3Dプリンティング

3Dプリンティングを知ったのは2011年2月20日付けの英Economist誌の記事だった。3D Printingがトップ記事で、表紙にはいくつかの白い雲の青い空、そこにうぐいす色のヴァイオリンと黒い弓が浮いていた。表紙に“Print me a Stradivarius”とあったが、何を言わんとしているのか記事を読むまで分からなかった。
記事を読んで驚いた。原理を考えれば、今まで全くなかった本当の意味で想像できなかったような新しい要素技術が開発された訳ではないことが分かる。既に似たような用途に開発され、実用化されて普及期に入った要素技術から構成されている。随分前からその技術的可能性には多くの人が気がついていて、なんとか実現しようとしてきて、やっと実用化に辿り着いたのだろうと想像がつく。しかし、記事を読むまで知らなかった。知らなかった、知りえなかった自分が情けなかった。
実用化が始まれば、機能や能力の進化が加速する。その時に起きるであろう既存業界への衝撃を想像した。
気になってWikipediaで3D printingを調べてみた。既にかなり細かなことが書いてあった。部品製造が大きく変わる。部品製造の工程が変わるだけではない。部品製造に使われる機械装置を提供している業界、その機械装置の制御装置のメーカ。。。かなり広い業界に革命の荒らしが起きるのは時間の問題ででしかない。既に当時のWikipedia (英文)には、当初はペースメーカなどカスタムの一品物の製造に向いて、量産品の製造には製造コストの点で既存の製造方式を置き換えるまでにはならないだろうと思われていたのが、量産品の製造でもコスト競争力がでてきたと書かれていた。サンプル品の写真も結構アップされていて説得力のある記述だった。
衝撃的だった。即、知り合いの工作機械専用の制御装置メーカの社長と工作機械業界の業界紙の知り合いにEconomists誌の記事とWikipediaの記述のコピーを転送して、3D printingが実用の域に達しているようだが、ご存知かと連絡した。両者とも聞いたこともないとのことだった。
その後Economist誌は2012年4月21日号、7月28日号、12月15号と立て続けに3D printingを取り上げてきた。Economist誌には、毎号三、四ページくらいのScience and Technologyという欄と年に四回のTechnology Quarterlyというスペシャルレポートがあるが本質的には誌名が示すように一般社会経済紙であって科学や技術の紹介に注力している雑誌ではない。その雑誌がこれだけ頻繁に触れるということは、3D printingが部品製造にもたらす革命的な潜在能力が欧米でも一騒ぎになっているのだろうと想像できる。
2012年2月中旬に物造りの日本の世話役の立場なのか、媒体主幹事なのか立場は存じ上げないが、大手日刊新聞のご担当者にお会いする機会があったので、米国で3D printingが実用化されてきたが、ご存知かとお聞きした。知らないというので、参考にして頂ければと思い、Economistの記事のコピーとWikipedia(英)のコピーを送らせて頂いた。
3D printingが、米国に於けるベンチャーどもがいったいどのように走り回っているのか、いざとなったときの米国情報入手先だけは作っておいた。ところがこの半年ほど前になるまで、3D printingについて誰に話しても、興味を示す人はいなかった。半年ほど前になると思うが、数名の方からHNKで3Dプリンティングの特集番組が放送されたと聞いた。内容にびっくりしたとのことだった。NHKの特集番組がきっかけだったのだろう。その後、ちょっとした流行語のような感じで3D プリンティングという言葉を聞くようになった。Webやメルマガあたりでも“さわり”の解説のようなものを目にするようになった。
なったのはいいが、その“さわり”が情けない。曲がりなりにも受け取るのは大の大人、中学校の理科は分かっているという前提で、もうちょっときちんと紹介できないのか、情報屋としては世界から周回遅れ、それも一周ではないかもしれないのに、英語のWikipediaに記載されている内容の方が、はるかに整理されて、きちんと書かれている。
http://en.wikipedia.org/wiki/3D_printing
たとえ無料配信の記事であったとしても、Wikipediaに書いてある内容よりはるかに劣る。はっきり劣ると言っても言い過ぎではない記事で情報屋たりえるのかという素朴な疑問が湧いてくる。情報屋だったら、少なくともWikipediaの内容くらい理解してから、ガセもどきの情報を精査するぐらいのことはしろ。もっとも、情報屋ではなく、コバナシ屋なんですというのなら、分からないでもないが。それでも、己の無知を恥ずるオツムもないコバナシ屋が経済新聞の上をゆく軽さで、配信してくる書物が受信者を混乱させかねないことが気になる。工作機械による切削加工、工作機械の制御装置としてのCNCが何かも分からずに3Dプリンティングと比較してああだのこうだのという配信記事には呆れる。経済新聞の記事と同じように言葉がただ言葉として並んでいる。隣の猫がどうの、庭の花がどうのというブログの方が罪がなくていい。
かなり寂しくなるが、ウィキペディアの記載では、こうなる。日本語で読める。ありがたい。でも、内容が。。。
http://ja.wikipedia.org/wiki/3D%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%BF
日本語のウィキペディア、どなた様がお書きになられたのか存じあげないが、お書きになられた方、当然英語のWikipediaには目を通されてのことと思う。
情報屋と五十歩百歩、どっちもどっち、その中でしか情報を得られないとしたら、世界じゃ遅れない訳がない。遅れた中で生きてゆけばいいじゃないというのもありかもしれない。でも、ない可能性の方が高いような気がしてならない。
ことのついでだ。世界に誇る日本の製鉄技術の粋の一つと言われる珪素鋼。
ウィキペディアで珪素鋼。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%82%A4%E7%B4%A0%E9%8B%BC
そこから英語のWikipediaにとんで、Electric steel。
http://en.wikipedia.org/wiki/Electrical_steel
Electric steelはそこそこ説明されているが、珪素鋼は広辞苑に毛の生えた程度、無いよりいいが。
2013/7/14