から八月二五日までにLassoは二十五万回ダウンロードされたが、その間にTikTokは四千百万回以上ダウンロードされている。LassoはFacebookの遅れを、ひいてはアメリカのIT大手の遅れを証明することになった。
https://wallaroomedia.com/blog/social-media/tiktok-statistics/

Zuckerbergのロビー活動が明るみにでて、アメリカのIT産業が中国のIT産業の躍進を恐れてのことだったのがはっきりしてきた。そこには、かつて日本の鉄鋼やテレビに乗用車市場を席捲されたときと同じ構図が見える。違いといえば、情報やデータの流出が国防上の脅威という難癖の理由があるかないかだけのような気がする。

そもそもがデータや情報の流失がどうのこうのということ自体が言いがかりでしかない。アメリカのIT企業、例えばGoogleやFacebookをはじめとするいくつもが、積極的か消極的かの違いがあるにせよ、世界中の企業や政府、個人のデータや情報をアメリカ政府に提供している。インターネットの集約がアメリカあるし、検索エンジンではGoogleが世界を網羅している。アメリカの巨大IT企業と比べようのない、たかがモバイル向けショートムービープラットフォームアプリでデータや情報が抜ける抜けないという話じゃない。それこそ天に向かって唾を吐くようなものでしかない。
さらに言わせて頂ければ、GoogleやFacebookと同じようにTikTokを買収したアメリカ企業から利用者の個人データをアメリカ政府が手にするだけでしかない。
エドワード・ジョセフ・スノーデンによる情報流失事件がアメリカによる情報収集の一端を物語っている。

The Guardianが八月十七日付けで、Googleが極右ユーザのデータをlaw enforcement agencies(警察より公安関係か)に提供していると伝えてきた。提供している情報が極右だけのはずがない。
「Google giving far-right users' data to law enforcement, documents reveal」
https://www.theguardian.com/technology/2020/aug/17/google-giving-user-data-authorities-documents-reveal

ニュースサイトWorld Socialist Web Site(第四インターナショナル)が昨年八月二五日付けで、Googleに社会主義関係のホームページの検閲を止めるよう公開質問状を出した。
「An open letter to Google: Stop the censorship of the Internet! Stop the political blacklisting of the World Socialist Web Site!」
https://www.wsws.org/en/articles/2017/08/25/pers-a25.html

Googleの検索エンジン(Google Chrome)から除外されると、除外されたサイトはインターネット上に存在しないことになるから恐ろしい。特別なにも考えることなく毎日Google Chromeを使っているが、もしGoogle Chromeによるサイトのランク付けがなかったら、重要なサイトもどうでもいいサイトも脈絡なく画面に表示されて、インターネットが実質使いようのないものになる。
インターネットを使うためになくてはならないGoogle Chromeだが、PCやスマホを使っている人の居場所やどのホームページを見にいっているのかがGoogleには筒抜けになっていると考えた方がいい。

ここまで大騒ぎになっているTikTokだが、言ってみればモバイル向けショートムービー・プラットフォームアプリでしかない。世界中で、何億人どころか十億人以上の人たちが楽しく使っているが、なぜタルサの選挙集会に記事でKPOPと並んで書かれていたのが分からなかった。両者の間にどのような関係があるのか、何が両者をつないでいるのか。
TikTokを使っている人たちのなかにはKPOPのファンもいるだろう。共通点は若い人たちだと思っていたが、「Teen Vogue」のニュースレターを見るまでは、いまいちピンとこなかった。

先の投稿「TikTokとK-Popについて」を引用する。
「TikTokについては、驚くことに十代(いっても二十代前半)の若い女性向けのファッション誌『Teen Vogue』にいかにも黎明期を象徴する記事があった。二〇一六年三月二七日付けだから、もう四年以上も前になる」
「Why Everyone Is Downloading This New Social Media App」
https://www.teenvogue.com/story/musically-becomes-top-app-popular-teens

「Teen Vogue」は「Vogue」のティーンエージャー版で、日本で言えば女子中高校生を読者層とした雑誌「セブンティーン」に相当する。「Vogue」は成人女性向けのファッション誌で、日本では「ヴォーグ」の誌名でちょっとハイソの雰囲気を売りにしている。歯医者か眼科の待合室にあったのを眺めたことがある。大きな書店ならどこにでも置いてある。

「Teen Vogue」のサイトをご覧いただきたい。
https://www.teenvogue.com

人種差別と言われかねないので言葉が慎重になってしまうが、「Vogue」は今まで目にしてきたファッション誌と似たようなもので、たいした違和感がない。一言でいえばまだまだ白っぽい。ところが「Teen Vogue」は妙に黒っぽい。それだけではない。そこにはKPOPもある。

バケットハットをバックにBlack Lives MatterにつながるラッパーMegan Thee StallionとKPOPのBTS(防弾少年団)の写真が張り付けられている。
「The Bucket Hat Brand BTS and Megan Thee Stallion Both Approve Of」
https://www.teenvogue.com/gallery/best-bucket-hats

アメリカで起きている若い人たちを中心にしたProgressiveの動きも合わせて、三つの要素がここで合流しているのが見える。Black Lives Matterを核とした人種差別に反対する活動、LGBTQ+や弱者に対する政治姿勢も「Teen Vogue」に見て取れる。

Progressiveを代表するAlexandria Ocasio-Cortezが「Teen Vogue」に寄せた記事もある。その一つが下記。
「Alexandria Ocasio-Cortez Explained Why She’s Imposed "Little Rules" on Her Social Media Usage」
https://www.teenvogue.com/tag/alexandria-ocasio-cortez

「Alexandria Ocasio-Cortez」と題したページまである。
https://www.teenvogue.com/tag/alexandria-ocasio-cortez

「セブンティーン」のように「Teen Vogue」はティーンエージャー向けのファッション誌だが、それだけではない。はっきりした社会意識をもって、次の社会のあるべき姿を主張している。
どちらもティーンエージャーを対象としたファッション誌だが、社会意思の違いに彼我の差を感じさせられる。
New York TimesやWashington Postでもないし、New YorkerやAtlanticでもない。EconomistやGuardianでもない。まさか、ティーンエージャー向けのファッション誌に時代を見ることになるとは考えたこともなかった。
2020/8/30