FOXもトランプも目的は金儲け

騙されていると知らずに他人をだましてしまうのと、騙そうとして騙しているとは違う。訴訟にともなう捜査でFOX Newsがしてきたことは後者であることが明らかになった。FOX Newsは視聴者が望むものをというだろうけど、慈善事業でやってるわけじゃない。事実であろうがウソであろうがかまいやしない。そういう意味ではトランプもトランプ支持者もかわらない。事実だから本来あるべき姿だからと今日のメシにも困ることなんかしやしない。要は金儲け。それをビジネスと呼ぶ人たちがいる。アヘン戦争もビジネスだったと言いはったアメリカ人もいた。

トランプとその取り巻きが、二〇二〇年米大統領選で勝利したのはトランプであり、投票集計システムを提供したDominion Voting Systemsの不正集計の結果バイデンが大統領になったと主張し続けた。FOX Newsは、トランプ陣営の主張をウソとしりながら、ウソの主張をニュースとして流し続けた。これに対してDominion Voting SystemsがFOX Newを名誉棄損で訴え、賠償金として十六億ドルの支払いを求めていた。
証拠として集められたFOX News内部の記録から、経営トップからスターニュースキャスターまで全員がトランプの主張は根も葉もない戯言―大うそであることを十分に知っていたことが明らかになった。元大統領が引き起こした犯罪に加担したFOX Newsに対する裁判がどうなるのか全米の主要メディアが毎日のようにニュースを伝えている。
裁判が進めば、新たな都合の悪い事実が明らかにされる。そしてもし証言台に立たされでもしたら、醜態をさらすことになるとFOX News側は恐れた。「報道の自由」を盾に争ったところで敗訴は避けられない。そこで、このたぐいの係争で起きることがー賠償金の値切りと示談がーいつものように起きた。それを産経新聞は和解と呼んでいるが、FOX Newsが係争を続けることと、示談に持ち込むことを損得勘定にかけた結果だった。

示談によってDominion社は年間売上の八倍近い賠償金を手にした。それは数年前のDominion社の市場価値の約十倍に相当する金額で、FOX Newsのウソ報道で失った信用やビジネス機会を補って余りあるものだろう。
八億ドルの示談金は史上最高額で、四〇億ドル以上の現金および現金相当の資産を保有し、四半期の利益が三億ドルを超えるFOX Newsにとっても大きな出費であることに違いない。さらにこの高額の示談金が係争中のSmartmatic社への示談金や今後株主からでてくるであろう経営陣に対する損害賠償額のガイドラインとなる可能性を考えると、手持ち資金の豊富なFOX Newsにとって大きな負担になっていくことが予想される。Smartmatic社はDominion社と同様の電子投票システムを提供している会社で、FOX Newsに対して二七億ドルの損害賠償を要求している。

FOX Newsの苦境はまだまだ続くが、契約視聴者や広告クライアントに動揺はなく、ケーブルニュースネットワークのトップの座を維持している。ウソニュースを流し続けて、アメリカ社会を揺るがす大きな一因となったにも関わらず、なぜビジネスへの影響がこれほどまでに小さいのか?
契約視聴者がウソの報道を事実だと信じているからだとういう説明もあるが、それは現象を指しているだけで説明になっていない。なぜウソの報道を信じ続けるのか?考えられる理由はいくつかあるが、最大の要因は視聴者もトランプやその取り巻きと同じように思っているからだろう。自分たちが日常生活のなかで感じること、思っていることをトランプが代弁し、それをFOX Newsが事実のように伝える。それを聞いた視聴者はやっぱりそうだ、俺たち、私たちが思っている通りじゃないかということに他ならない。
ではトランプが主張し、FOX Newsの視聴者が思っていることはなんなのか?

