仏軍風聞

この数週間なにもない。小康状態ってんだろうな。何事もつつがなくが一番だ。こんなとろで危ない目にあってると、このつつがなくってのがどれほどありがたいか身にしみる。このまま、こっちから何もしなければあっちもなにもしないだろうし。あっちだって、戦闘なんて危ないこと絶対したいと思っちゃいないんだから。こうやってだらだらしているうちに休戦協定なんてことで、はい、サヨウナラ、バイバイってことにならないかな。やだね、ホントに、いつまでこんなことやってんだろう。
だいたい、どこのどいつがこんなくだらない小競り合いを始めたんだか。あっちもこっちもだが、こんなところに送り込まて危ない目にあってる俺たちのようなのには、勝っても負けてもなーんの得にもなりっこないんだから。そもそも、日本の大晦日の紅白歌合戦じゃあるまいし、勝ったの負けたのって時代じゃないだろう。アナクロニズムも甚だしい。愛国心だのなんだのって偉そうに言うんだったら、言ってるヤツらがやらゃあいいんだよ。なんで俺たちのような真っ当に働いてるのが駆りだされなきゃならないの。おふくろと女房、二人でなんとかやってくれてんかな。早く帰らなきゃ、
こんなことに引っ張りだされて、はじめて知ったね。戦争映画やビデオゲームの戦闘ものとは違う。当たり前だよな、あっちは、いくらリアリティなんて言ったところで所詮は作り物、こっちは本物だ。ゲームのように何時も戦闘があるわけじゃない。戦闘なんてのほとんどありゃしない。あったらあったでそれが最後かもしれないけどな。それ以上にこっちには自然がある。自然ったってハイキングやキャンプに行くところのような生易しいもんじゃない。むき出の自然ってのか、通り過ぎるのならいざしらず、人が長居するようなところじゃない。
学校で衛生学なんてのをちょっとかじったのと、食品工場でバイトしてたから食い物と汚染の関係っての少しは知ってんだけど、ここは何から何までやばい。もともとやばいところに、これだけの人数があちこちから(病気もって)集まってきて糞尿垂れ流しだ。やばくない訳がない。言ってみりゃ、細菌汚染と感染症の百貨店だ。デパートやスーパー、ショピングセンターなんて言い方もあるけど、ここは死語となった百貨店がピッタリだ。このあいだだって、あれは間違いなく食中毒だ、それもウィルス性のやつだ。人数も人数だし、フツーだったら、保健所がでてきて大騒ぎでテレビにもでちゃう。でも、ここじゃなんともないんだよな。
ちょっと考えてみれば、おかしな話なんだが、戦闘で敵の銃弾を受けての死傷なんてのは想像以上に少ない。何がやばいかって、環境汚染というのか劣悪な居住環境だな。安全な水ってのがこれほど貴重なものだと思ったことなかったな。ここは、気温は高いし湿度もあって細菌やウィルスにはそれこそ最適環境じゃないかな。毒をもったわけの分からない虫も多いし、爬虫類から寄生虫まで、なんでもある。病気になりたかったら、ここで一週間も寝泊まりすりゃいい。それこそ一生分の病気って病気全部持って帰れる。何かでおかしくなって傷病兵なんてことで帰されるのが多いけど、完治する病気ならいいんだけど、一生尾を引くのもあるだろうな。まあ、玉に当たって名誉の戦死なんてのも冗談じゃないけど、そっちの可能性より病死の可能性の方が圧倒的に高いのが戦場ってもんだっての知ったね。
いい加減になんとかならないのかねこの住環境。ちゃちな紛争だけど一応国際紛争だ。ハイチじゃないけど色々なところから来てるから、どんな病気持ってきてるか分かったもんじゃない。そのうちコレラとかエボラとかでてきたしにゃ、もう戦どころじゃなくなっちゃう。似たようなごちゃごちゃ、毎年どっかでやってんだからWHOとかちゃんとした国際機関が国際紛争環境基準なんての決めて、その基準に準拠してなきゃ、紛争やっちゃいけないっての作ったらどうなんだろうね。そうすりゃ、どこもおいそれと紛争なんて始めないだろうし。。。。何をバカなこと言ってんだろうね俺も、紛争するヤツらは、そんな機関の規定なんざ気にしないよな。でも戻ったら保健所に文句言っとかなきゃ。
なんだよ、急に。何?トツゲキ?なんだよ。聞き違いじゃないのか?それ。まさか“突撃”ってんじゃないだろうな?ウソだろう。よしてくれ、あの重いの持って走れっての?重量物運搬手当もでないんだろう?正気の沙汰じゃない。突撃ったら、俺達にどれほどの精神的、かつ肉体的負担を強いることになるのか分かってんのかよ。だから職業軍人ってのは嫌いなんだよ。社会的な視点が完全に欠落してんだよな。俺達に相談もしないで勝ってに決めるんじゃないよ。お前らにそんなことを勝手に決める権利はない。やるのは俺達なんだからさ、俺達がやるかやらないかを決める基本的人権に基づいた権利ってもんがあるだろうが。第一、俺達が出て行ったら、あっちは後退するって保証はあるんか?まさか、でてきた俺達を歓迎してくれるって訳でもあるまいし。俺達の肉体的、精神的苦痛もかなりのものになるけど、俺達に突撃されたあっちの肉体的および精神的苦痛、社会的、組織的動揺ってのはどのくらいあるんかな?俺達のよりあっちの方が大きんかな?たいして驚かないんかな?どうなんだろう?
ちょっと待ってよ、だいたい、なんで突撃なんかしなきゃなんないの。もし、間違って玉にでも当たったら痛いだろうし、あたりどころが悪けりゃ、そりゃ一生もんだ。よそうぜ、今日も平和な一日がつつがなく終わろうとしているのに、その平和を乱してまでする価値のあるもんと言ったら一つだけ、分かるか?そう、撤退だけだ。この数ヶ月、考えて考えて、考えぬいてやっとたどり着いた結論だ。どう考えてもこれしかない。違うっていうんなら、戦争心理学および戦争社会学的観点も含めて違うって説明してもらいたいね。はじめに言っとくが選択肢は二つだ。つつがなく終わろうとしている今日一日のささやかな幸福を神に感謝するか、それとも正々堂々と撤退するかだ。どこをどうころんでも、トツゲキはない。疲れるし危ないし、冗談じゃない、行きたきゃ勝ってに行け。ただあっちの感情を害することだけはするなよ。おとなしく行って、おとなしく帰って来い。就寝時間くらいまでに帰ってくればつまらん武勇伝ぐらい聞いてやるから。
2013/2/3