中国製家電製品

あまりにも多くの人が中国製家電製品に対して誤解しているように思えてならない。理解の一部、マイナスの部分が奇形的にまで大きくなって、他の部分があることを忘れさせてしまっているようにみえる。多くの人々の間で誤解が常識化して、常識の常として誤解が要塞のように固まってしまった。そのため、誤解を誤解として指摘することが多数派の常識をさかなでしかねない。大きな視点で見える事実を事実と認めようとしない情けないありさまになってしまった。
多くの人が、新聞やテレビなどから得られる間接的な情報からではなく、直接体験を通して、ほとんどの家電製品がすでに日本製ではないことを知っている。昔からよく知っている日本の家電メーカの製品を買ってきて、箱から出して使う段になって、今度買ってきたものは以前から使ってきた日本の家電メーカの製品にもかかわらず、日本ではなく中国で製造されたものであることに気がつく。この類の経験をしたことのない人の方が少ないだろう。それほど日本のどの家庭にも事務所にも中国製の家電製品があふれている。日本の家電メーカが日本で製造した製品と中国で製造された家電製品を何の違和感もなく使ってきた。使ってきて、日本で製造されたものでも中国で製造されたものでも、何も違わないことを経験してきた。
日本の家電メーカが中国に資本進出して自社の中国の工場で製造した中国製家電製品もあるが、中国の会社に製造委託している場合もある。なかには、中国のメーカが独自に開発、製造した製品をブランド名だけを日本の会社にして販売されるケースも増えている。日常生活に使用する家電製品のレベルであれば、日本で製造しても中国で製造しても製品の機能や性能、信頼性では違いがなくなって久しい。
中国でもしっかり製造すれば世界市場で通用する製品を作れる。その格好の例がAppleの製品だろう。Appleの製品は台湾のFoxconn社の中国工場で製造されている。その製品は世界市場を席巻して、日本の同業がApple + Foxconn共同体の後塵を拝してきた。
ここまで中国製の家電製品を日常的に何の問題もなく使用してきているにもかかわらず、中国製家電製品の信頼性上の不安?を理由に日本製であることを購入検討の必須条件として上げる人や企業が後を絶たない。Appleの製品をみれば、中国で世界市場で通用する品質の家電製品を製造できないという主張−漠然とした信頼性に対する不安−が合理的な説得力を持たないことは誰の目にも明らかなはずだ。よくよく話を聞き詰めてゆくと、漠然と主張している中国製家電製品の信頼性の不安が、実は、中国製ということにあるのではなく、中国製のあり方の問題ででしかないことに気づく。
中国での製造を選択する目的はただ一つ、コストダウンにある。コストダウンを可能にしてきた中国の生活コストの安さと低賃金があった。しかし、そのコストダウンへの衝動が、しばしば合理性を欠いた買い手側のエゴによるコストダウン要求に走り、中国の製造業の発展を阻害してきた一面がある。
深センで電子製品の製造工場を立ち上げた日本人の苦労話をいい意味で半分笑い話のように書いた本を、随分前に読んだ。うろ覚えだが、そこには、おおまかにだが、コストダウンを目的とした日本のバイヤーと中国の受託製造側の関係、ひいては中国製品ありかた、その信頼性に対する風評の縮図が書かれていた。 数字は覚えていないので、勝手に書かせて頂いた。
中国の委託製造先が言うには、「バイヤーから2,000円で作れと言われれば、10年経っても間違いなく使い続けられるものを作れる。1,000円で作れと言われれば、よくて三年しかもたないものしかできない。それを500円でとなれば、半年しかもたない。300円では一週間もつかもたないかのものしかできない。どれを選ぶかはバイヤ−であるあなたが決めることだ。」
一発勝負のバイヤーやブローカが暗躍して、中国の委託製造先に安くて当たり前、どこまで値切れるか、値切って値切って値切り倒して安かろう悪かろうの粗悪品を作らせる。その粗悪品が市場の風評を形成する。貨幣で言うところの“悪貨は良貨を駆逐する。”というのと似たようなことが中国製家電製品で起きてきた。目先の金で動いている日本人ブローカと粗悪品しか作れない、それでしか生きようのない底辺の中国の製造業者が二人三脚で起こしてきた。その二人三脚に乗ったというか、加担したといった方がいい日本の販売チャンネル、自分の定見のなさを棚に上げた日本のバイヤーが、客が信頼性を云々する。云々を伝聞として聞き、それを、ある一例としてではなく、全てに当てはめて考える人達。その人達の定見のなさを思うと、云々されなければならないのは、その云々している人達、その云々が全てと思う人達ではないかと思えてくる。ちょっと考えれば誰でも分かるはずなのだが、Appleにできて、日本企業にできないわけがないだろう。当然できている。できてるのだが、そのできているのを見ようとしない人達、できていない個々のケースを取り上げて、それを全てと認識として、できているのを帳消しにしてしまう人達がいる。云々されるべきは、まず、そのような人達の思考能力であって、中国家電製品の信頼性ではない。
2013/4/14