危険を承知でまとめてしまえば下記になる。
白人がブルーカラーまでふくめて社会の中枢を担っていたアメリカ社会に白人以外の人種も中枢をになうべく登場してきた。アメリカの経済構造が製造業からサービス産業への移行していく過程で、かつては高等教育を受けていなくても中間層にいられた白人がサービス産業の、付加価値の少ない(給料の安い)仕事へと追いやられ、社会の中間層からそれまでは差別の対象でしかなかった非白人と同じ下層階級へと押しやられた。Make America Great Againに象徴されるトランプの発言は、白人が白人として社会の中枢を担っていたかつてのよきアメリカへの憧憬をあおり、FOX Newsの視聴者の多くにトランプが俺たち、私たちの思いを代弁してくれていると思うのは当然だろう。

人は他人も自分ちと同じように考え行動するだろうと無意識のうちに思っている。選挙体制を自分たちの都合で変えてきた(インチキ)から、他人も同じことをするはずだという気持がある。自分たちの思いを代弁しているトランプが選挙がインチキだと主張すれば、トランプ支持者のコミュニティではやっぱりそうだったのだという常識が形成される。

支持者は自分たちの生活が前の世代より苦しくなっているという現状からトランプのウソに惹かれる。トランプは自身の経済的目的から支持層が聴きたいことを言い続ける。FOX Newsはその社会層が視たい、聴きたいことを放送することで金儲けをしてきた。FOX Newsの広告クライアントはその社会層向けの製品やサービスのコマーシャルにFOX Newsが有効だと思っているからFOX Newsを使い続ける。トランプとFOX NewsにFox Newsのクライアント――ウソのトライアングルを構成している磁力は金もうけから生まれている。
今回の示談や引き続く訴訟でトランプ支持層、トランプに代表される保守政治屋、そこに広報機関として禄を食むマスコミになにか、少なくとも当面の間に変化が起きるとは思えない。ただ長期的にみれば、選挙制度をどういじろうが、アメリカの非白人有権者は増え続け、変わり続けるアメリカ社会でトランプ支持層は周辺に追いやられる。
FOX Newsも金儲けでやってるわけだから、長期的には今までの視聴者から次の社会層の視聴者へと乗り換えなければならないだろうが、早々簡単にはいかない。そこにはCNNやYahooやUSA TODAYもいれば、巨大テレビネットワークにNew York Times……がいる。

p.s.
<得したのは誰か>
問うまでのことでもないが、一番得したのはFOX News社でもなければDominion社でもない。弁護士連中だ。弁護士稼業は現代社会の傭兵業といってもいいだろう。法律に基づいて白黒決着を付けなければならないとなると必ずお声がかかる。

<示談に逃げる>
お世話になったアメリカの巨大コングロマリットには、その日の、その月の、その期の金ほしさにしばしば法律すれすれのことに手を染める連中がいた。そうでもしなければ、レイオフになるのが目に見えていることもあって、ときには一線を越えてしまう。たとえ法に触れたとしても、やったもん勝ちで、相手や関係者が訴訟までしてくるはずはないと高をくくっている。そして万が一訴えられたら、早々に示談に持ち込む。法定で争ったところで勝ち目がないことは分かっているし、そんなことをしたら、余計なことまで露見しかねない。

<財務屋の視点>
葬儀屋もジェットエンジン製造も不動産もサラ金も経営という視点でみれば同じだというファンドのような経営思想だから、巨大コングロマリットには製造業の経営をできる人材がほとんどいない。あるとき金のタマゴを生むだろうと目論んで医療装置メーカを買収して、即経営陣を送り込んで従来からの経営陣を一掃した。乗り込んだ新経営陣は財務屋で、製品開発や市場開拓の知識がないとうだけでなく興味もない。コストカット(レイオフ)で早々に数字を上げて、うまく昇進をと目論んでいた。内部告発でもあったのだろう。FDAから改善指示がでてきた。そんなものを気にしていたら儲けが出ないと無視した。再三の警告を無視しつづけたら、FDAから事業停止命令がくだって事業体がなくなった。

参考資料
参考にしたニュースの主なものをリストアップしておく。機械翻訳にはDeepLを使用した。読みにくい個所があると思うが、ご容赦を。
1) 四月一九日つけのThe Hillのニュース
『Biggest winners and losers in the blockbuster Fox-Dominion settlement』
『フォックスとドミニオンの和解案の最大の勝者、敗者』
https://thehill.com/homenews/media/3959031-biggest-winners-and-losers-in-the-blockbuster-fox-dominion-settlement/?email=eb12079d10893b0abe815c7b35c4a2d7c46f795f&emaila=9e874b08e1c88ec6058ee4c8a8b704ca&emailb=885991de1e0bc543407be9533f0f209b031a7c7d8ec7be89dfefe40606c169e2&utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=04.19.23%20RS%20Fox-Dominion%20Losers%20and%20Winners

