金融機関亡国論

2012年10月6日号の英Economist誌にBarclays Capital’sの“Equity Guilt Study”を引用して、揺るがぬ共和党支持のWall Streetを軽く揶揄する記事があった。記事を翻訳する気はさらさらないが、一市井のものにはこれ以上のデータを集め、分析する能力がないので引用させて頂く。記事は、Wall Streetにしてみれば自分達の利益の代弁者としての共和党という以上に、今回は自分達の身内が大統領候補だから期待も大きいだろうと前置きしながら、その期待、叶えられるものなのか?ちょっと注意した方がいいんじゃないかと締めくくっている。
Economistらしく、まず共和党と民主党の大統領の政権下の歴史的なデータを提示から始まっている。続いて、親ビジネスと小さな政府(福祉や社会保障などの財政負担軽減)など伝統的な共和党の政策とその大統領候補が主張している減税と財政支出の削減、反量的緩和がはたして現在の経済、金融、株式市場の状況に合っているのかという疑問を提示している。
記事によれば1929年以降共和党の大統領が通算で10期の任期をまっとうしたが、この間、米国の株価の変化は実質値で平均して若干マイナスだった。一方、民主党の大統領の期間の株価の変化は実質値で平均+7%だった。名目値でみれば、民主党の大統領の期間は10.8%増、共和党の大統領の期間は2.7%増に留まった。
Wall Streetが共和党を支持するのは共和党が親ビジネスと考えられてのことだろうが、これも歴史的な数値を見ると、そう思われているに過ぎない可能性がある。(親ビジネスではなく、親富裕層と見れば辻褄が合うが、)”Unequal Democracy: The Political Economy of the New Gilded Age”によれば、1952年から2004年の間の富裕層の税引き後実質所得は民主党の大統領下で1.37%増、共和党の大統領下では0.92%増だった。興味深いのは、貧困層の税引き後実質所得が民主党下で1.56%増えたが、共和党下では0.32%減少した。(数値は、いずれも平均年収の増減。)
民主党下では富裕層も貧困層も実質所得が増えた。共和党下では富裕層の実質所得は増えたが、貧困層のそれは減った。共和党下では富裕層と貧困層の実質所得格差が拡大した。
データのとり方、大統領と上下院の関係、オイルショックやテロなど外的な影響もある。一概にどっちの政党の大統領の方が良いの、悪いのという俗で性急な結論を出すのは控えなければならないとは思うが、大筋の判断を下すには十分なデータに見える。金融機関、少なくともWall Streetの意向の反映を第一義と考える政策では米国の経済成長は遅れ、貧富の差が拡大した。
株屋や投機ブローカならいざしらず、一経済誌でしかないEconomistが要約に使ったデータを官民(学)のまともな金融関係者が知らないとは思えない。違う結論を出す、もっと説得力のあるデータがあるのかもしれない。あるのかもしれないが、一市井の者には十分に見える。金融関係者があたかも自分達が全産業を代表してでもいるよう振る舞ってか、あるいは製造業なども金融関係に侵されて金融関係と同じ思考形態に陥ってか、金融関係を第一義として産業振興、もっといえば国家レベルでの経済発展を二次的なもの、さしたる考慮も必要のないものとでもしているように見える。Economistの記事は、この点についてはあえて書かずにおいて、おいおい、Wall Streetの面々、何をしようとしているのか分かっているんだろうなと揶揄しているように読める。
共和党の伝統的な政策も今回のあまりにも社会的に無知な大統領候補の主張する政策も国レベルの経済を無視して、富裕層の利得を優先しているようにしか見えない。富裕層の増えた資産は金融機関(特に投資銀行)の金稼ぎの追加原資になる。原資にはなっても、それが米国国内に投資される保証はない。投資に対するリターンの大きい海外に流れ、国内に残るは僅かだろう。
貧しい人達の収入が増えれば消費が拡大する。消費が拡大すれば一般大衆消費産業に対する需要が増え、国レベルでの経済が成長する。しかし、この成長が投資銀行の金稼ぎの原資に回るまでは時間がかかる。彼らにとっては時間がかかりすぎるということだろう。
どっちがあるべき姿か?自明の理と思うのだが、どういう訳だか、そうではない、それは人それぞれだといいながら、一部の社会層にだけ都合の好いことを主張する人達もいる。
まさか戦後の復興期でもあるまいし、米国の社会経済システムを唯一無二の標準モデルとして歴史も社会背景も違うところに押し込もうとすることで、かろうじて存在を主張できる産学官の立派な、立派過ぎる方々が目につく。