経営はアートだ

おいおいお前、こりもせずにまた社長の言ってることを信じてるのか?知ってるだろう、あいつの言い草。「経営はアートだ、芸術だ」 全く、何を偉そうなこと言ってんだって、お前だってついこの間だかなり怒ってたろうが。芸術って言えば聞こえはいいが、要はその場しのぎの八方美人。相手が聞きたいと思ってることをちょっと格好つけて遠回しに口に出してるだけだ。
オレもお前もあいつとは結構長い付き合いだ。今まであいつのつぶやきに散々振り回されてきたろう。いつも言質を取られないようにぼかして言ってるだろうが。お前に都合のいいこと言って、五分としないうちにあっちでも、こっちでも都合のいいことを言ってるくらいのこと分かってんだろうが。誰にとっても都合のいいことなんかありゃしない。こっちに都合が良けりゃ、あっちにゃよくない。世の常だ。それを正面から受け止めないっていうのかね。善意にとれば皆にいい顔していい人でいたいってだけだろけど。まわりのことばかり気にして女子高生でもあるまいし、いい歳して責任逃れのスキルだけでズルっこく生きてけると思ってんだろうよ。いつも調子だけはいいから、あいつが何なのかオレにもよく分からない。よく分からないなが一つだけはっきりしてることがある。お前も反対はしないだろうし、できっこない。あいつはただ狡いだけだ。あいつを信用するヤツはバカしかいない。
その場凌ぎの適当なことをあっちでほい、こっちでぽろってやってるもんだから、まともな全体会議ってのがないだろう。月例会議で、これも変な話だろう。議事進行役の営業が社長にコメントをお願いしますだ。そりゃないだろう、こんな小さな組織だ。月に一回の営業全員が集まる席だ。なにはなくとも社長として皆をリードしてくってのか、激を飛ばすってのか、もっとしっかりした口調でなにかなきゃ変だろう。小声で愚にもつかねぇってのか、何をいいたいのか分からない、少なくともオレにもお前にも分からない、みんなにも多分なんだか分からないコメント。寝言の方がまだはっきりしてるんじゃねぇーか。
何か少しでもはっきりしたことを大人数の前で言ったら、そりゃ大変なことになる。みんな、それぞれ都合のいいこと囁かれて、一歩後ろに下がって、都合のいいように聞こえることを囁かれてって言ってもいいが、一堂に会してるところで、はっきり言ったら、誰も彼もがおかしいじゃないかって言い出しかねない。もっとも、みんなお前ほど真っ正直でも愚直でもないから、誰も何も言いやしない。ただ、言いだしたっておかしかない。囁かれてきたことはその都度のいい加減なことだ。白黒つけねぇ。雨が降ったら傘さしましょうってな類のことぐらいしかはっきり言わねぇーだろうが。残業は少なくしましょうって。誰も反対しやしねぇ。それをだ、みんな集まったところで白黒はねぇ。囁き以上にいい加減な玉虫色ってやつしかありえねぇだろう。
いいか、いい加減に目を覚ませ。そもそも、人が何か言ってるなんて考えるからおかしな事になる。ただ、いやらしいほど粘っこい空気が口という体の一つの器官からドロってでてきて、それが間違って音になって、その音が耳鳴りのせいで声に聞こえちゃう。その程度に考えた方がいいっての。
ちょっと注意して聞くってのか、ついこの間に聞いたことと今度聞いたことの間になにかまともな意味ある関係というか進展というのか、そこに人としての誠意とまで言う気はないが、なにかがあったためしがあるか?その都度、その都度ただ聞こえのいいことを口から吐き出してるだけだ。オレたちのような馬鹿にゃできない芸当だ。そういう意味ではあいつの言ってる芸術だってのも一理あるような気もしないわけじゃない。オレもなんどか真似しようとしたけどとても真似できなかった。オレたちのようなまっとうな人間にはできっこない。あの芸当は練習や訓練でできるもんじゃない。血だ。生まれながらにしての体の良い詐欺師だ。そうじゃなきゃあんな芸当できっこない。
みんなも、オレやお前のように散々振り回されてきた。オレがいってるのと似たようなことを思ってるはずだ。オレやお前と似たようなもんだ。たいした頭を持ってるヤツはいない。それでも、もういい加減みんな気が付いてるだろう。何の指針もなしにこれだけ振り回されれば、いくら馬鹿でも気がつかないわけがない。あいつらをよく見ろ、囁かれたって何したって涼しい顔してるだろう。特段喜ぶ訳でもなく、ああそうですかって顔してるだろう。分かるか、誰もまともにあいつの声ってのを聞いてないってこった。聞いてもしょうがないというか、聞けば聞くほど害がある。信じで走っててたら、走る方向が違ってたなんてもんじゃないのをお前を散々味わったろう。走れと言われても走る準備も何もない。もう、誰も走りゃしない。走るってことの意味すらここでははっきりしない。頑張るも、一所懸命も意味のない言葉というより音としてだけのものしかない。人間不信というのも及ばない。言質もへったくれもない。みんなと同じように適当に流してりゃいい、それ以外にしようがないだろう。気にするな。オレたちゃ実ビジネスの世界に生きてる。生きてるって自信もあるし自負もあるだろう。ただ、オレたちにゃ想像もつかない芸術の世界があるってこった。そんなもん気にしたってしょうがねぇって。
人を騙さなければ生きてけないってのか、騙す手練手管があいつの言い草では、「経営は芸術だ、アートだ」というこった。人を騙すより、騙される方がよっぽどいいやぁな。違うか?人を騙して、お前平気でいられるか?冗談じゃねぇ、おれたちゃそんな人種じゃねぇだろうが。大体社長なんて人種は多かれ少なかれ、何の主義主張もありっこねぇ、真っ当なヤツがやる家業じゃねぇ。平気で嘘はつくは、人は騙すのが当たり前のヤツらだ。もともとは真っ当だったかもしれないがそうならなきゃその立場にいられない寂しいヤツらなのかもしれない。オレたちはそんな人間不信を絵に描いたような芸術の世界にゃ生きられない。オレたちゃ、まっとうな世界の人間だ。
2014/3/30