<Dominion Voting Systems>
「16億ドル請求して7億8750万ドルを手にした。約半額に値切られはしたが、プライベート・エクイティ・グループのステイプル・ストリート・キャピタルが2018年に同社の支配株式を購入したときの評価額8000万ドルをはるかに上回る」
「データプロバイダーのPitchbookによれば、昨年約1億ドルと推定されたDominionの年間売上高よりも何倍も高い」
「Dominionは、Fox社の取材により、事業に9億2100万ドルの損害、8800万ドルの逸失利益、6億ドルの将来利益の喪失を被ったと、公開された報告書で述べている」

<Fox News>
「Fox Newsの2022年最終四半期の売上高は46億1000万ドル、純利益は3億2100万ドルだった」
「最近のThe New York Timesの報道によると、Fox Corporationの提出書類には、同社が2022年末に約41億ドルの現金および現金同等物を保有している」
Dominionと同じようにFox Newsを提訴している会社がもう一社ある。電子投票システムを提供しているSmartmaticで要求賠償額は27億ドル。賠償額を値切って示談に持ち込もうとするだろうが、Dominionへの約8億ドルが参考とされるのは間違いないだろう。さらにFox Newsの株主から経営陣に対する損害賠償を請求される可能性もある。

2) 二月二十八日つけのNPR(National Public Radio) の記事
『Rupert Murdoch says Fox stars 'endorsed' lies about 2020. He chose not to stop them』
『ルパート・マードック、Foxスターが2020年に関する嘘を「支持した」と語る。彼はそれを止めないことを選択した』
https://www.npr.org/2023/02/28/1159819849/fox-news-dominion-voting-rupert-murdoch-2020-election-fraud

「Fox社のボスであるRupert Murdoch(写真左)とLachlan Murdoch(写真右)がFox Newsの編集上の意思決定に深く関与していた」
メディア王ルパート・マードックは、自慢のFox News Channelの司会者たちが、選挙不正に関するドナルド・トランプ大統領(当時)の嘘を是認していることを知っていたが、彼はそれを止めるために介入しなかった。
それどころか、同局の支配的オーナーであるマードックは、事実を突きつけられて怒った親トランプ派の視聴者のために、同局の上級幹部たちに倣って真実を回避した。
フォックス・ニュースの最高経営責任者や出演者に、選挙で嘘を売り込むトランプ陣営の主要弁護士であるルディ・ジュリアーニに放送時間を割かないように言えたかと聞かれたマードック氏は、「できた」と答えた。"I could have "とマードックは言った。「でも、やらなかった。
これが、Fox Newsとその親会社であるFox Corp.の両方に対する16億ドルの巨額の名誉毀損訴訟で、投票技術会社Dominion Voting Systemsが月曜日に提出した証拠から浮かび上がった図である。

3) 四月十九日つけNew York Times Intelligencerの記事
『All the Texts Fox News Didn’t Want You to Read』
Fox Newsがあなたに読ませたくないテキストのすべて
https://nymag.com/intelligencer/2023/03/all-the-texts-fox-news-didnt-want-you-to-read.html?utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=Intelligencer%20-%20March%2029%2C%202023&utm_term=Subscription%20List%20-%20Daily%20Intelligencer%20%281%20Year%29

2021年、Dominion Voting SystemsはFox Newsに対して16億ドルの名誉毀損訴訟を提起した。同社は、2020年の選挙で多用されたドミニオンの投票機に関する不正選挙説を、Foxのパーソナリティが繰り返し否定的に放送していると訴えた。ドミニオンは、Fox Newsの司会者が故意に視聴者に虚偽の情報を流したことを証明しなければならないため、アメリカの裁判所で名誉毀損の裁判に勝つのは難しい。そのため、同社は、タッカー・カールソン、ローラ・イングラハム、ルパート・マードック自身など、Fox Newsインフラストラクチャの著名人との間で交わされた膨大な内部テキストメッセージと電子メールを召喚した。
すでにケーブルネットワークにとって恥ずべき見出しをいくつも生み出している。トップ司会者のタッカー・カールソンは、トランプを "情熱的に"憎んでいるとテキストメッセージで内々に語っていました。カールソンと同じプライムタイムの司会者ショーン・ハニティは、トランプのファクトチェックを理由にFoxのレポーターを解雇させることについて話し合った。そして、Foxのトップタレントが、今回の訴訟の中心となっている主張について、パウエルを内々に侮辱している様子がテキストメッセージに示されています。
2023/4/23